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「想定外なのか? 全域停電」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

 今回の地震では、北海道全域が長時間にわたって停電するという大きな被害。電力インフラの脆さが露呈。いまだに100万戸以上で停電継続し、住民は不自由な生活。
政府や電力会社は「想定外のことが起きた」と説明するがそうなのか。

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▽なぜ長時間の全域停電となってしまったのか。
▽停電への対策はどうなっていたのか。
▽今後広い範囲の停電を防ぐには何が必要なのか。
以上3点から検証。

地震の前、北海道では310万kWの電力需要、北海道電力ではおもに4か所の火力発電所を稼動させて電力を供給。

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地震の発生で、震源に最も近い厚真町の苫東厚真火力発電所が緊急停止。電力需要の半分以上にあたる165万kW分の供給が失われ、道内の電力需給バランスが大幅に崩れた。これをうけてほかの3か所の火力発電所も停止。全域の295万戸が長時間停電する。

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影響は大きく、JRや地下鉄は終日運休し、道路では信号が止まり、警察官が車を誘導。
病院も非常用電源を動かすなど対応したが、外来の受付を停止したり、人工透析ができないところも。大規模停電は人の命にもかかわる重大な事態。
ほかにも乳牛の搾乳ができなかったり多くの工場が操業停止に追い込まれるなど、経済への影響も。

なぜ全域停電という事態が起きたのか。

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電力は普段は需要と供給のバランスを取り、周波数を一定に維持している。しかしそのバランスが崩れると周波数が変化していわば質の悪い電気が流れることになり、発電所でタービンなどの機器が壊れるおそれも。これを防ぐために各発電所には周波数の変化を検知した場合に緊急に運転をとめる。

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今回主力の苫東厚真発電所が止まって電力供給の半分が瞬時に失われたため周波数が変化、これを受けて残りの発電所も緊急停止。

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この事態を受けてまず、停止した苫東厚真を再稼働しようとしたものの地震で機器が損傷して再開を断念。別の小規模な石炭火力発電所を順次立ち上げていくことに方針を変更。

しかし石炭火力を再稼働させるには、電源が必要。その電気を確保するために近隣の水力発電所を再稼動させなければならず、初動に手間取った。
その後徐々に発電が再開し、きのう夕方までに160万戸あまりで電力が復旧。
政府と北海道電力では今日中に、ほぼ全域で停電を解消させる方針だが完全復旧には時間がかかるため節電の呼びかけ。

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国内で大手電力管内全域が停電となったのは今回が初めて。
政府も電力も、瞬時に大規模な電源が失われるという「想定外のことが起きた」というが、東日本大震災の教訓を踏まえた対策を急いでいれば、停電を最小限に抑えたり、発電再開までの時間を短くすることができたのでは。

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東日本大震災では福島第一原発など出力の大きい原発が一斉に止まって首都圏で電力が足りなくなり、地域ごとに順番で停電させて電力需要を抑える計画停電実施。
大規模集中電源の危うさが問題となり、電力が大規模に失われた場合の対策や、発電所の分散配置、さらにはほかの地域から電力の融通を受ける体制を充実させることが教訓とされた。

しかし今回、その教訓は十分生かされず、災害への備えが不十分だった。

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北海道電力管内では需要全体の4分の3を火力発電に頼っており、中でも全需要の半分を1か所の火力発電所に担わせるといういびつな電力供給体制に。

分散型電源が実現していれば、震源に近い発電所が停止したとしても需給バランスは大きく崩れることなく全域停電にはならなかった可能性。

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北海道電力は天然ガスの火力発電所の新設も進めていたが、今回の地震には間に合わず。新設は時間もコストもかかる。
であれば分散型電源の実現と並行して、現状の電力供給体制で大規模な電源が瞬時に失われた場合の対策も検討しなければ。
経済産業省によると、北海道電力管内では電力喪失の想定は最大で130万キロワット、今回のような165万Kwが失われることは想定外だったという。
しかし苫東厚真は全体で165万kWあるわけで震災の教訓踏まえればこれが全て失われることを想定しなければならないはず。
石炭火力発電所に大容量の非常用の電源を備えて、緊急停止しても短時間で再稼働できる体制をとることなどの検討も必要。

そして震災のもうひとつの教訓、ほかの地域からの電力融通についても十分な体制ではなかった。

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北海道の電気が足りなくなった場合、本州から電気を送ることができるよう、津軽海峡をまたぐ北本連携線と呼ばれる海底の送電線があるがすぐには機能しなかった。
この送電線を使うには本州側から直流で受け取った電気を交流に変換しなければならず、外部電源が必要。しかし全域停電ですぐには使えなかった。
また容量が60万キロワット分しかなく、苫東厚真を代替するには足りない。
北海道電力では震災の教訓も踏まえて現在別の連携線の建設を進めているが、コストもかかることから30万kW分。この規模で十分なのか、容量を増やすとしたらどこが費用負担するのかなど、政府は今回の事態を受けて再検討の必要。

さらに重要なのは、ほかの地域で起きることがないかの検証。

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東京電力や関西電力管内など大消費地では、ひとつひとつの発電所の規模が電力需要に比べて相対的に小さくなるため全域が停電するリスクは小さいと見られる。しかし四国や北陸など電力需要が小さいところではそれぞれの発電所の規模が電力需要に対して大きくなる場合があるかもしれない。
それぞれの地域で大規模な電源が失われた場合の想定は適切なのか、電源の分散化は進んでいるのか、ほかの地域からの融通を受ける体制に問題はないか、政府と大手電力はあらためて検証する必要。

北海道ではいまだ100万戸以上で停電。政府と北海道電力は停電による被害が出ることがないよう、まずは発電所の復旧を急いで行った上で、大規模停電が起きない体制を築いていかなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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