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「自民党総裁選 安倍首相3選 政権の課題」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

自民党総裁選は、安倍総理大臣が、石破元幹事長を破って3選を果たしました。
選挙結果を分析し、今後の安倍総理大臣の政権運営の課題を考えます。

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まず選挙結果です。

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国会議員票と党員票あわせて有効投票807票のうち、安倍総理大臣が553票、石破元幹事長が254票。安倍総理が、全体のおよそ7割の得票を得て、大差で3選を果たしました。安倍総理が、国会議員票の82%を獲得し圧倒したことが大差につながりました。
その背景には、安倍総理が、自民党の7つの派閥のうち5つから支持を受け、党内基盤が安定していることがあります。また、自民党にとって、国民の信任を得た総理総裁だという点もあります。国政選挙で5連勝し、国会で安定した勢力を確保し、実績を残している総理総裁を交代させるには、余程の理由が必要だという意識が、選挙を経験した国会議員には、強かったのだと見られます。このため、今回の総裁選挙は、「総理大臣を選ぶ選挙」というより「政権の信任投票」の色彩が強く、安倍総理に有利な状況でした。こうした情勢の中で、石破元幹事長は、党員票で45%を獲得し、善戦しました。
国会議員と党員の投票結果になぜ大きな違いがあったのでしょうか。党員の間では、森友学園や加計学園をめぐる問題など、行政や政治に対する国民の不信が払拭しきれていないことへの不満や、長期政権ゆえの「おごり」や「緩み」を強く戒める声が根強くあることを示したといえると思います。
一方、石破氏にとっては、党員票で善戦したことで、「ポスト安倍」としての存在感を残すことになりました。安倍総理と石破氏が、どのような距離感を取っていくのかが、今後の政局の一つの注目点になりそうです。

ここからは、自民党総裁の3年間の任期について考えます。

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安倍総理は、今回が最後の総裁選挙と位置づけ選挙戦に臨みました。ただ、政治の世界では、リーダーの任期が限られれば、求心力が次第に低下していくことは避けられないといわれます。
安倍総理が、この総裁選挙で目指したのは、できるだけ求心力を維持しながら、政策を実現し、「ポスト安倍」にも影響力を残すことだといってよいでしょう。ギリギリの勝利で終わるようでは、安定した政権運営は望めません。今回、大差の勝利によって、求心力の維持に向けて、まずは、第一の関門をクリアできた形です。

安倍総理は、来月はじめに内閣改造と自民党役員人事を行う方針で、総裁選挙後の記者会見で、「しっかりとした土台の上で、幅広い人材を登用したい」と述べました。「しっかりした土台」という表現などから、今の政権発足から総理を支えてきた麻生副総理兼財務大臣、菅官房長官、党内をまとめ総裁3選に道筋をつけた二階幹事長は続投させ、人事の骨格は維持されるという見方があります。そこで注目されるのが麻生副総理兼財務大臣です。

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安倍総理は、これまで、「アベノミクスを二人三脚で進めてきた」と述べるなど、麻生氏の手腕に強い信頼を示しています。一方で、財務省の文書改ざん問題で政治責任は十分に果たされていないという批判もあります。アベノミクスの推進と政治責任をどう考えるが、改めて問われます。
また、今回の人事には、国会議員票で安倍総理が圧勝したことによる難しさもあります。安倍総理を支持した議員の中には、要職につきたいという期待が強いでしょう。しかし、安倍総理に投票した国会議員は80%を超え、ポストはとても足りません。人事の不満をどう抑えるか、人事の規模にも関係してきそうです。
「ポスト安倍」の処遇も課題です。安倍総理は、総裁選挙の期間中、「ポスト安倍は、たくさんいるので切磋琢磨してもらいたい」などと述べました。これは、「ポスト安倍」を決めて、育てていくという形ではなく、次をうかがう複数の人材を政権運営にどれだけ協力し成果を挙げるかを競わせることで、求心力の維持につなげる狙いがあるという見方もできると思います。

次に今後の政治日程から政権の課題を考えます。

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安倍総理にとっては、これからの1年間が極めて重要です。
今月30日には、沖縄県知事選挙が行われます。総裁選挙後の政権が順調に滑り出せるかどうかが、かかっています。
秋には、臨時国会が召集される見通しで、安倍総理は、憲法改正の自民党案の提出を目指す考えを示しています。ただ、与党の公明党は憲法改正に慎重な姿勢ですし、衆参それぞれで3分の2以上の賛成が必要な国会の発議や、その先の国民投票までの道筋が描けているわけではありません。
来年は、天皇陛下の退位と皇太子さまの即位があり、万全の準備が必要です。外交面では、G20・主要20か国の首脳会議が開かれます。アメリカをはじめ、関係改善を進めたい中国、そしてロシアも参加します。安倍総理は議長として、国際協調に向けてリーダーシップを発揮できるかどうかが問われます。
経済では、10月に、消費税率が10%に引き上げられる予定です。引き上げ可能な経済環境を整え、引き上げ後の景気の落ち込みを防ぐ対策も必要です。
そして、来年は、統一地方選挙と参議院選挙があります。参議院選挙は、安倍政権が、政策課題への取り組みや政治姿勢について、国民の審判を受けることになります。来年改選を迎える前々回、自民党が獲得したのは65議席。前回は56議席だったとことを考えると、勢力を維持するのは簡単だとは言えません。「選挙に強い」というのが、安倍政権の力の源泉であるだけに、国民の判断が、安倍総理の政権運営を大きく左右することになりそうです。

自民党総裁の任期中に、安倍総理は、後世に残るような成果を残したいところでしょう。そのために重要なのは、「何を実現し、何を次の政権に引き継ぐか」整理することだと思います。
政権の実績として強調してきた「経済と外交」から見ます。

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経済では、「デフレ脱却宣言」があります。これは、安倍政権の大きな政策課題を達成できたと表明することになります。いつ、どのような根拠で判断するのか、それにあわせて、日銀による大規模な金融緩和政策を縮小の方向に転換していくのかが重要なポイントです。
一方、外交は、政府の権限で交渉を進め、政府間の合意も可能です。
政権の最重要課題の一つである拉致問題を含め北朝鮮との関係で、安倍総理は、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長との直接対話に意欲を示しています。仮に、北朝鮮側が、これまでの姿勢を改め、拉致問題で、新たに情報を提供するなどの動きを見せるような場合、何をもって「拉致問題の解決」とするのか、これは北朝鮮が決めるのではなく、日本が判断しなければなりません。
また、ロシアとの関係では、先の首脳会談で、プーチン大統領が、平和条約を年末までに、前提条件をつけずに締結しようと提案したように、今後、ロシア側から、形を変えながら、新たな提案があった場合、どう対応するのか。外交は、相手があるだけに、こちらの言い分を100%通すことは難しいのも事実です。総裁任期の満了が近付けば近付くほど、相手側は、そこをついて、より大きな譲歩を求めてくることも予想されます。

大きな政策課題で、100点満点ではなく、不満が残る形であったとしても、決着をつけるのか、それとも次の政権に解決を委ねるのか。今後3年の自民党総裁の任期で、安倍総理大臣は、政治決断とその責任を引き受ける覚悟が問われることになります。そして、大きな決断をするのであれば、よりいっそう丁寧に十分な説明を尽くし、国民の理解を得る努力が求められると思います。

(伊藤 雅之 解説委員)

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