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「自衛隊の次の翼は ~F2後継機問題~ 」(時論公論)

増田 剛  解説委員

こんばんは。ニュース解説「時論公論」です。
自衛隊のF2戦闘機。1980年代、その開発計画がFSXと呼ばれ、当時の日米経済摩擦の象徴にもなりました。
曲折を経て、日米共同開発となったF2。ただ、F2も、部隊への配備が始まってから20年近くが経過し、2030年代の退役が見込まれるようになりました。
新しい戦闘機の開発には、10年以上の期間が必要とされることもあり、この夏、政府内では、後継となる戦闘機をどのようなものにするかについて、議論が始まっています。
今夜は、このF2の後継機をめぐる議論の現状と今後の見通しについて考えます。
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解説のポイントです。
F2が日米共同開発の戦闘機として誕生した経緯を振り返った上で、後継機に関する軍需産業3社の提案、特に、現在「世界最強の戦闘機」と称されるアメリカ軍のF22をベースとした案を中心にみていきます。そしてこれに対する、日本政府内の議論の現状と今後の見通しについて考えます。
F2は、日本への侵攻を狙う地上や海上の敵を攻撃するための支援戦闘機として導入されました。2000年に部隊への配備が始まり、これまでに94機が調達されました。青森県の三沢基地や宮城県の松島基地などで運用されています。
現在、自衛隊が運用する唯一の日米共同開発の戦闘機F2。
そもそも、なぜ日米共同開発となったのでしょうか。
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F2は、今から30年以上前、FSX・次期支援戦闘機として、開発計画が持ち上がりました。
当初、政府や産業界は、国産による開発を目指していました。1980年代は、「メイド・イン・ジャパン」が世界的に高く評価された時代。日本経済が世界の頂点を極めつつある時代でした。
「日本の技術で世界に冠たる戦闘機を作れるのではないか」。
当時、計画に携わった関係者の間には、かつて「ゼロ戦」を生み出した、伝統の技術力を活かし、日本の航空機産業を発展させたいという思いがあったといいます。

しかし、FSX国産化の計画は、やがて日米の深刻な経済摩擦に巻き込まれます。
貿易戦争の真っ只中に産声をあげたFSXは、当時、アメリカで湧き上がった「日本脅威論」のシンボル的存在となったのです。
巨額の対日貿易赤字に苦しむアメリカは、日本に、自国の戦闘機を買うよう迫ります。
度重なる政府間交渉の結果、日本は国産を断念。アメリカ製の戦闘機をそのまま購入する事態は避けたものの、最終的にアメリカ製のF16をベースに日本の技術を加える、日米共同開発となりました。
その後、1990年に開発が始まり、さらに10年の歳月を経て、ようやく完成したのがF2です。
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F2をめぐる苦い記憶、つまり、当時のアメリカの政権が、安全保障を通商に絡めて日本に譲歩を迫る構図は、「アメリカ・ファースト」を掲げて、日本に武器の購入を促す、今のトランプ政権の姿を彷彿とさせます。
F2はまさに、日米の政治と通商をめぐる駆け引きに翻弄された戦闘機でした。
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このF2も、配備が始まってから20年近くが経過。機体の消耗が進み、2030年代、退役する見通しです。
新しい戦闘機の開発には、10年以上の期間が必要だといわれます。
このため、政府は、この夏、F2の後継となる戦闘機をどのようなものにするか、本格的な議論を始めました。
防衛省としては、この議論をふまえ、年末に策定する次期中期防・中期防衛力整備計画に、F2後継機の具体的な開発方針を明記したい考えです。
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では、具体的な検討状況をみていきます。
後継機の選択肢には、国産開発と国際共同開発、それに既存の戦闘機の改良の3つがあります。
このうち、国産については、防衛省や自民党の国防族議員の一部に、積極的な意見があります。国内の防衛産業の技術や生産基盤を維持するためというのが理由です。ただネックになるのは、巨額の予算。国産の場合の開発費は数兆円規模になるとみられており、戦後、日本企業による戦闘機の開発実績が乏しいこととあわせ、現実的な選択肢ではないとみられています。
一方、最も有力な選択肢とされているのが、国際共同開発、つまり、F2もそうでしたが、外国との共同開発です。
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防衛省は、先月13日、F2の後継機開発をめぐり、米英の軍需企業3社から提案があることを明らかにしました。
提案の内容は公表されていませんが、私が、政府や企業の関係者に取材したところでは、まず、ロッキード・マーティン社が、アメリカ空軍のF22戦闘機の機体をベースに、日本がすでに導入を始めているF35の電子機器を搭載するとした、F22とF35の混合型の戦闘機を提案しています。
また、ボーイング社は、現在、航空自衛隊の主力となっているアメリカ製のF15をベースにした案、BAEシステムズ社は、イギリス空軍の「ユーロファイター・タイフーン」の技術を活用した案を提出しています。
いずれの案も、日本との共同開発を前提としています。
このうち、現時点で、最も有力視されているのが、ロッキード・マーティン社の案です。
F2の後継機として、防衛省が要求する性能を多くの点でクリアしているとみられるからです。
この案のベースとなっているF22は、敵のレーダーに探知されにくいステルス性と、超音速での巡航飛行能力に優れ、専門家の間では、現在、世界最強の戦闘機と評価されています。
また、F22は、過去に日本政府が輸入を望んだものの、アメリカ政府と議会が、軍事技術の流出を防ぐためだとして輸出を解禁せず、日本は、代わりにF35を導入したという経緯があります。
今回の提案は、門外不出とされたF22の技術が、共同開発を通じて、日本に提供される可能性が出てきたことを意味します。
防衛省がこの案を評価する背景には、こうした事情もあるとみられています。
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ただ、防衛省が本命視するものの、ここでもネックとなるのは、コスト面です。
1機あたりの価格は200億円を優に超えるとみられ、防衛省が目安にしていた150億円を上回ります。
また予算の鍵を握る財務省からは、費用対効果の点から、すでにこの案を疑問視する声が上がっています。
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そもそも、財務省には、F2後継機について、巨額の費用がかかる国産はもちろんのこと、新規の開発そのものに慎重な見方があります。
防衛省は財務省を説得すべく、F2で実績のあるやり方、つまり、アメリカの機体をベースに日本企業の技術を取り入れる、日米共同開発を軸に検討を進めてきたわけですが、財務省の一部からは、「既存のF35を買い増して、改良すればいい」という意見も出ています。
増額が続く防衛費の更なる膨張を抑えるためには、新しい戦闘機の開発そのものを見送るべきだという考え方です。
ただ、これに対しては、「日本政府が、戦闘機開発への関与をあきらめれば、国内の防衛産業の衰退が決定的になる」という反論があります。
戦闘機開発にかかる少なからぬコストを覚悟してでも、防衛産業の衰退を避けるため、国内の技術基盤の確保に力を注ぐべきか。
それとも、緊密な同盟関係を維持する中で、戦闘機開発という、ある意味、リスクを伴う役割は、アメリカに委ねることで割り切り、防衛費の膨張を少しでも抑えることに重点を置くべきか。
政府が方向性を示すべき時期が、近づいています。
(増田 剛 解説委員)

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