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「開幕まで2年 パラリンピック『成功』への道は」(時論公論)

竹内 哲哉  解説委員

2年後の明日、2020年8月25日、東京パラリンピックが開幕します。東京でパラリンピックが開催されるのは1964年大会に続いて2回目。同一都市での開催は、夏季パラリンピックでは世界で初めてです。
私はこれまで車いすで取材を続けてきました。全国各地でパラリンピックに関するシンポジウムなどが開かれていますが、いまひとつ機運が高まってきてはいないと感じています。

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解説のポイントです。
1.まず、パラリンピックの魅力をご紹介します。
2.続いて、なぜ、関心が低いのかを分析します。
3.最後に、今後2年で必要なことを考えます。

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さて、いま、パラリンピックの選手のなかに、時にオリンピックの記録を上回ることができる選手がいるのをご存知でしょうか?

その一人、義足のジャンパー、ドイツのマルクス・レーム選手。ロンドン・リオと2大会連続の金メダリストです。先月、レーム選手は日本の大会に出場。記録は8m47。リオオリンピックの金メダルの記録、8m38を上回る大ジャンプでした。

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スーパープレイヤーはほかにもいます。一般のルールとほぼ同じルールで行われるパワーリフティングには、人類でただ一人300kg以上をあげることができるイランのラーマン選手。また、リオパラリンピックの陸上男子1500mで、視覚障害のあるアルジェリアのバカ選手が、リオオリンピックを上回るタイムで優勝しています。その圧倒的な「力」と「技」と「スピード」。それが大きな魅力です。

そしてもう一つ、パラリンピックならではの見逃せない魅力があります。選手たちが、障害があっても創意工夫を凝らし諦めずに限界に挑んでいる姿です。

ここで少し、パラリンピックの仕組みについて説明します。パラリンピックには大きく分けると「身体」「視覚」「知的」障害のある選手が出場することができます。そして、障害の程度ごとに身体能力に差があるため、いくつもの「クラス」に分けています。東京大会でパラリンピックが22競技540種目。一方、オリンピックは33競技339種目。パラリンピックの競技数が少なく種目数が多いのはこのクラス分けがあるためです。このクラス分けにより重度な障害のある選手たちにも、出場への門戸が開かれています。

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そして、限界に挑む姿は重度な障害のある選手たちの競技で、より分かりやすい形で見ることができます。たとえば、競泳の重い障害のあるクラス。選手は上半身・下半身ともに障害があるため、介助者の手を借りてプールに落ちるように入ります。
そんな彼らの自由形はクロールではありません。というのも息継ぎができないからです。そのため、仰向けで泳ぎます。一見すると背泳ぎのようですが、なかには両手を同時に回す選手がいるなど、それぞれが一番速いとする泳法で泳ぎます。まさに「自由形」です。

実は初めて彼らを取材したとき、正直、どう見てよいか分かりませんでした。しかし、自由には動かせない体と向き合い、どうすればより速く泳げるかをひたすら追い求めているということが分かったとき、見方は変わりました。

「失われたものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ」。パラリンピックの父と呼ばれるグッドマン博士の残した理念ですが、彼らこそ、この理念を体現していると思います。

オリンピックとは一味違う味わいのあるパラリンピックですが、まだまだ関心が低いのが現状です。それが、どうしてなのか?2つ目の解説のポイントです。

こちらは今年1月に東京都が公表した世論調査です。「パラリンピックの会場で直接観戦したい」と答えたのは18.9%。オリンピックが42.1%ですから、かなり低い数字です。

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この調査ではなぜ関心が低いのかも聞いています。「どんな選手がいるか知らない」、「競技のルールや見所が分からない」といった回答や「身近に障害者スポーツに関わっている人がいない」「障害者スポーツを身近な場所でやっていない」といった回答がありました。

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ここから見えてくるのは、障害者スポーツは一般のスポーツに比べると、スポーツとしての情報が少ないということ。そして「障害者を知らない」ということも大きく影響しているように思います。

NHKの調査によると、パラリンピックに出場する選手に対し「かわいそう」「痛々しい」「見ると気を遣う」といった感情を持つ人は、パラリンピックへの関心も低い傾向がありました。そして、そういった人たちのなかには障害者との接点が少ないという傾向があることも分かりました。

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パラリンピックまで残り2年。こうした状況を変えて、関心を高めるには何が必要でしょうか?

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急務なのは競技レベルを上げるための選手の育成・強化です。前回のリオ大会で日本は金メダル0。パラリンピックに参加して初めてでした。今月行われた車いすラグビーの世界選手権で日本は初めて金メダルを獲得するなど少しずつ強化が進んでいる団体もありますが、バラつきは否めません。
その要因のひとつが強化を担当する専門コーチが少ないという問題です。海外ではオリンピアンのコーチがパラリンピックを目指す選手を指導することは珍しくありません。日本でも何人かのトップアスリートが、オリンピアンを育てたコーチに学んでいますが、そうした連携をさらに加速させる必要があるでしょう。

そして、もう一つは利用施設の拡大です。一般の体育館などでは「床が傷むから」と、車いすでの利用を拒否されることが多々あります。そのためリハビリテーションセンターや専門施設など限られた場所で選手たちは練習せざるを得ません。そういった施設は利便性は良いですが、一般の人から障害のある選手たちを遠ざけてしまいます。欧米では障害のある人もない人も一緒の施設を利用しスポーツをするのは当たり前です。間近でトレーニングをする選手を見ることができれば、選手への親近感は増し、パラリンピックへの興味にもつながるでしょう。

こうした取り組みをもう一歩進め、関心を高めるために必要なのが、日常的に障害者とふれ合う機会を増やすことだと考えます。

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その方法の一つは障害者の雇用です。いま、多くの企業がパラリンピアンを雇用し支援する活動をはじめています。大会会場で職場一丸となって応援したり、なかには大会運営に関わるボランティア活動をする人も出てきています。活動を広げることはスポーツへの関心、障害者への理解につながります。

また、時間がかかるかもしれませんが、子どものころから障害者とともに過ごすこと、いわゆるインクルーシブ教育も大事です。私は車いすで生活をしていますが、同世代の仲間と一緒に、養護学校いまでいう特別支援学校を経験することなく、成長しました。私と一緒に過ごした友人たちは「障害者は特別な存在ではない」と認識できたといいます。何らかの形で共通の経験を共有する機会をもつことは大事なことではないでしょうか。

選手が競技で輝きを放ち、満員の観客が熱狂するというのはパラリンピックの“成功”の一面ではありますが、それだけにはとどめてはいけません。競技を離れても、多様性を認め合い、ともに生きる社会を作り上げることは、もう一つの側面です。人は誰もが違う個性を持ち、お互いに支え合いながら生きています。そうした個性を認め合う社会を、障害のある人も受け身ではなく積極的に参加する。パラリンピックを単なるお祭りにしないためにも、この2年間でしっかりと土台を築くことが必要です。

(竹内 哲哉 解説委員)

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