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「内閣改造 沖縄県知事選 今後の課題」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員
西川 龍一  解説委員

日本の政治で、大きな動きが続いています。10月2日、第4次安倍改造内閣が発足。一方、9月30日の沖縄県知事選挙では、野党が支援した玉城デニー氏が初当選しました。安倍総理大臣の人事と沖縄県知事選挙から見えてきた国と地方の関係など今後の課題について考えます。

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伊藤)まず、内閣改造と自民党役員人事のポイントは、安倍総理大臣が、自民党総裁選挙で3選し、政権の総仕上げとなる具体的な成果を残すため、重要課題に取り組む政権の骨格は維持したことです。

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今の政権の発足以来、閣内で支える麻生副総理兼財務大臣と菅官房長官が留任。党側では二階幹事長、岸田政務調査会長が再任されました。また、河野外務大臣、ロシアとの経済分野での協力を担当する世耕経済産業大臣、茂木経済再生担当大臣も留任。アベノミクスの推進や北朝鮮への対応、アメリカやロシアとの交渉という重要課題で政策の継続性を重視した形です。さらに、党側では、憲法改正の自民党案の取りまとめをにらんで総務会長に加藤前厚生労働大臣、来年の統一地方選挙、参議院選挙に備え、選挙対策委員長に甘利元経済再生担当大臣を起用し、政権の次の課題に安倍総理大臣が信頼する布陣で臨む姿勢が見て取れます。

西川)沖縄問題では、菅官房長官が、引き続き沖縄基地負担軽減担当を務めることになりました。ここにも政策の継続性を重視する姿勢がうかがえます。一方で、初入閣が12人。安倍内閣で最も多くなったことも特徴です。

伊藤)自民党の各派閥は、いわゆる「閣僚待望組」を多く抱えています。派閥の意向も尊重しながら、新人を多く入閣させることで、できるだけ不満を抑える。さらに総裁選挙で争った石破派からも閣僚を起用することでバランスを取り、党内の安定を維持する狙いがあるものと見られます。

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西川)今回の人事を前に、9月30日、沖縄県知事選挙が行われ、国政野党の多くが支援した前衆議院議員の玉城デニー氏が、自民・公明両党などが推薦した前宜野湾市長の佐喜真淳氏らを破り、初めての当選を果たしました。

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伊藤)安倍政権としては、この選挙で勝利し、長年の懸案である普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐる県との対立を緩和し、協調路線に転換することに期待していただけに痛手です。
沖縄県知事選挙の結果を分析し、今後の課題を考えます。まず、玉城さんの勝因です。

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NHKが投票日当日に行った出口調査で、投票した人の支持政党を見ると、自民党支持が33%。特に支持する政党がない、いわゆる「無党派層」が41%でした。このうち、自民党支持層については、80%あまりが佐喜真さんに投票したと答えました。これに対し、玉城さんは、野党の支持層を着実に固めた上に、「無党派層」のおよそ70%から支持を得ました。翁長知事が在任中に突然、死去し、その遺志を継ぐという玉城さんの訴えが、無党派層に浸透し、支持を広げたことが、与党の強力な組織力を上回ったといえます。

西川)勝敗を分けたのは、選挙の最大の争点とされた辺野古移設の是非への対応だったと思います。

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NHKの出口調査で、沖縄の基地問題に対する政府の進め方について評価するという人は35%だったのに対し、65%が評価しないと回答しています。さらに普天間基地の辺野古移設の是非についても質問しました。こちらも容認が38%に対し、反対は62%。辺野古の移設予定地では護岸の一部の工事が進み、土砂の投入が可能な状態になっている中でも、6割を超える人が移設に反対する状況に変わりはないということを示す結果となりました。
選挙期間中、玉城さんは、はっきり移設を「阻止する」と訴えました。これに対し、佐喜真さんは、移設そのものについての考えは最後まで明らかにせず、「対立より対話」と政府との関係修復を前面に打ち出しました。これがむしろ有権者、特に無党派層に争点隠しと受け取られたのではないかとの指摘があります。

西川)玉城さんは、辺野古移設にどういう姿勢を取っていくのか。
玉城さんは、1日、「辺野古新基地建設の反対と普天間基地の1日も早い閉鎖返還を日本政府やアメリカ政府に求めていきたい」と述べました。基地問題への対応は、「翁長路線」の継承で、移設阻止の方針は崩さないと思います。
ただ、移設を阻止するための妙案があるわけではありません。県は、翁長知事が決めた辺野古の埋め立て承認の撤回を8月31日に行い、現在、移設工事は止まった状態です。ただ、国は、工事の再開に向けて法的な対抗措置をとる方針で、撤回の効力を一時的に失わせる「執行停止の申し立て」などによって、工事が再開されればどうするのか。このあと、市民団体が署名を集め、県に直接請求した辺野古移設の是非を問う県民投票が実施される見通しですが、結果に法的な拘束力はなく、影響は限定的との見方があります。

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伊藤)普天間基地の返還合意から20年あまり。ことし政府は、防衛力整備の指針となる防衛大綱の見直しを予定しています。改めて、国際情勢や安全保障環境の変化とアメリカ軍の存在の必要性、そして沖縄の基地負担軽減について、丁寧に議論し理解を求める努力が必要ではないでしょうか。

西川)沖縄県にとっては、経済や地域の振興も大きな課題です。玉城さんは、最初から分断や対立という立場ではないとも述べています。経済、地域振興では国との協調が必要なこともあります。翁長県政の4年間は、政府との対立が続く中で振興予算が減額されて来ました。一方で、観光客数がハワイを超えるなど、沖縄経済そのものは好調で、国に頼らない形で発展を目指す動きもあります。そうした中で、国が基地問題などで強引な手法を取れば、これまで以上に国と県の間に生じている溝を深めることにつながりかねないとの指摘があります。

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伊藤)沖縄県では、知事選挙や国政選挙で、与野党が激しい戦いを続けてきました。今回の結果が、来年の統一地方選挙や参議院選挙に与える影響について考えます。野党側は、今回の選挙結果は、「安倍政権の強引な政治姿勢への不満を示している」として、秋の臨時国会で攻勢を強めるとともに、来年の参議院選挙で、定員がひとりの「1人区」での候補者の一本化を中心に、選挙協力の調整を急ぐものと見られます。一方、与党側にとって、今回の結果は、自民党総裁選挙で、石破元幹事長が、党員票で善戦したことに続いて、政権の政治姿勢に対する違和感や不満を抱く声が、地方には、少なからずあることを示したものといえると思います。こうした声が広がっていけば、統一地方選挙、参議院選挙への不安材料です。総力戦で敗れた原因を検証し、どう態勢を立て直していくのかが課題になりそうです。

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西川)安倍総理大臣は、選挙の結果を真摯に受け止め、沖縄の振興や基地負担の軽減に努める考えを示しました。そのためには基地問題を沖縄だけに矮小化しない視点が重要だと思います。今回の選挙で、玉城さん、佐喜真さん、双方が一致して主張したのが日米地位協定の見直しです。沖縄では、アメリカ兵や軍属による事件、事故が起きるたびに、地位協定の見直しを求める声が上がり続けていますが、政府は、その都度、本格的な見直し協議は難しいとして、運用面での取り扱いにとどめてきました。地位協定の見直しは、全国知事会も沖縄の思いを共有する形で提言をまとめ、政府やアメリカ大使館に提出しています。国はこうした問題に真剣に取り組む必要があります。

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伊藤)安倍総理大臣が、今回の人事で目指したのは、より安定した政権運営です。ただ、国会や自民党内で、いわゆる「1強」が続く状況と、地方や国民が政権を見る目には、温度差があるようにも思えます。安倍政権にとっては、地方の声にいかに耳を傾けて、理解を求めていくのかが、いっそう重要になっていくのではないでしょうか。

(伊藤 雅之 解説委員 / 西川 龍一 解説委員)


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