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「地銀の経営統合劇が突きつける課題」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

長崎の二つの地方銀行が関係する経営統合計画が、このほど公正取引委員会に承認されました。経営統合の背景には、地方の銀行が置かれた厳しい状況があります。きょうはこの問題について考えてみたいと思います。

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解説のポイントは3つです。
1)地銀の経営統合の背景
2)独占の懸念と地元の声
3)将来の経営統合への課題 

先月下旬、公正取引員会は、長崎県内に傘下の銀行をもつふくおかフィナンシャルグループと長崎県最大手の十八銀行の経営統合について、承認することを明らかにしました。
ふくおかフィナンシャルグループは長崎県内で二番手の親和銀行を傘下に持ち、これを十八銀行と合併させる計画です。合併後の長崎県内での貸し出しシェアが75%にものぼることから、公正取引委員会は当初から独占状態が強まるという懸念を示していました。

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では両行はなぜ公取の反対が予想されるような経営統合を考えたのでしょうか。背景には日銀による金融緩和政策で、銀行が利ザヤを稼ぐ力が弱まっていることに加え、地方経済がおかれた厳しい状況があります。

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長崎県では、ピーク時には176万にのぼった人口が現在は134万にまで減りました。人口減少のペースは九州でもっともはやくなっています。そうした中で、県内では十八銀行と親和銀行が、激しい出店競争を繰り広げてきました。十八銀行が90近く、親和銀行が80近くの店舗をかまえ、金利を少しでも低くする貸し出し競争を行ない、収益力を落としていったのです。県内には両行の店舗が隣どうしか、近くに軒を連ねる場所も50か所以上にのぼるといいます。それだけに、この組み合わせで合併すれば、店舗の統廃合を通じてコストを下げる最大限の効果が見込まれると考えたといいます。さらに両行は、銀行が強くなれば地域経済にも貢献できるとも主張します。

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どういうことでしょうか。

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地域経済を支えるために銀行は、企業の新規分野の開拓やベンチャー企業の支援などを求められるほか、業績が低迷する企業を支える役割も期待されています。しかし、過剰な競争の結果、銀行の経営体力が弱まれば、リスクの大きな資金の貸し出しがしにくくなるなど、貸し出し態度が消極的になり、地域経済にもマイナスの影響を及ぼします。そうなると、地域経済が一段と落ち込み、それがまた銀行の経営を悪化させる悪循環に陥ります。それを防ぐために、合併によって経営基盤を強化し、地域の企業への融資をより積極的に行なう。さらに統合効果で余裕が生まれたマンパワーを生かすことで、企業の新規事業や海外展開に必要なコンサルタント業務も一段ときめ細かくできるようになり、それがひいては地域の経済発展につながるというのです。

 地方銀行が厳しい状況に置かれているのは長崎だけではありません。3行以上の地方銀行が拠点を置く都府県は14にのぼっていて、経営統合の動きが今後も続くことが予想されます。そこで今回の経営統合劇が、ほかの地域にどのような影響を及ぼすか、細かく見ていきたいと思います。

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今回の経営統合劇では、貸出シェアの際立った高さが様々な懸念を生みました。

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公正取引委員会が長崎県内の企業を対象に行ったアンケート調査では、二つの銀行が合併すると、ほかに取引できる銀行がなくなり、資金を借りる際の金利が上がるのではないかという懸念が多く聞かれました。また両行の顧客基盤が合併を通じて拡大する結果、優良な貸出先に融資するだけで十分な利益がでるようになり、零細企業には貸さないようになるのではないかという憶測もでています。

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その一方で、地元の企業の中からは、両行の合併を支持する声も聴かれました。銀行の体力が弱まれば、地方経済が疲弊するという懸念からです。私が現地で取材した企業のオーナーは、「県内にはメガバンクの支店もあるが、支店長は3年もすれば替ってしまう。腹をわって相談できる地元銀行が必要だ」と話していました。
 しかし公正取引委員会は、競争環境を維持するという原則から、「県内での独占の状態が緩和される何らかの措置が取られない限り統合は認められない」という姿勢を貫きます。

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こう着状態のなかで銀行側が打ち出したのは、企業に貸し出している融資の一部を両行以外の金融機関から借り換えてもらう「債権譲渡」という措置でした。県内のすべての取引先企業およそ1万6000社を対象に、融資の一部をほかの金融機関から借り換えてもらえるかどうか。さらにライバルのおよそ20の金融機関に、借り換えを受け入れてもらえるか打診したのです。その結果、およそ1000億円の債権を譲り渡し、統合後の貸し出しシェアを75%から65%に下げることができる見通しとなりました。さらに、両行は、弁護士などからなる第三者機関を設置して、統合によって不当に金利があがっていないか監視する仕組みを設けることも提案しました。
 これを受けて、公正取引委員会では、二つの銀行が合併した後も長崎県内で一定の競争環境が保たれると判断し、承認することになりました。 
ただ、債権譲渡をした後も、両行の貸し出しシェアは65%と高いことに変わりありません。県内で圧倒的な力をもつ銀行ができることで、貸し出し金利の上昇や、零細業者の切り捨てが本当に起きないのか、今後のチェック体制が問われることになります。

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  そもそも、地方の金融機関の経営統合と市場独占の問題をどう考えればよいか。ここからは、今回の経営統合劇から見えてきた課題について考えます。その一つは独占という状況を、どのような地理的な区分のなかで考えるかです。
今回公正取引委員会が問題視したのは、長崎県内の貸し出しシェアでした。しかし実際には各地の経済が縮小し、貸し出し先がなかなか見つからないといわれるなかで、県内に有望な貸出先があれば、県外からも融資したいという銀行が現れるはずです。さらにインターネットを通じた取引が広がる中、今後は、地域の枠にとらわれない融資もますます増えそうです。今後都府県内の融資のシェアだけを見て独占状態を判断することが適切なのかどうか、改めて議論していく必要があると思います。

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その一方で、今回の統合承認の決め手となった債権譲渡は、銀行側、企業側の双方に負担を生じさせることになります。企業にとっては、取引する金融機関を増やすメリットはあるものの、つきあいのない銀行と取引を始める心理的な負担があります。銀行にとっても、内情のわからない企業の融資を引き受けるのは簡単なことではないでしょう。私が話をうかがった長崎県内の金融機関の経営者は、「企業と銀行の取引には貸し出しだけでなく、企業による預金や資金決済など様々な業務がついてまわる。そうした業務も含めて考える必要がある」と指摘していました。貸出先企業と金融機関の双方が納得のいく債権譲渡の手続きには、多くの手間と時間がかかりそうです。今回の措置が、他の都道府県の経営統合でも有効なものとなるのか、見方がわかれるところです。

政府の未来投資会議では、今後、人口減少が進む中で地域の金融をどう維持していくか検討していくことにしています。健全な競争環境を維持することはもちろん大切ですが、同時に縮小に向かう地域経済を支えていくにはどうすればよいのか。現実を直視した議論が求められています。

(神子田 章博 解説委員)

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