制度の見直し問題で大きく揺れるふるさと納税。
制度開始から10年。ついに大きな転機を迎えた、ということでしょうか。
ついに制度に待ったがかかりました。
ふるさと納税の利用者は、現在、急増中です。
ふるさと納税の額は、平成29年度は、前年度よりさらに3割増えて3653億円。
5年連続で過去最高を更新中、という勢いです。
しかし、この大人気のふるさと納税に対して
制度を所管する野田総務大臣が、待ったをかけました。
「ふるさと納税は存続の危機にある」と述べて
制度を抜本的に見直す考えを表明しました。
[ 何が焦点か? ]
そこで、
▼存続の危機、とはどういうことなのか?
▼いつ、どう見直すのか?
▼そして、最後に、ツケは誰が払うのか?
考えてみたいと思います。
[ “存続の危機”とは ]
野田総務大臣のいう、存続の危機。
改めて発言を見てみます。
「現在、ふるさと納税は存続の危機(中略)。
一部の地方自治体による突出した対応が続けば制度そのものが否定される(中略)。
やむを得ず制度の見直しの検討(中略)。」に入る、というものです。
なぜ、こういう発言になるのか?
それは、制度の本来の趣旨と実態とが、かい離している、
かけ離れている、ということがあるためとみられます。
そもそも、ふるさと納税の趣旨は、
納税者が、自分の自由な選択で、
ふるさとや応援したい自治体をサポートできるようにする、ということです。
なぜ、そういうことが必要かというと、
地方で生まれ育った人が、大人になると、都会に出て、そこで税金を納める。
地方は、せっかく人を育てたかと思うと、その成果は、都会にもっていかれる。
これでは不公平ではないか?
そこで、都会に住む人が、いま、住んでいるところに納めている税金の一部を
いわば恩返しとして、地方にも納められるようにしよう、
これが制度の趣旨です。
では、実態はどうか、というと、話は違ってきます。
実態は、自治体直営のカタログショッピング、ともいえる現状にあります。
どういうことかというと、多くの自治体が、少しでも、自分のところに
ふるさと納税をしてもらおうと、
お礼の品として、豪華な返礼品を出すようになりました。
肉や魚や酒などの、地方の名産品に始まり
やがて商品券などの金券や高額の家電製品、
さらにはキャンピングカーまで登場して話題になったりしました。
また一時は、返礼率、つまり返礼品の額が、
寄付の7割から8割に達するという
高額の返礼品が続々を登場しました。
ここで重要なのは、
実は、ふるさと納税というのは、税とは言っていますが、
正式には、自治体への寄付です。
ですから、自治体からすれば、
よそからお金を寄付してもらえるわけですから、
それに対して、どんなに高いお礼をしようが、基本的には、それは、その自治体の勝手。
何が問題なのか、ということにもなりそうです。
しかし、そうはいきません。
なぜなら、このふるさと納税のお金は、先ほども触れましたように、
もとは、住んでいる自治体に納める税金が、そのままスライドしているだけです。
所得に応じて一定の限度額までは、本来の税金から全額、控除される、
つまり、ひいてもらえるわけです。
ですから、結局、本人が実際に負担するのは、
この制度を使うときに手数料がわりに払う、2000円だけです。
言い換えれば、2000円さえ払えば、
何万円もする、豪華な返礼品がタダで手に入る、
大変お得な制度、ということになります。
なので、どんどん、ふるさと納税をする人が増えて、
ふるさと納税の額が急増しているわけです。
では、その結果、何が起きるか、というと、
その人が住んでいる自治体の税金が
それだけ減ってしまう、ドンドン流出してしまう、ということになります。
たとえば、東京、千葉、神奈川、埼玉の1都3県では、
住民がよそにふるさと納税したことによる税金の減収が
今年度だけで1166億円という巨額にのぼる見通しであることが明らかになっています。
住民サービスへの影響が懸念されます。
まさに仁義なき税金の奪い合い、という様相を呈しているわけで、
「ふるさと納税は存続の危機にある」というのは、このことをさしているものと思われます。
[ どう見直すのか? ]
では、どうすればいいのか?
総務省は、返礼品合戦を自粛するよう、何度も要請してきました。
具体的には、
▼返礼品は、寄付額の3割以下に抑える
▼地場産品以外を使うことは控える、などです。
しかし、その要請にも限界があることが明らかになりました。
総務省が今月1日時点でまとめた調査では、
246の自治体が、寄付額の3割を超える高額の返礼品を送っていました。
全体の13.8%にあたります。
また、外国産の牛肉や外国産ワインなど、
地元品以外の商品を返礼品にしている自治体も190にのぼりました。
そして、総務省が頭を抱えたのが、
174の自治体が、今後も返礼品のあり方を見直すつもりがないか、
または見直す時期が未定だと答えたことです。
総務省からすれば、開き直りともとれる回答です。
これが、今回の、大臣による見直し発言へとつながっていくわけです。
見直しの内容について大臣はこう発言しています。
「制度の趣旨をゆがめているような団体については、
ふるさと納税の対象外にすることもできるよう見直しを検討する」
つまり、高額な返礼品や、地場産品以外の品物を扱う自治体には
ふるさと納税をしても、税金からひいてもらえなくなる、
ということになりそうです。
そうなれば、もうその自治体へのふるさと納税は激減することになると思われます。
今後の見直しのスケジュールです。
総務省は今年11月に改めて返礼品の実態調査を行い、
問題のある自治体を特定することにしています。
その上で、来年の通常国会に改正法案を提出し、
早ければ来年4月からの実施を目指したい考えです。
今回の見直し表明に対し、地方の自治体からは、
「そもそも、なぜ3割なのか?
何が地場産品で、何がそうでないのか、基準を示してほしい」という声もあがっています。
総務省としては、できるだけ早く明確な基準作りが求められます。
[ ツケは誰が払うのか? ]
最期に、ツケは誰が払うのか、という議論も必要だと思います。
返礼品は、一言で言えば、形を変えた減税です。
本来は、自治体の行政サービスに使われるお金が
まわりまわって個人の利益として還元される。
しかも、所得が高い人ほど、たくさんふるさと納税ができて、
たくさん減税してもらえる、という仕組みです。
日本全体が、働く世代が減っていく中、
社会保障にしても、教育にしても、国も地方もお金がたりません。
そうした中で、貴重な税財源を、
お金もちほど減税される仕組みにどこまでまわし続けていいのか?
注目すべきなのは、
災害が起きたとき、返礼品を辞退して、
被災地にふるさと納税をする動きが広がっていることです。
これこそ、ふるさと納税の原点だと思います。
返礼品をもっと縮小するか、
それとも、返礼品の分は税金からひくことをやめるか、
ふるさと納税という考え方を維持していくためにも
様々な選択肢を検討すべきだと思います。
(竹田 忠 解説委員)