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「消費増税まで1年 今後の課題は?」(時論公論)

今井 純子  解説委員

消費税率が今の8%から10%に上がるまで、まもなく1年を切ります。これまで、2度、増税を先送りしてきた安倍総理大臣も、今回は「予定通り引き上げる」と繰り返し発言しており、今度こそ、消費税率が上がる可能性は高いというのが、多くの人の見方です。しかし、景気回復の流れを途切れさせることなく乗り切れるのか、課題も残されています。この問題について考えてみたいと思います。

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【3度目の正直か】
まず、これまでの経緯です。
▼ もともと消費税率は、「財政の健全化」と「社会保障の充実・安定」を同時に目指す「税と社会保障の一体改革」の中で、2014年4月に8%に引き上げた後、2015年10月に10%に引き上げることが決まっていました。
▼ それが、2014年11月。安倍総理大臣は、「8%への引き上げの反動が長引いて、経済状況が厳しい」として、先送りを表明。
▼ その後「リーマンショックのような重大な事態が起きない限り、予定通り引き上げる」と繰り返してきましたが、2016年6月に、突然「世界経済は、危機に陥るリスクに直面している」として、再び先送りを表明しました。

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(今度こそ?)
 前に2度、先送りを表明したときは、いずれも、増税まで1年を切った時点でした。ですので、今回も、まだ、わからないという見方はあります。しかし、今のところ、安倍総理は、「予定通り引き上げる」という姿勢を崩していません。また、前の2回の時には、有識者や経済学者を招いた会合を開いて、増税の是非について意見を聞きましたが、今回は、そうした動きもありません。予定通り来年10月に、消費税率は10%に引き上げられるのではないか。というのが、多くの専門家や経済界の見方です。

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【背景には諸政策】
 経済の先行きに不安材料が、ないわけではありません。そうした中、今度こそ、税率を引き上げるとしたら、なぜなのか。その背景には、増税をきっかけに、一気に消費が落ち込むことがないよう、この間、様々な対策を講じてきたことが考えられます。主に2点。軽減税率の導入と、収入が増える分の使い道の変更です。

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(軽減税率の導入)
 まず、軽減税率です。2015年の年末に、政府・与党は、消費税率が10%に上がった時に、多くの人の増税の痛みを和らげる狙いで、生活に欠かせない食料品(生鮮食品だけでなく、弁当などの加工食品も含みます)。それから、酒を除いた飲み物。定期購読の新聞。こうしたものについては、8%の税率に据え置く方針を決めました。食料品や飲み物は、毎日のように買うだけに、家計の助けになります。

(増収分の使い道の変更)
 そして、2つ目。去年、政府は、税率が10%になった時に増える税収の使い道について、借金の返済にあてるはずだった4兆円のうち、1兆7000億円について、
▼ 幼児教育や保育の無償化
▼ そして、所得が低い世帯を対象とする、大学など高等教育の減免
にあてることを決めました。子育て世代では、これをあてにしている人は少なくありません。

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(試算)
 増税で、家計の負担は、年間、5兆6000億円増えるはずでしたが、こうした対策のおかげで、負担は、およそ2兆2000億円に軽減されると、日銀は試算しています。5%から8%になった2014年度には、家計の負担がおよそ8兆円増えましたので、今回、影響は4分の1程度にとどまる計算です。
3度目の増税先送りをするとなると、いまだに、増税に耐えられる経済の建て直しができていないのか。アベノミクスは失敗ではないのか。と、いう批判も避けられません。ここまで、対策をとってきて、今の経済情勢であれば、増税に踏み切っても経済の大きな落ち込みを避けられるのではないか。安倍総理には、そういう考えがあるように思えます。

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【今後の課題】
 しかし、増税のあと、景気回復の流れを途切れさせることなく乗り切るには、官民ともに課題が残されています。

 まず、新しく導入される軽減税率への対応です。
▼ 軽減税率で税収が減る分のうち、まだ6000億円分の財源が確保できていません。去年の税制改正で決めた、たばこ税の増税や年収の高いサラリーマンなどへの所得税の増税分を充てる案もありますが、それでも2700億円分が足りません。他の税を引き上げるのか。なんらかの予算をカットするのか。税制改正の大綱をまとめる年末までに決めなければなりません。
▼ また、ファストフード店やフードコートでは、同じ食べ物を買っても、その場で食べる場合は外食扱いで10%の税率、持ち帰る場合は食料品として8%の税率となります。トラブルを避けるための対応の検討も多くの店ではこれからです。

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(消費の反動減対策)
 さらに、政府はもう一段、反動減対策に力を入れようとしています。前回8%に税率が上がった時に、直前の駆け込み需要があまりに多かったことから、その後の、反動減が深刻になり、当初想定していた以上に、経済の足を引っ張る要因になったと分析しているからです。今回は、思い切った対策を講じるとしており、具体的には、
▼ 増税の負担が重く、駆け込み需要と反動減が発生しやすい、住宅と車について、減税措置を検討するほか。
▼ 増税後に、増税分にあたる「2%還元セール」を行う。あるいは、増税前に値上げをして増税のタイミングでは税込の価格が変わらないようにする。こうした、いっせい値上げを避けるための対応を事実上推奨すること。
▼ さらに、体力のない中小企業や零細企業、商店街の売り上げが減らないよう対策をとること。
政府は、来年度の予算編成に向けた歳出削減の取り組みとは別枠で、こうした対策を検討するとしています。

(反動減対策は絞るべき)
 確かに、増税後の反動減をやわらげたい思いはわかります。ただ、すでに軽減税率の導入、そして、借金を返済するはずだったおカネを、幼児教育の無償化などに使うことも決まっています。その上、さらに、増税を理由にバラマキをするのであれば、財政の健全化をめざすという、増税の狙いに反することになりかねません。効果的な対策にしぼることが欠かせません。

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(本当に大切なのは、長期的な対策)
 その上で、本当に大事なのは、長期的に消費が落ち込むのを防ぐことではないでしょうか。こちらは、収入のうち、どのくらいを貯蓄に回したかを示す「貯蓄率」の推移です。将来、年金がもらえないのではないか。だから、自分で備えるしかないと考えて、若い世代を中心に、おカネを使わず貯める動きが強まっています。増税をきっかけに、一段と節約志向が強まり、消費の冷え込みが続く心配があります。それを避けるためには、
▼ まず、企業が増税分を超える賃金引上げを実現して家計の力を増すことが、決定的に大事です。企業は今年度も業績好調で、抱える現金・預金も一段とつみあがっています。余裕はあるはずです。
▼ その上で、おカネを使ってもらうには、政府は、持続可能な財政・社会保障の制度を整えること。国民にとって痛みを伴うことがあるかもしれませんが、将来への不安を払拭して、消費を支えるには、こちらも欠かせないでしょう。

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 株価は、きょう、26年10ヶ月ぶりの高値水準まで上がりました。このままいけば、来年1月には、戦後最も長い景気回復ということになります。この流れを途切れさせることなく消費増税を乗り切るためにも、官民挙げて、長期的な視点での取り組みに力を入れて欲しいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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