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「増額続く防衛費とイージス・アショア」(時論公論)

増田 剛  解説委員

先週末、防衛省は、来年度・2019年度予算案の概算要求として、過去最大の5兆3000億円近くを計上することを決めました。
これを受けて、防衛費は、来年度、過去最大を更新することが確実となっています。そして、この防衛費全体を押し上げているのが、新型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」など、アメリカ製の高額な装備品です。
増額が続く防衛費と、その中核ともいえるイージス・アショアの配備計画について考えます。

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解説のポイントです。
今回、防衛省が過去最大の金額を要求した背景をみていくとともに、今回の概算要求の特徴のひとつである、宇宙・サイバー・電磁波といった「新たな領域」に重点を置く防衛構想について掘り下げます。
その上で、今回、最も注目されている装備で、取得費用が大きく膨らみ、米朝首脳会談を経て必要性を疑問視する声も出ている、イージス・アショアの配備計画について検証します。

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先月31日、防衛省は、来年度予算案の概算要求について、過去最大の5兆2986億円を計上することを決めました。防衛省は、今回の概算要求の考え方として、「日本を取り巻く厳しい安全保障環境を踏まえれば、防衛力の『質』と『量』を必要かつ十分に確保することが不可欠だ」としていて、それを要求額にそのまま反映させた形です。
防衛費は、核やミサイルの開発を進めてきた北朝鮮や、軍備の増強を続ける中国への備えを理由に、第2次安倍内閣が編成した2013年度以降、6年連続で増え続けています。今回の概算要求は、これまでの路線を変更しないという政権の姿勢を鮮明にしたものといえ、防衛費は、来年度も過去最大を更新することが確実となりました。
また、防衛省は、今回、「陸・海・空という従来の領域にとどまらず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域の活用が死活的に重要になっている」として、新たな領域を含めた、クロス・ドメイン=領域横断的な防衛力を強化するという方針を打ち出しました。
そして、具体的な事業として、▽宇宙状況監視レーダーと運用システムの整備、▽サイバー防衛隊の充実・強化、▽F15戦闘機の電子戦能力を高めるための機体の改修といった項目を盛り込みました。

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背景には、何があるのでしょうか。
現代の戦争は、これまで「戦場」として想定されていなかった、宇宙空間やサイバー空間、電磁波を扱う電子戦といった分野への対応が重要だとされています。
例えば、宇宙では、中国が、人工衛星を破壊する兵器の開発を進めていて、アメリカは「宇宙軍」の設立を目指しています。サイバー空間では、北朝鮮が、大規模な攻撃を仕掛けているとされています。航空機や艦船がネットワークでつながる現代戦は、電磁波を使って相手の通信網を妨害する電子戦の能力が役割を増しています。
防衛省は、こうした新たな領域への態勢整備が、他国に比べて遅れを取っているとみており、その対応が急務だと説明しています。
来年度以降、こうした領域への態勢整備がどれだけ拡充されるのか。今後の経過を注視し、その必要性や費用対効果を検証していきたいと思います。
今回の概算要求では、ミサイル攻撃への対処能力の強化にも、重点が置かれています。
そして、北朝鮮の弾道ミサイルへの備えとして、去年、導入を決めた、陸上配備型の新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の取得費用として、2352億円を盛り込みました。
また、イージス・アショアに搭載する新型の迎撃ミサイル「SM3ブロックⅡA」などの取得費用として818億円を計上しました。

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先週、閣議決定された今年の防衛白書は、北朝鮮の核・ミサイル開発について、「これまでにない重大かつ差し迫った脅威だ」と指摘しました。これは、去年の白書よりも厳しい表現です。
「今年6月の米朝首脳会談で、北朝鮮のキム・ジョンウン委員長が、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を、文書の形で明確に約束した意義は大きい」としながらも、「北朝鮮が日本のほぼ全域を射程に収めるノドンミサイルを数百発保有・実戦配備していることを踏まえれば、米朝首脳会談後の現在においても、北朝鮮の脅威についての基本的な認識に変化はない」としているのです。

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確かに、米朝首脳会談を経て緊張は和らぎましたが、その後の非核化をめぐる米朝協議は進展がなく、今後の展開は不透明です。
今回、イージス・アショアの取得経費を当初の方針通り計上したのも、そうした政府の脅威認識が背景にあるのでしょう。
ただ、実際には、こうした政府の思惑とは裏腹に、イージス・アショアの配備計画は、二つの壁に直面しています。ひとつは、費用の膨張、もうひとつは、地元調整の難航です。
イージス・アショアは、イージス艦の機能を地上に置く最新の施設で、2基で日本全体をカバーできるとされています。日本の北と西にバランスよく配置することや日本海側にあることを理由に、秋田市と山口県萩市にある陸上自衛隊の演習場が配備候補地となりました。
ところが、6月の米朝首脳会談を経て、北朝鮮との緊張が緩和すると、野党を中心に、計画の見直しを求める声が出てきました。

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防衛省が7月30日に発表した取得費用の見通しも、そうした声に拍車をかけます。1基あたりの価格は、当初のメドとしていた800億円を500億円余り上回る1340億円。2基で2680億円にのぼります。導入後30年間の維持・運用経費を含めると、4664億円に膨らむという見通しも示されました。ミサイル発射装置や用地取得費を含めれば、さらに膨れ上がります。
防衛省は費用が高騰した理由について、ミサイルへの対処能力を高めるため、アメリカ政府とロッキード・マーティン社が提案した最新鋭レーダー「LMSSR」を搭載することにしたからだと説明します。ただ、それを差し引いても、これほどの値上がりは、極めて異例です。見積もりが甘過ぎたといわれても仕方がないでしょう。

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野党からは、「日本に多額の武器購入を求めるトランプ政権への配慮が働いているのではないか」という声まであがっています。
一方、配備候補地の住民からは、反発の声が出ています。
秋田市や萩市で開かれた住民説明会では、「レーダーが発する電波が健康に影響を与えるのではないか」「重要な防衛施設が近くにあることで攻撃の対象になるのではないか」といった不安の声が相次ぎました。こうした状況を受け、秋田県の佐竹知事は、小野寺防衛大臣に、「住民が納得できる状況なしに配備を強行することは不本意だ」と、候補地の再検討を求めました。一方、8月中旬に開かれた自民党の会合では、「このままでは配備が困難になりかねない」として、導入の必要性を丁寧に説明すべきだといった意見が相次いでいます。

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北朝鮮の脅威を追い風に、性能や価格を詳細に検討することを後回しにして、拙速に導入を決めたのではないか。イージス・アショアの取得費用が膨れ上がる現状を見ますと、どうしても、そうした疑問が拭えません。防衛力整備は、限られた予算の中で、費用対効果や外交への影響を考え抜き、国民の理解を得ながら実効性を高める必要があります。反発と不安を強める住民を前に、政府に課せられた説明責任は重いと言わざるを得ません。

(増田 剛 解説委員)

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