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「影響力増す中国 日本のアフリカ戦略は」(時論公論)

二村 伸  解説委員

日本が主導するTICAD・アフリカ開発会議の閣僚会合が10月6日と7日、東京で開かれます。地球最後のフロンティアとも呼ばれるアフリカは、人口12億、2050年には25億に達し、世界の4人に1人がアフリカ人になると言われます。その巨大な市場に世界の熱い目が注がれる中、日本でもアフリカの安定と発展、アフリカ諸国との関係強化に向けた取り組みが続いています。莫大な資金を背景に急速に影響力を増す中国に対して日本はいかに存在感を高めていくのか、その課題と今後の取り組みについて考えます。

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アフリカといえば何を思い起こすでしょうか。

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貧困や飢餓、紛争など暗いイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。貧困から抜け出そうと多くの人が祖国を離れ、政治腐敗も深刻です。一方で、エチオピアやコートジボワールのように8%台の経済成長を続ける国や内戦の悲劇を乗り越え「アフリカの奇跡」とまで呼ばれるようになったルワンダなどもあり、数千億円規模の建設プロジェクトが各地で立ち上がっています。その格差は大きく課題も山積していますが、若年層が急増し多くの可能性を秘めたアフリカには世界中が注目しています。ひときわ目立つのが中国です。

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先月、北京で開かれた「中国・アフリカ協力フォーラム」には、アフリカの36か国の大統領を含む53か国の代表が一同に会しました。開会にあたって演説した習近平国家主席は、今後3年間で総額600億ドル、日本円でおよそ6兆8000億円規模の支援を行うことを表明しました。注目されたのはその額だけではありません。具体的な支援策としてインフラ開発といった箱モノだけでなく、人材育成や環境保護、保健、平和などといった、日本が得意としてきた分野にも積極的に取り組む姿勢を打ち出したことです。また、会議で採択された北京宣言では、アフリカが中国の一帯一路の歴史的・自然的延長であり、重要な参加者だとして、一帯一路構想にアフリカを取り込もうとしている中国の狙いが明記されました。中国のアフリカ政策には、経済成長に不可欠な資源の確保とともに政治的な思惑が色濃く反映されています。

一方、日本はアフリカにどのように向き合ってきたか見てみましょう。

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日本は、冷戦終結から間もない1993年に各国に先駆けてアフリカ開発に関する首脳級の国際会議、TICAD・アフリカ開発会議を立ち上げました。中国がフォーラムを立ち上げる7年前です。以来これまで6回の会議を開いてきました。
TICADⅣ(福田総理)では、アフリカへのODA・政府開発援助を倍増することを発表、初めてアフリカでの開催となったおととしのTICADⅥ(安倍総理)では、官民あわせて300億ドルに上る投資を行う方針を表明しました。

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しかし、こうした日本の息の長い取り組みにもかかわらず、アフリカでは今、中国が圧倒的な存在感を見せつけています。アフリカに進出している企業は、日本の400社に対して中国はおよそ1万社に上り、そこで働く中国人労働者は20万人をこえていると言われます。アフリカへの投資額も、日本は2016年末時点で100億ドル、中国の4分の1です。今や中国はアフリカ最大の貿易相手国です。

世界で発言力の強化を狙う中国は、アメリカのトランプ政権がアメリカファーストを掲げて内向き志向を強めている間にさらにそのスピードを加速しています。

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南シナ海で、人工の島の軍事拠点化を押し進め、ミャンマーやパキスタン、アラブ首長国連邦で巨額の資金を投じて港を建設、スリランカでは港を借金のかたに差し押さえるかたちで手に入れました。
アフリカも例外ではありません。日本の自衛隊も拠点を置くアフリカ北東部のジブチで、軍事拠点化を進めています。スエズ運河から紅海を経てアデン湾につながる海域は、世界の船舶の3割が通過する要衝です。その入り口に中国はアジア以外では初の海軍基地を建設し、アフリカの窓口として開発を進めているのです。
中国はアジアからアフリカにかけて、経済圏構想の「一帯一路」と、各地の港を確保してエネルギーの輸送や海洋進出を進める「真珠の首飾り」戦略を一体化させて推進しているのです。

アフリカの首脳との会議は、日本や中国だけでなくEUや韓国、トルコなどでも行われています。そうした中で日本はどうすればアフリカで存在感を高められるでしょうか。
資金力で張り合っても中国にはかなわず意味もありません。

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重要なのは、日本の強みをいかすことです。米作りや灌漑、それに養殖の技術移転によって食料の自給率を高めることや、保健衛生や医療などの分野で技術指導や人材育成を通じて安全な暮らしを実現させることなど、現地の人たちの自立や雇用の創出につながる支援です。中国も「技術移転しない」、労働者を連れて来るだけで「雇用を生まない」などといった批判を浴び、最近は支援の仕方を見直し始めていますが、地道な支援は日本に1日の長があります。長年の経験をいかして日本らしい質の高い支援がますます重要になってきます。             
        
民間の役割も小さくありません。企業でも現地の人づくりに力を入れているところもあります。また、第三国との連携が今後のアフリカ進出のカギを握っていると専門家は話しています。日本だけでは中国に太刀打ちできないが、他の国と力を合わせれば大きな力になるというわけです。その一例が日本企業がフランスの大手商社と組んで西アフリカで自動車販売などを始めたケースです。インドやモロッコ、トルコなどとも連携の動きが見られます。

また、これからは中小企業もアフリカに進出する時代だと専門家は言います。縮小する日本の市場だけではやっていけないからです。来年のTICADⅦ首脳会議では、中小企業の進出も重要なテーマになりそうです。そしてアフリカで信頼を得るためには日本らしいきめ細かなサービスと、誠実さが求められます。

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中国は対アフリカ外交で5つの「No」を掲げています。各国の開発政策に干渉しない、内政に干渉しない、押し付けをしない、支援に政治的条件をつけない、そして投融資では政治的利益を求めないというものです。中国を支持する国にはいくらでも金を出す、何に使おうと口出しはしない、これが基本的な姿勢ですが、これでは人権侵害や政治腐敗はなくなりません。多額の債務を抱えてますます苦境にあえぐ国も多く、いずれ中国に飲み込まれてしまうのではないかといった不安も強まっています。政治的条件をつけない、政治的利益を求めないというのは、そうしたアフリカの国々の懸念に配慮したものとも言えます。借金漬けとなった国をいかに立て直すか、TICADでもこの問題が話し合われますが、中国が自国の利益を追い求めるだけでなくアフリカの健全な発展と自立のために大国として責任ある行動をとるよう日本をはじめ国際社会が働きかけていくことが必要でしょう。一方で、日本は中国と競争だけでなく、協力できる部分は協力しあうことも必要になってくると思います。

日本では遠いアフリカへの支援が何の役に立つのかと疑問視する声もときおり聞かれます。しかし、日本の経済に欠かせないだけでなく、国際社会で日本が信頼され、アフリカの国々に日本の味方になってもらうためにもアフリカの自立と安定を支えることは重要です。
今週末開かれるTICADの閣僚会合は、来年の首脳会議に向けて投資の促進やビジネス環境の整備など様々な分野の協議が行われます。また、今年末には国連総会で、難民支援のための国際的な取り組みがまとめられ、日本でも年明けから具体的な対策に乗り出すことになっています。日本がアフリカとの距離を縮め、信頼を勝ち得るためにどう向き合うのか、今こそ日本の外交力と企業の覚悟が問われているように思います。

(二村 伸 解説委員)

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