NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「大規模水害にどう備える」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

先月の西日本豪雨災害では岡山県倉敷市真備町で51人が亡くなるなど洪水で大きな被害が出ました。
地球温暖化が進むと気象現象が激しくなると指摘され国や自治体は大規模水害対策を進めてきましたが、その加速を強く促される形になりました。
こうしたなか東京の江東区など5つの区が初めて「広域避難計画」を作りました。
今夜は大規模な水害にどう備えたらよいのかを考えます。
j-00mado-0828.jpg

解説のポイントです。
j-01-0828.jpg
▼西日本豪雨の教訓
▼緊急の避難場所をどう確保するのか
▼初の広域避難計画の課題

【西日本豪雨の教訓】
倉敷市真備町では先月の豪雨で8ヶ所で川の堤防が決壊し、町全体の3割が浸水しました。水は最も深いところで5.4メートル、建物の3階まで達し、逃げ遅れて51人が亡くなりました。

国は市町村に対し、洪水のときに住民が逃げ込んで命を守るため、ビルや高台など緊急避難場所を指定するよう求めてきました。真備町も指定していましたが、市街地から離れた公園1ヶ所だけで現実的な備えになっていませんでした。
市街地にある病院に多くの住民が自主的に逃げ込んで救助されましたが、いざというときに逃げ込むことのできる場所を確保し、住民に知らせておくことがとても重要だという教訓が残されました。

【緊急避難場所をどう確保するのか】
全国の市町村は水害の緊急避難場所の指定を進めてきましたが、対象になる学校や公営団地など公的施設は数が限られています。マンションなど民間の建物も指定できればよいのですが、行政が主体になると契約などの手続きに時間がかかります。そこで住民が主体になって取り組んでいる市があります。

埼玉県戸田市は荒川の北側に位置していて、氾濫した場合、市内全域が浸水し場所によっては2階以上に達すると想定されています。市は緊急避難場所として学校などを指定してきました。しかし、それだけでは足りないため住民たちでつくる自主防災組織が9年前から地区内の高層マンションや事業所と話し合い、いざというときに逃げ込めるよう協定を結んできました。
j-02-0828.jpg
ひとつの地区の防災マップです。緑色の市指定の避難場所が4ヶ所。これに加え自主防災組織は、緊急のときに一時的に避難をする場所として赤で示した高層マンションなど10ヶ所を確保しました。オートロックのマンションの管理組合には非常時には開放してもらう約束も取り付けています。市内には46の自主防災組織があり緊急の一時避難場所を300ヶ所確保し、避難訓練も行っています。水害から命を守るためにたいへん参考になる取組みだと思います。

【初の広域避難計画の意味】
ここから3つめのテーマ、広域避難についてです。
緊急の避難場所の確保はとても重要ですが、西日本豪雨のような記録的豪雨が大都市圏を襲えばおびただしい数の人が浸水地域の建物に取り残されて二次的な被害が拡大する恐れがあります。3大都市圏の海抜ゼロメートル地帯には400万人が暮らしているからです。このため国や自治体は大水害が予測された時点で、あらかじめ住民に浸水しない地域に県境などを越えて避難してもらう「広域避難」の検討を進めています。

このうち東京・江戸川区や江東区など荒川の流域の5つの区が先週、初めて「広域避難計画」をまとめ、ハザードマップとあわせて公表しました。
j-03_1-0828.jpg
ハザードマップは巨大台風や集中豪雨によって荒川と江戸川の両方が氾濫するという最悪のケースを想定しています。
▼まず浸水の深さを示すマップです。
5区全体の9割のエリアが浸水し、床上浸水以上の地域の人口は233万人にのぼります。濃いピンク色は5メートル以上、2階の天井を越えて浸水する地域で、全体の1割を占めています。
▼右側は浸水が続く時間を示したものです。赤で示したところは2週間以上水が引かない地域で、地域の人口は100万人にのぼります。

こうした地域では建物の上階に避難をして救助を求める人が膨大になるため全員を救出するにはたいへん長い時間がかかると見られます。電気や水道などライフラインが止まり、食料や水が尽きるなどして体調を崩したり、命を落とすなど甚大な二次被害が生じる恐れがあります。
j-04-0828.jpg
そこで広域避難計画では、大水害が予測された段階で、事前に5区の外に避難をしてもらおうとしています。

具体的には
▼中心の気圧が930ヘクトパスカルより強い台風の直撃が予測されたり
▼荒川流域で雨量が500ミリを越えると予測された場合、
氾濫が想定される3日前から「自主的な広域避難」を呼びかけます。

▼さらに状況が悪化した場合、24時間前から「広域避難勧告」を5区の区長が共同で発表することになっています。

しかし対象者が数十万人から百万人以上という、これまで経験したことのない大規模な避難だけに、実現のためにはとても難しい課題がいくつもあります。
j-05_0-0828.jpg
まずどこへ避難をするのかです。5区の外の周辺自治体に避難をすることになりますが、現段階では公的な避難所は指定されておらず、親戚や友人宅、ホテルなどに避難してほしいとしています。

また移動の手段も問題です。車での避難者が多くなれば大渋滞が発生するのは確実です。5区は電車または徒歩による広域避難を推奨していますが、夜中の場合どうするのかなど鉄道会社の協力が不可欠です。
避難所や移動手段の問題は国と東京都で作る別の検討会で周辺の自治体や鉄道会社なども参加して協議が始まっていて、今後の大きな課題として残されています。
j-05_1-0828.jpg
この広域避難計画をどう見たらよいのでしょうか。
数十万から百万人以上が全員避難するというのは現実的ではありません。しかし何もしなければ最悪の被害は避けられませんが、事前避難をする人が多くなれば全体の被害を小さくすることができます。

国は3月に「広域避難の基本的な考え方」をまとめていて広域避難をする人と区域内に残る人の目安を示しています。
j-06-0828.jpg
広域避難をするのは、
▼すべての部屋が浸水する家や
▼氾濫で家が倒壊したり、
▼3日以上浸水が続くエリアとしてます。

一方、移動が困難な人、例えば病院の入院患者や高齢者施設入所者は建物内の高い階に、長距離の避難が難しい在宅の高齢者などは区域内の安全な避難場所にとどまり、優先的に救出できるようにするという考え方です。今後、計画を具体化していくうえで広域避難と区域内避難のバランスをどうするのかをさらに検討する必要があります。

【まとめ】
3年前の関東・東北豪雨の大水害に続いて起きた西日本豪雨は大規模水害がどこでも起こり得るということをあらためて突きつけました。広域避難はとても難しい課題ですが国や自治体は対策を急いでほしいと思います。また行政ができることに限界があることも事実で住民や企業などの主体的な取組みも求められています。次の土曜日は防災の日ですが、地震・津波に加え大規模水害に社会全体でどう向き合っていくのか、考える機会にしたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

キーワード

関連記事