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「障害者雇用水増し 能力を発揮できる環境を」(時論公論)

竹内 哲哉  解説委員
飯野 奈津子  解説委員

障害者の雇用を率先して進めるはずの中央省庁の8割に上る行政機関で、雇用する障害者の数を水増ししていたことが明らかになりました。意図的な水増しがなかったかどうか、政府は検証チームを立ち上げて調査を進めるとしていますが、いずれにしてもこの問題の根底には、障害者雇用に対する意識の低さがあったといわざるをえません。福祉問題を担当する竹内委員と共に、なぜこうしたずさんな運用がまかり通っていたのか、そして、障害者が能力を発揮して働けるようにするには何が必要なのか、考えていきます。

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解説のポイントです。
●今回の雇用水増しの調査結果をどうみるか
●なぜずさんな運用が横行していたのか。
●障害者雇用を広げるには何が必要か この3点です。

<水増し問題調査結果>
まず、厚生労働省が公表した、中央省庁の障害者雇用水増し問題の調査結果です。

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行政機関や民間企業は、一定の割合以上の障害者を雇うことが法律で義務付けられています。
ところが、去年6月の時点で、中央省庁の33の行政機関のうち、8割にあたる27の機関で、雇用数の水増しがあったことがわかりました。
国のガイドラインでは、障害者手帳などで確認するよう求めていますが、そうした確認をせずに、障害者として計上していたということです。水増しされていた人数は、あわせて3460人。中央省庁で雇用したことになっていた障害者の半数にあたります。これによって、実際の雇用率は、公表されていた2.49%から1.19%に下がり、達成したとされていた当時の法定雇用率、2.3%を大きく下回っていたことになります。

<調査結果をどうみるか>
Q まず竹内さん、ご自身も障害があって車いすを利用していますが、今回の調査結果をどうみますか?

A  障害者雇用の義務化は42年前の1976年にスタートしています。私は25年前、ある省庁に採用試験を受けたいと問い合わせたところ、「車いすでは業務ができない」と断られた経験があります。その時と省庁の体質は変わっていない、という印象を受けました。
障害者を支援する日本障害者協議会は「法を順守しなければならない行政による国民への背信行為」と、強く非難する声明を発表しています。水増しをされた分、障害者の雇用の場が奪われていたわけですから、私も強い憤りを感じています。
加えて、民間企業も行政への不信感を募らせています。雇用率の達成がなかなか厳しい現状があるなかで、民間企業を先導しなければならない立場にある省庁が、法律を実践していないならば、この法律は守らなくても良いという意識が蔓延し、これまで少しずつ進んできた障害者雇用が停滞するのではと、心配です。

(飯野)今回の調査では、水増しが意図的であったかどうかは明らかになっていません。政府は今後第三者による検証チームをたちあげて調査をすすめるとしていますが、同じような水増しが行われていた地方自治体も含めて、水増しの経緯を徹底的に検証することが、国の責任です。まず、この点は指摘しておきたいと思います。
 
<ずさんな運用がなぜ横行していたか>
その上で、なぜ中央省庁でこうしたずさんな運用が横行していたのでしょうか。それが二つ目の解説のポイントです。
その理由のひとつに、障害者雇用に対する行政機関へのチェックが民間企業に比べて甘かったことがあげられます。

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民間企業に対しては、厚生労働省の外郭団体が年に一回、障害者手帳の番号などを確認するほか、3年に一度、監査に入ります。一定規模以上の企業が法定雇用率を達成できない場合は、不足している人数に応じて一人につき月5万円の納付金が課せられます。さらに達成するための計画の作成と実施を厚生労働省から勧告され、改善されなければ企業名が公表されます。
これに対して国の行政機関は、年に1度雇用する障害者の数を報告するだけで第三者によるチェックはありませんし、雇用率を達成できなかった場合も罰則はありません。民間には厳しい姿勢をとりながら、身内には甘いチェックの仕組みが、省庁のずさんな運用につながったといえると思います。

Q 竹内さんは、省庁でずさんな運用が横行していた原因はどこにあると考える?

A チェック体制などの制度の問題だけでなく、根底には“障害者は働けない”という意識や偏見が残っていると感じています。本来、障害者に活躍してもらいたいと思えば、障害の程度や重さの情報を確認できる手帳をチェックするのは欠かせません。
しかし、国では障害者手帳のチェックをすることなく、障害者の算定をしていたわけですから、障害者雇用への意識の低さの現れだと感じています。

<障害者雇用を広げるには>
では、障害者雇用の水増しをなくして雇用を広げるにはどうすればいいのでしょうか。3つ目の解説のポイントです。

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◎ひとつは、民間企業と同じように第三者による監査を行い、チェック機能を強めることです。外の目がなければ機能しないというのは情けない話ですが、自ら律することができない以上、厳しくチェックせざるを得ないと思います。
◎職員への研修や教育の強化も必要です。何のために障害者を雇用するのか、どんな配慮が必要なのか、根本から学ぶ機会を設けることも必要ではないかと思います。

(竹内)もちろん障害者雇用率を増やすということは重要だと思いますが、数字だけでなく障害のある人たちが生き生きと働ける職場を作り、定着させることも重要だと考えます。
積極的に障害者を採用している民間企業では、一人一人の障害の程度の聞き取りや体験実習などを行い、活躍できる環境を整えています。

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私が取材した障害者127人を雇用している児童遊戯施設を運営している会社では、専任部署が中心となり、障害者の特性に応じて、もっとも能力が発揮できるであろう仕事を割り当てています。
たとえば、文章を書くのは苦手ですが、数字には強く、計算は早く正確にできるといった知的障害のある人には、給与計算などのデータ入力を。ゆっくりではあるものの、一つ一つ丁寧に物事をこなす精神障害のある人には、清掃をしてもらうといった形です。
適材適所で人材を配置するというのは、障害のない人にも共通することですが、障害のある人には、障害の特性もありますので、より慎重な仕事を割り当てています。
これに加え、仕事がスムースに行えるような工夫も欠かせません。必要な人には一日のスケジュールを紙にして渡したり、こなした仕事を一つずつチェックするといった業務の見える化をするのも大切です。
また、兵庫県明石市では障害者としての経験を生かして働いてもらおうと、障害者施策を担当する障害のある専門官を採用しています。採用された職員は、障害者福祉計画や手話・言語条例の企画・立案にも当事者としての意見を述べ、その手腕をふるっています。

こうした職場環境は一朝一夕では作れません。
障害は人それぞれですし、雇用した後に初めてわかる必要な支援も出てきます。
だからこそ、柔軟に支援できる体制を時間をかけるべきところはかけて、働きやすい職場を作ることが求められていると思います。

<まとめ>
政府は、10月をめどに、水増しが起きた経緯の検証結果や再発防止策、それに法定雇用率達成に向けた採用計画をまとめるとしています。ただ、雇用率を達成することだけに目を奪われ、障害者への配慮を怠れば、結局、離職者が相次ぐ事態になりかねません。急ごしらえの対応ではなく、どうすれば障害者と共に働くことが当たり前の共生社会を実現できるのか。今回の問題を真摯に受け止めて、障害者雇用を推進する立場の国の行政機関が、しっかり考えていくことが、求められているのだと思います。

(竹内 哲哉 解説委員 / 飯野 奈津子 解説委員)

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