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「どうなる?アメリカ中間選挙」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

11月のアメリカ議会の中間選挙まで残り80日を切りました。共和・民主両党が、それぞれの候補者を選ぶ予備選挙もほぼ山場を越し、次第に全体的な傾向が明らかになりつつあります。そこで、両党が激突する“選挙の秋”本番を控えて、いまの時点で情勢がどうなっているかを分析し、今後の展開を考えます。

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ポイントは3つあります。

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▼まず議会上院は、与党・共和党がやや優勢との見方が多いようです。トランプ大統領には朗報ですが、僅差の戦いの行方は、なお流動的です。
▼これに対して、下院は野党・民主党に勢いがあるようです。ほぼ無名だった新人候補らの躍進が目立ち、議席の多数奪還を目指します。
▼今度の中間選挙は、トランプ政権はあと2年で終わりそうか?それとも、あと6年続きそうか?再選への道筋の太い細いが見えてくるかも知れません。

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いま上下両院は、いずれも与党・共和党が多数を占めています。▼任期6年の上院は、定数100のうち、今回は民主党26と共和党9合わせて35議席が、▼任期2年の下院は、定数435議席すべてが改選されるのです。

4年ごとの大統領選挙のちょうど真ん中の年、大統領にとって任期後半への折り返しを前に行われるので「中間選挙」と呼ばれます。議会は法案や予算審議に絶大な権限を持っています。このため、トランプ大統領は、共和党の多数を維持することで、みずからの再選をめざす2年後の大統領選挙に向けて、弾みをつけたい考えです。

中間選挙は、ときの大統領の与党には政権批判の“逆風”が吹きやすいとも言われます。確かに過去そうしたケースは多かったのですが、与党が議席を増やしたケースもありました。いまアメリカの多くのメディアは、トランプ大統領に厳しい見方を大きく取り上げがちですから、私たちは注意が必要です。

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いま確実に言えるのは、中間選挙は比較的“投票率が低い”という事実です。前回の投票率は36点4%でした。大統領選挙の投票率は毎回だいたい60%前後ですが、中間選挙は40%前後。同じ国政選挙でも、有権者の関心は薄いのです。
このため、熱烈な支持者をどこまで動員し、投票に行ってもらえるか?党の組織力が勝敗を左右するのが特徴です。

もう一つの特徴は、現職が新人候補より強い傾向にあることです。もちろん例外はありますが、組織力がモノを言う選挙では、当選を重ねて知名度が高く、資金の調達力にも勝る現職に分があるのです。現に、戦後の選挙を平均しますと、現職が立候補した場合、再選される確率は上院で80%、下院は93%に達し、現職が圧倒的に有利です。

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では、そうした特徴をふまえた上で、上院の最新の議席獲得予測を見てみましょう。いまのところ民主党は45議席、共和党は48議席を固めたものとみられます。残り7つの議席が、どちらになるかわからない接戦です。
もともと共和党は、今回の改選議席が民主党より格段に少ないので、議席を失うリスクが小さい分だけ有利です。

しかも、接戦の7つの州で、おととしの大統領選挙の結果がどうだったかを見てみましょう。青色の西部ネバダを除いて、赤色の6つの州は、いずれも共和党のトランプ候補が勝利した州でした。無論すべて共和党が今回も勝てるとは限りません。共和党はネバダのほか、現職の引退で新人同士の対決となる西部アリゾナや南部テネシーでも、現有議席を失うかも知れません。
しかし、もともと共和党の地盤である中西部インディアナやノースダコタ、うまくいけば中西部ミズーリ、あわよくば南部フロリダでも、民主党の現有議席を奪い返せるかも知れません。
共和党が組織力を発揮して“トランプ支持者”を動員できれば、上院は僅差ですが多数維持が十分可能とみられているのです。

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ところが、下院は共和党が議席を減らす公算が高まっています。最新の予測では、民主党がすでに現有議席を上回る199議席を固めたのに対し、共和党が固めたのは194議席にとどまり、残り42議席が接戦とみられています。

なぜ共和党は苦戦しているのでしょうか?本来は有利になるはずの現職議員少なくとも43人が今期限りで引退を表明しているからです。これほど多くの現職の引退は過去に例がありません。ライアン下院議長をはじめ、トランプ大統領と一線を画してきた主流派の有力議員らが去ることで、共和党の組織力低下を危ぶむ声もあります。反対に、民主党は「下院の多数を奪還する絶好のチャンス到来」と勢いづいているのです。

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その民主党で目立つのは、プログレッシブ=進歩派と呼ばれる急進左派の台頭です。下院ニューヨークの予備選挙では、民主社会主義を標ぼうするサンダース上院議員の支持者で28歳、ヒスパニック系の無名だった女性の新人候補オカシオ・コルテス氏が、“次の下院議長”の呼び声もあった白人男性議員を破る“大波乱”がありました。

今回の中間選挙に立候補した女性は過去最多。その多くが民主党の候補です。トランプ政権への反発をいわば“原動力”に、民主党では、女性やマイノリティーの権利や医療保険、教育や福祉、環境を重視する勢力が躍進しているのです。

一方で、中道寄りの“変化”も兆しています。今月、共和党の固い地盤だった中西部オハイオ州で行われた下院の補欠選挙では、ペロシ下院院内総務ら現在の民主党指導部と一線を画し、共和党との協力にも前向きな新人候補が“大接戦”の健闘を見せました。

民主党に勢いがあるのは確かです。ただ、党の組織として、どんな方向を目指すのかが定まったとは言えません。先日これまで表立った政治活動を控えてきたオバマ前大統領が、民主党候補81人に支持を表明し、話題を呼びました。今なお“オバマ頼み”にならざるを得ないほど、求心力を持つ「党の顔」が見当たらない。それが目下の民主党の課題です。

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「共和党の顔」は無論トランプ大統領その人です。先週はツイッターへの書き込みを突如、怒涛のように連日倍増し、共和党候補を応援したり、メディアのトランプ批判に毒づいて実績を誇ったり、早くも戦闘モード全開で、巻き返しに余念がないようです。
来月からは週に6日でも7日でも各地を遊説し、苦戦している共和党候補をテコ入れするつもりだと言います。共和党の支持層に限っては、今なおトランプ大統領の支持率は圧倒的な高さを保っていますから、一定の功を奏するでしょう。
しかし、無党派層の支持を掘り起こすと言うよりは、従来の支持層の“支持固め”が中間選挙の基本対策ですから、移民問題でも通商問題でも、ますます強硬な政策に傾いて、過激な“トランプ節”が炸裂するかも知れません。
それは、かえって民主党の支持層を刺激して“反トランプ”で結集させ、共和党には逆効果となる可能性も否定できません。

中間選挙に臨む有権者は、雇用や経済に高い関心を寄せるのが通例です。いまアメリカの景気も雇用情勢も好調ですから、トランプ大統領の政治姿勢以外に、大きな争点が生まれにくい面はあるのでしょう。しかし、米中貿易摩擦の行方をはじめ、情勢を一夜でがらり変え得る不確定要素も、まだ多く残されています。
はたしてトランプ大統領は、上下両院で共和党の多数を維持し、再選に向けて足がかりを築けるか?それとも民主党に多数を奪われ、任期後半の政権運営に重大な支障をきたすのか?アメリカ国民の審判が問われようとしています。

(髙橋 祐介 解説委員)


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