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「沖縄県知事選挙へ 辺野古移設の行方は?」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員
西川 龍一  解説委員

伊藤)沖縄県の翁長知事が、先週亡くなりました。これに伴う県知事選挙は、来月30日に行われます。現職知事の突然の死が、政府と沖縄県が対立する普天間基地の辺野古移設にどのような影響を与えるのか。そして、沖縄県知事選挙で問われるものは何か。沖縄問題担当の西川解説委員とともに考えます。

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西川さん。普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐっては、今週末に大きな動きがあるのではないかと注目されていましたね。

西川)政府が、きょうにも埋め立て予定地に土砂を投入するとしたのに対し、沖縄県の翁長知事が、埋め立て承認の撤回の手続きに入る方針を表明していたためです。

伊藤)土砂の投入、承認の撤回のいずれも、きょうの段階では行われていません。翁長知事の死去が、影響を与えた面もあると見られます。
西川さん。まずこの問題をめぐる翁長知事のこれまでの対応とやり残したことを整理してください。

【国・県これまでの攻防】
西川)4年前の選挙で普天間基地の辺野古移設阻止を掲げて初当選した翁長知事は、「基地の危険性除去には辺野古移設が唯一の解決策」という政府との対立が続きました。
翌年、仲井真前知事が行った移設予定地の埋め立て承認を取り消して以降、国と沖縄県が複数の裁判で争うという異例の事態となりましたが、いずれも県側の主張は認められませんでした。移設工事は一時的に止まることはあったものの、去年4月には護岸工事が始まりました。今年4月、翁長知事は膵臓がんの手術を受けました。健康を不安視する声もありましたが、姿勢は崩さず、先月、移設工事を止める手立てとして、埋め立て承認「撤回」の手続きに入ることを明らかにした矢先の訃報でした。

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沖縄では多くの県民がその死を悼み、先週末開かれた辺野古移設阻止を目指す県民大会には、主催者側の発表で7万人が参加しました。
翁長知事の主張の中でも特に印象深いのは、「沖縄では1つとして県民が受け入れを認めたアメリカ軍基地はない。」という言葉です。沖縄では、戦後アメリカ軍の統治下で民有地が強制接収され基地が作られてきた、しかも本土では基地が次々と撤去される中で、国土の1%に満たない沖縄にアメリカ軍専用施設の70%以上が集中することになったという経緯があります。普天間基地の県内移設は認められないという原点がここにあります。

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伊藤)ここからは、辺野古移設をめぐる現状を見ていきます。政府は、埋め立て予定地への土砂の投入を行う方針です。西川さん、翁長知事は、これに対して、いわば遺言として埋め立て承認の撤回を表明した形ですね?

【撤回と土砂投入】
西川)埋め立て承認の「撤回」は、辺野古移設を阻止する「最後のカード」と言われてきました。この時期に表明したのは、国が県側にきょう、17日にも護岸で囲った埋め立て予定地に土砂を投入することを通知したためです。土砂が投入されれば海の原状回復は一層困難になるため、その前に撤回をという考えがありました。

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伊藤)政府は、日本を取り巻く安全保障環境は厳しいとして、日米同盟の抑止力を維持し、普天間基地の危険性を除去するためには、辺野古への移設が唯一の解決策だとしています。
そのためには、移設工事を着実に進めたいところですし、土砂の投入は、移設が後戻りしない段階に入っていることを印象付ける意味合いもあります。
政府は、沖縄県が、承認撤回に踏み切った場合、法的な対抗措置をとる方針です。これまでの裁判の結果から、沖縄県の主張が認められる可能性は低いという見方が支配的です。
ただ、きょうの土砂の投入は、台風の影響による準備の遅れを理由に見送られました。その背景には、知事が亡くなったばかりの時期に土砂を投入するのは、県民感情を逆なですることになりかねないという配慮もあったものと見られます。政府内では、土砂の投入は、知事選挙後まで延期したらどうかという意見も出ています。
西川さん。こうした政府の対応も踏まえ、沖縄県は、承認撤回のカードをいつ切ることになりそうですか。

【県は方針変えず、しかし、政治的な決断は・・・】
西川)県は承認を「撤回」する方針は変えていません。いずれ工事は進められるからです。
一方で、撤回は、翁長知事自身が「自らの責任で判断する」という考えを重ねて示していました。重い政治的判断を伴うだけに、政治家である翁長知事が亡くなったことで、知事に代わって誰が最終的に撤回の判断を行うのか、知事選の争点とするべきではないかとの意見もあり、判断の先行きが見通せない状況になっています。

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伊藤)政府と沖縄県ともに、相手の出方、県知事選挙への影響を考慮しながら、にらみ合う状況が続きそうです。
次に、その沖縄県知事選挙について考えます。沖縄県知事選挙は、来月、9月13日に告示。
30日に投票が行われます。選挙戦では、普天間基地の辺野古への移設の是非、そして、沖縄県の振興策をどう進めるかが大きな焦点になるものと見られます。
自民・公明両党を中心とする国政の与党側は、すでに候補者を決めています。佐喜真淳(さきま・あつし)氏が、自民党や経済団体からの要請を受ける形で、宜野湾市長を辞職して立候補する考えを表明しています。佐喜真氏は、表明にあたって、「翁長県政の4年間は、国との争いが絶えず、ひずみや分断が生まれたことも事実ではないか。対立から協調へ未来志向で沖縄のあるべき姿を見据えていなければならない」と述べています。
今後、具体的な政策の中で、辺野古への移設について、どういう考えを示すのかが注目点になります。
国政与党側は、選挙態勢作りを急ぎ、各種団体など、組織力をフル稼働して支持を広げていく構えです。ただ、翁長知事の死去に伴う選挙で、「弔い合戦」の色合いが強まることに警戒感もあるようです。
一方の県政与党側の状況はどうでしょうか。

【県政与党の展望は?】
西川)翁長知事の遺志を継ぐ候補を条件に、候補者選びを急いでいます。ただ、翁長知事が闘病生活を送っていた最中でも「翁長知事の後継者は翁長知事しかいない」という声が大勢でした。元々自民党出身の翁長知事は、日米安保体制は堅持する立場は崩さないものの、イデオロギーの対立ではなく、沖縄のアイデンティティーを示すことが重要と訴えて、保革を越えた県民の広い支持を集めました。このところ名護市や石垣市、沖縄市などの市長選挙で翁長知事が支援する候補者が相次いで敗れるなど、翁長知事の求心力に陰りが見えてきているという指摘もあるだけに、その遺志を継ぐことを追い風に結集できるのかが問われることになります。

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伊藤)告示まで1か月を切った沖縄県知事選挙は、極めて短期の総力戦として、激しい選挙戦になるものと見られます。
西川さん、改めてこの選挙で問われるものは何だと考えますか?

【果たされない約束(普天間閉鎖)に広がる疑念】
西川)沖縄の人たちにしてみれば、政府が当時の仲井真知事に約束した、来年、2019年2月の普天間基地の運用停止はどうなったのかという思いもあります。実現のメドがない中、結局、辺野古移設を条件としても、新しい基地ができるまで何年かかるかわからず、その間、普天間は固定化されたまま。政府が言う「一刻も早い普天間基地の返還」とはいつのことなのかということです。

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今週、全国知事会は、日米地位協定の抜本的な見直しや訓練ルートや時期の事前通知の徹底などを求める提言をまとめ、政府やアメリカ大使館に提出しました。沖縄の思いを初めて共有した形です。基地問題を日本全体で考えようという動きを注視していく必要があります。

伊藤)沖縄県知事選挙は、沖縄県政の今後を左右することに加えて、辺野古移設をめぐる国と県の対立の構図が続くかどうか、ちょうど、自民党総裁選挙の時期と重なるだけに、その結果は、国政に与える影響も大きいと見られます。そして、この選挙は、安全保障と沖縄の置かれた現状をどう捉え、基地負担の軽減をどう進めるのか、日本全体で考えるべき課題も投げかけるものになると思います。

(伊藤 雅之 解説委員 / 西川 龍一 解説委員)

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