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「北朝鮮建国70年 米朝関係の行方は」(時論公論)

塚本 壮一  解説委員

北朝鮮は建国70年を迎え、ピョンヤンで大規模な祝賀パレードを行う一方、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長がアメリカ・トランプ大統領に書簡を送り、2度目の米朝首脳会談の開催を求めました。北朝鮮の動きの背景に何があるのか、北朝鮮が懸案の非核化をめぐるアメリカとの交渉にどう臨もうとしているのかを探ります。
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解説のポイントは3つです。
▼9日の記念行事から何が分かったか、▼近く首脳会談を行う韓国との関係、そして、▼アメリカとの交渉の行方です。
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●軍事パレードが抑制的になった理由
最初に、非核化をめぐる米朝両国の現在の状況を簡単に整理しておきたいと思います。キム委員長は今年4月の南北首脳会談、そして、6月、シンガポールを舞台にトランプ大統領との間で行った米朝首脳会談で非核化を実現するという意思を明らかにしました。一方で、北朝鮮は信頼醸成の一環として、朝鮮戦争の終戦を宣言することを最優先にすべきだと主張しています。これに対して、アメリカは、まずは北朝鮮が核施設の申告や非核化に向けた手順を明確にすべきだという立場で、交渉は進んでいません。
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9日の建国70年の行事は、こうしたなかで行われました。ピョンヤン中心部で開催された大規模な軍事パレードでは、これまでと異なり、大陸間弾道ミサイル・ICBM級のミサイルを登場させませんでした。また、国営メディアや外国メディアが生中継することも許可しませんでした。北朝鮮は、いま、アメリカとの交渉が停滞する中でも、トランプ大統領やポンペイオ国務長官への非難は自制しています。今回のパレードもアメリカを刺激することを明らかに避けています。
キム委員長が予想に反して演説を行わなかったことからもそれがうかがえます。今回の建国記念日を今年最大の重要イベントと位置づけていただけに、最高指導者として自らの言葉で国内外にメッセージを発してしかるべきところでしたが、それをしませんでした。演説の内容でトランプ政権を刺激する事態を避けたとみられます。
一方で、今回、際立ったのが中国との関係の進展ぶりです。パレードの際、ひな壇でキム委員長は、訪朝した中国の全人代=全国人民代表大会の栗戦書(りつ・せんしょ)委員長の手を高く掲げました。中国共産党序列3位の人物です。双方とも満面の笑みを見せていました。そして、キム委員長は、栗委員長との会談で、「アメリカが相応の行動を取るよう望む」と述べ、栗委員長も「北朝鮮の努力を評価する」と応じました。キム委員長は今年、3度中国を訪問して習近平国家主席と会談を重ね、長く冷え込んでいた中朝関係を回復軌道に乗せました。キム委員長の発言は、北朝鮮が中国を後ろ盾としてアメリカとの交渉を有利に運ぼうとしていることを改めて示すものとなりました。

ただ、今回、習近平主席がピョンヤンを訪問することはありませんでした。中朝両国とも関係の蜜月ぶりがトランプ政権にこれ以上、警戒されるのは得策ではないと判断したと見られます。中国はアメリカとの貿易をめぐる厳しい対立を抱え、さらなる摩擦は望ましくないという事情があり、北朝鮮は2度目の米朝首脳会談を模索しているという事情があります。今回の軍事パレードのあと、トランプ大統領は、ICBMが登場しなかったことについて、「北朝鮮からの大きな、とても前向きな意見表明だ。ありがとう、キム委員長」などと高く評価してみせました。11月の中間選挙を控え、北朝鮮との交渉が難航しているという受け止めが広がっては困るからです。アメリカを刺激しないという点では北朝鮮のもくろみどおりになったようです。
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●南北関係も活用
中国のほかにもうひとつ、北朝鮮がアメリカと向き合うために足がかりにしようとしているのが韓国です。キム委員長は近く、ムン・ジェイン(文在寅)大統領と3度目となる首脳会談を行う見通しです。これまで2回の会談は南北を隔てる軍事境界線にあるパンムンジョム(板門店)で行われ、いずれも日帰りで、実務会談という色彩が濃厚でした。今回は18日から20日まで2泊3日と本格的な首脳会談で、場所もピョンヤンです。韓国大統領の北朝鮮訪問はノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領以来、11年ぶりで、キム委員長はムン大統領を歓待し、南北関係の改善を加速させようとするとみられます。
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北朝鮮は、韓国を通じてもアメリカにメッセージを伝えようとしています。キム委員長は、5日、ピョンヤンを訪れた韓国政府の特使らに対し、トランプ大統領の任期中、つまり、2020年の末頃までに「米朝関係が改善され、非核化が実現されたらいい」と述べたということです。キム委員長が非核化の時期的な目標らしきものに言及したのは初めてで、交渉の意欲をアメリカにアピールした形です。

ムン・ジェイン大統領はいま支持率が落ち込んでいることもあり、南北関係をテコに米朝の仲介役として北朝鮮の核問題を進展させたい考えです。ただ、キム委員長は、アメリカが求める非核化に向けた手順などについて、韓国の特使らにどのような考えを示したのか、明らかにされておらず、今度の南北首脳会談で核問題の突破口が開かれる見通しはありません。
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●米との交渉にどう臨む
結局のところ、非核化に向けて打開の糸口を見出せるのかは、水面下で断続的に行われているとみられる米朝両国の交渉の結果次第ということになりそうですが、容易ではありません。
北朝鮮が求める朝鮮戦争の終戦宣言について、キム委員長は韓国の特使らに対し、「米韓同盟が弱体化することや韓国に駐留するアメリカ軍の撤収にはまったく関係ない」と述べてアメリカの懸念を払拭し、何とか受け入れさせたい考えです。戦争状態に終止符を打つことで、アメリカから攻撃されるリスクを減らすことができ、キム・ジョンウン体制の維持につながるという判断からです。朝鮮戦争の終戦宣言は、米朝首脳会談の直前まで、トランプ大統領が非常に乗り気でした。北朝鮮はそれをよりどころに今後もアメリカに受け入れを迫っていくと見られます。
反対にアメリカからすると、いま終戦宣言をすると、非核化交渉が難航し、北朝鮮が再度、挑発的な姿勢に戻ったときに、軍事オプションをちらつかせて翻意を促すことができなくなってしまいます。さらには、在韓米軍の撤退を迫られるのではないかという懸念もあります。マティス国防長官は、最近になって、米韓合同軍事演習をさらに中止するかどうかは決まっていないとして、北朝鮮への圧力を強めようとしています。

一方で、両首脳とも、米朝関係が順調だという構図を維持したいという点で思惑は重なり合います。アメリカ・ホワイトハウスは10日、キム委員長からの書簡がトランプ大統領に届いたと発表し、「非常に友好的で、前向きな内容だった」と評価しました。さらに、2度目の米朝首脳会談の開催を求める内容だったと明らかにするとともに、「われわれも開催を望んでいる」と前向きな考えを示しました。
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確かに、この時期に進展がなければ、問題解決に向けたモメンタム(勢い)が失われるという憂慮の声も根強くあります。ただ、2度目の米朝首脳会談が仮に開かれるとしても、非核化に向けたキム委員長の意志を再確認したなどという内容にとどまることは許されません。米朝両国は、まずは非核化交渉で具体的な成果を出し、再度の首脳会談を開くに値する環境を整えられるのかが厳しく問われることになります。

(塚本 壮一 解説委員)

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