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「日米首脳会談 どうなる『通商』『北朝鮮』」(時論公論)

神子田 章博  解説委員
増田 剛  解説委員

国連総会のため、ニューヨークを訪れている安倍総理大臣は、トランプ大統領と日米首脳会談を行いました。両首脳は、日米物品貿易協定の締結に向けて、農産物などの関税を含む2国間交渉を開始することで合意しました。そして、交渉の継続中に、アメリカが検討する自動車の関税措置は発動しないことを確認しました。一方、北朝鮮問題では、2回目の米朝首脳会談に向けて日米が緊密に連携するとともに、拉致問題の解決のため協力していくことを確認しました。経済担当の神子田解説委員とともに、首脳会談の結果を読み解き、今後の日米関係の行方について考えます。
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(増田)
まず、通商問題です。今回の合意では、日本側が避けていた二国間協議を始めることになりましたね?
(神子田)
もともと日米間では、アメリカが二国間の自由貿易協定を求めていたのに対し、
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日本側は、アメリカにTPP=環太平洋パートナーシップ協定へ復帰してもらうよう求めていました。両者の間には深い溝がありました。しかしアメリカは、輸入車に対して25%もの高い関税をかけることを検討するなど、態度を硬化させました。このため日本としても、何らかの対応を示す必要に迫られ、日米物品貿易協定にむけた二国間交渉の開始で合意しました。これによって、トランプ大統領からすれば、「二国間交渉をいやがっていた日本がようやく応じた」と成果を誇ることができるようにする。いわば相手に花をもたせた形です。その一方で、新たな交渉は、あくまでもモノの貿易に限定されたもので包括的な自由貿易協定ではないとされています。というのも、日本はTPPからアメリカが離脱した際、残る10か国に対し、いつかはアメリカにTPPへ復帰してもらうことを前提に、アメリカ抜きのTPP11で合意するよう働きかけた経緯があるからです。「新たな日米交渉はTPPのような包括的な通商交渉ではない」とすることで、アメリカのTPP復帰の可能性を残し、他の加盟国に対しなんとか対面をたもった形です。
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(増田)
日米双方が合意できるぎりぎりの道をさぐったようですが、今回の会談の成果をどう評価しますか?
(神子田)
今回の会談では、トランプ政権が検討している自動車への25%の関税を回避することが最大の焦点でした。
日本からアメリカへは年間170万台の車が輸出される一方で、アメリカから日本へは1万数千台程度にとどまっていて、巨額の貿易赤字を生む要因となっています。トランプ大統領からすればアメリカの雇用を奪うゲンキョウで、輸入車への高関税を検討する背景となっています。今回の日米合意では、両国が交渉を続けている間は、この関税を発動しないという確約をアメリカ側から得たということで、ひとまず高関税を回避できた。これは評価してよいと思います。
ただ気になるのは、今後の交渉のなかで、アメリカが、日本からの輸入車の台数が一定量を超えた分に高い関税をかけるという措置を持ち出してこないかどうかです。というのは、さきに行われたメキシコとのNAFTA=北米自由貿易協定の見直し交渉では、メキシコから輸入する車の数が年間240万台を超えた場合に、最大で25%の関税を適用するという合意を飲ませているからです。
この措置は、事実上あらかじめ決められた数しか輸入させないという意味で、自由競争を原則とする国際貿易ルールの精神に反するのではないかという指摘があります。
安倍総理大臣は、きのうの国連での演説で、今後も自由貿易体制の強化にむけ努力を惜しまないと宣言しました。であるなら、日本がこの措置の対象となるかどうかにかかわらず、自由貿易の精神に反する行動に対してはしっかりと批判する姿勢が求められていると思います。
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(増田)
今後の関税引き下げ交渉では、何が焦点となりますか?
(神子田)
農産物の関税引き下げです。トランプ大統領は、自分からTPPを離脱したにも関わらず、アメリカの農家がTPPで合意されたような関税引き下げの恩恵が受けられないことに不満を強めています。例えば牛肉の関税です。TPP協定では、現在38点5%の関税を最終的には9%まで引き下げることになっていますが、アメリカはずっと38点5%のままで、TPPに加わるライバルのオーストラリアに比べて極めて不利な立場となります。日本に関税の引き下げを求めてくるのは必至です。
この農業分野をめぐって会談後の共同声明では、「日本としては、TPP協定など過去に締結した協定の水準を超える関税の引き下げには応じない」という趣旨の文言が盛り込まれました。アメリカもそうした日本の立場を尊重するとしています。
しかし、これは必ずしも交渉の結果を約束したものとはいえないと思います。トランプ政権は、これまでTPPではなく二国間で交渉すれば、より有利な条件を引き出せると国内にアピールしてきましたので、今後の交渉の結果、TPPを超える関税引き下げを求めてこないかどうか警戒が必要です。
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増田さん、このようにトランプ大統領はこと通商政策面では、アメリカ第一主義、我が道を行く姿勢を貫き、日本も対応に苦慮しているわけですが、日本にもかかわりの深い北朝鮮問題では、どういう話し合いが行われたのでしょうか?
(増田)
北朝鮮をめぐる国際情勢は、ここに来て激しく動いています。先週、韓国のムン・ジェイン大統領とキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の南北首脳会談が行われ、両首脳は「ピョンヤン共同宣言」に署名しました。この中では、非核化に関して、「アメリカの相応の措置に従って、ニョンビョンにある核施設を永久に廃棄する用意がある」とされました。また、トンチャンリにあるミサイル発射場についても、「永久に廃棄する」とされました。
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そして、米朝の仲介役を自任するムン大統領は、今週、ニューヨークでトランプ大統領と会談し、南北会談の内容について説明しました。この際、トランプ大統領は、2回目の米朝首脳会談について「そう遠くない時期に開催される」と述べ、強い意欲を示しました。中間選挙を控え、外交成果をアピールしたいトランプ大統領。かなり前のめりの印象を受けます。一方、ムン大統領は、「非核化を促進する方法のひとつが終戦宣言だ」として、北朝鮮が求めている朝鮮戦争の終戦宣言の必要性を強調したものとみられます。
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(神子田)
こうした中で、日米首脳会談となったわけですが、日本はこの問題についてどういうスタンスをとっているのでしょうか?
(増田)
日本は、「北朝鮮が非核化の具体的な行動を取るまで、終戦宣言には応じるべきではないし、国連決議に基づく制裁も維持すべきだ」という立場です。非核化のメドも立たないまま、北朝鮮の体制保証につながる終戦宣言だけを食い逃げされるわけにはいかないというわけです。安倍総理は今回、トランプ大統領にこうした点で釘を刺したものとみられ、結果として、両首脳は、国連決議が完全に履行されるよう緊密に連携していくことを確認しました。ただ、奔放なトランプ大統領が、実際に米朝首脳会談が行われた時、どのように振舞うかは見通せません。安倍総理としては、今後も、あらゆる機会で、釘を刺しておく必要があるでしょう。
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(神子田)
今回の会談では拉致問題の解決をめぐっても日米間の協力が確認されましたね。
(増田)
拉致問題は、安倍政権の最重要課題のひとつです。今回の会談でも、解決に向けて協力していくことを確認しました。自民党総裁選挙で三選を果たし、残り3年の任期を手にした安倍総理は、任期中の拉致問題の解決に照準を定めているようです。会談後は、「私自身がキム委員長と向き合わなければならない。拉致、核、ミサイルの問題を解決し、不幸な過去を清算し、北朝鮮との国交を正常化する」と述べ、日朝関係の改善に強い意欲を示しました。
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(神子田)
北朝鮮問題をめぐっては、日米間の連携が一段と重要になる一方で、通商問題では激しい交渉も予想されます。今後のアメリカとの外交関係、一筋縄ではいかないようですね。
(増田)
日米関係は、通商問題、北朝鮮問題と、課題が山積しています。今回の国連演説で、「グローバリズムは拒否する」とまで公言したトランプ大統領。自国第一主義にまい進するアメリカとどのように向き合うのか。国際協調と自由貿易体制で繁栄を享受してきた日本にとって、対米関係は、かつてなく難しい舵取りが求められる局面になっています。

(増田 剛 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)

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