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「膨らむ予算要求 緩めるな財政規律」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

来年度予算案の概算要求がきょう各省庁から提出され、一般会計の要求額は今年も100兆円を上回りました。来年度の予算では、10月に予定される消費増税対策が盛り込まれる一方、財政健全化の一段の推進が求められています。この問題をとりあげます。

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解説のポイントは三つです。
1)    膨らむ予算要求
2)    消費増税対策は適切な規模で
3)    補正予算にも財政規律を です。

まず主な省庁の要求額をみてみます。

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▼要求額が最も多い厚生労働省は、高齢化にともなって医療や介護といった社会保障費が膨らむことから、過去最大の31兆8956億円を要求します。
▼国土交通省は、西日本を中心とした豪雨災害などを受けて水害対策を盛り込み、6兆9070億円を要求します。
▼防衛省は、北朝鮮の弾道ミサイル対策として配備する方針の新型迎撃ミサイルシステム「イージスアショア」の取得経費などを盛り込み、過去最大の5兆2986億円を要求します。一般会計の要求総額は、102兆円台と5年連続で100兆円の大台を突破する見通しです。

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さらに来年度予算には別の歳出拡大の圧力が加わります。10月に予定される消費増税に伴う景気の落ち込みを防ぐための予算です。

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このグラフは、2014年に消費税率を5%から8%に引き上げた前後の個人消費の推移です。税金が上がる前にモノを買おうという 駆け込み需要で増えた後、増税後は反動で大きく落ち込み、その後回復するのに3年もかかりました。
このため今回の概算要求や税制改正要望には、駆け込み需要と反動減のでこぼこができるだけ平らになるようにするための措置が盛り込まれました。▼国土交通省が増税後の住宅の購入を促す対策を求めているほか、▼経済産業省が自動車を購入する際の負担軽減措置を講じるよう要求しています。こうした措置は、増税前の駆け込み消費を抑え、増税後の消費を支える効果が期待されています。

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この消費増税対策について、政府は、歳出削減の取り組みとは切り離して措置を講ずるとしています。特別扱いの背景には、日本の財政が置かれた状況と、二度にわたって消費増税が延期された経緯があります。
政府の財政は、社会保障などの政策に必要な支出が、税金などの収入を大幅に上回る状況が長年にわたって続いています。足りないお金は国債を発行して、つまり、借金をして補ってきましたが、その借金の総額は今年度末には883兆円に達する見通しです。

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このため、政府は歳出の伸びを抑えるとともに、税収を増やすことで、歳入から歳出をひいた基礎的財政収支を黒字にする。つまりその年の政策の経費はその年の税収などで賄うようにして、借金を少しずつでも減らしていきたいとしています。
収支の改善に大きな効果が期待されるのが消費税率引き上げによる税収の増加ですが、2015年10月に予定されていた消費増税はその後二度にわたって先送りされました。これは、2014年に行われた消費税率引き上げ後の経済状況が思わしくなかったため、国民の間でさらなる増税に対する抵抗感が強まったことも一因だと言われています。来年の消費増税で再び経済が大きく悪化すれば、その後の増税はますます行いにくくなる。消費増税対策に力をいれる背景には、そうした思惑もあるのではないかという見方も出ています。

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この消費増税対策、今後様々な政策が織り込まれる見通しですが、きょうの段階ではその規模がどの程度のもとのとなるか明らかになっていません。前回2014年の時には、対策の規模は5兆5000億円でした。しかし今回は前回とは状況が異なっています。
まず税率の引き上げ幅。今回は2%と前回より小幅となります。さらに増税分のうち半分のおよそ2兆8000億円をつかって、幼児教育などの無償化や、低所得者などを支援する措置がとられることになっています。さらに外食をのぞく食料品には8%の軽減税率が導入されます。こうしたことから日銀は、消費税率引き上げによる国民の負担増は、2兆2000億円程度と、2014年の8兆円を大幅に下回ると試算しています。このため、消費増税対策の規模は前回ほど大きい必要はないという見方が出ています。

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 その一方で、注意すべき点もあります。
2014年は、円安傾向が進んでいたことや原油価格が値上がりしたことから、海外から輸入する原材料価格が高騰しました。企業は、製品の値上げはしたいが、消費者の節約志向の前に、なかなか踏み切れないという状況でした。そうした中で、消費税率の引き上げは、格好の値上げのきっかけとなりました。モノの値段は消費増税を上回る幅で上昇し、消費の勢いを鈍らせたと指摘する専門家もいます。

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現在も原油価格は上昇傾向にあり、人々の節約志向は依然として根強く、企業が製品の値段を上げづらい状況に変わりはありません。来年の消費税率引き上げをきっかけに製品が値上げされ、それが消費者心理を冷やす可能性は残っています。
消費増税対策にあたっては、こうした様々な観点を踏まえ、増税が経済にあたえる影響を可能な限り正確に予測し、適切な規模で行うことが求められています。

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 さて、政府は今年6月、基礎的財政収支黒字化の達成年度を2025年度に先延ばしする新たな目標を設け、来年度の予算はその第一歩となります。政府はこれまで財政健全化に向けて、当初予算については、予算要求の段階で上限を設けたり、政府案の段階で歳出の伸びを一定の限度内に抑えるといった抑制のための目安を設けたりしてきました。
しかし毎年のように年度の途中で組まれる補正予算については、同様の規律が働いていない様に感じます。

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本来補正予算とは、予算作成後に生じた事由にもとづき特に緊要となった経費の支出を行う場合などに限り作成されるとされています。わかりやすい例でいえば、大規模な災害が起きた際の被災者の支援や復旧のための費用などです。ところが最近の補正予算のなかには、この趣旨に沿うものなのか首をかしげたくなるものも含まれています。

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例えば、28年度の補正予算には、大型クルーズ船の受け入れ環境を改善するための予算や外国人観光客のためのワイファイ整備の予算が、29年度の補正予算には、AI・人工知能システムの開発を支援するための予算や、農林水産物の輸出力を強化するための予算などが盛り込まれました。いずれも、当初予算で要望されていてもおかしくない性格のものだと思います。専門家の間では、各省庁は厳しく抑制される当初予算をあえて避けて要求を補正に回しているのではないかという指摘も出ています。
必要な予算であれば、当初予算段階から要求してほかの項目と横並びにしたうえで、政策の重要性に応じて優先順位をつけるというのが本来の姿ではないでしょうか。さらに、補正予算についても、当初予算でおこなわれてきたような、歳出の伸びを抑制する何らかの方策を考える必要があるのではないでしょうか。

来年度の予算編成では、増え続ける社会保障に消費増税対策が加わり、歳出圧力は膨らむ一方です。財源が限られる中で、国民の生活ニーズに応え景気を維持するために、どの分野を優先しどれだけの予算をふりむけるのか。それをこれまで以上に厳しく見定める目と、国民に対するわかりやすい説明が求められています。

(神子田 章博 解説委員)

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