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「2040年 『将来の自治体』その姿は?」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員

政府の地方制度調査会は、高齢者人口がピークを迎える2040年ごろを見据え、新たな地方行政のあり方について、議論をスタートさせました。人口減少社会における将来の地方自治体の姿を考えます。

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解説のポイントは、▽2040年ごろの日本とは、一体、どのような姿か。▽それを乗り切る“カギ”とされる『スマート自治体』と『圏域での連携』とは、どういうものか。その上で、▽これまでの教訓を踏まえ、将来の地方自治体の姿をどう考えるか、です。

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政府の地方制度調査会は、総理大臣の諮問を受けて、地方制度の重要事項について審議する諮問機関です。安倍総理大臣は、先月、「急速な少子高齢化、深刻な人口減少により、2040年ごろには、歴史上体験したことのない事態に直面する。2040年ごろから逆算して見えてくる諸課題について、具体的な解決策を検討してほしい」と述べ、新たな行政のあり方について審議をスタートさせました。

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では、その安倍総理が言う、2040年ごろの日本とは、どういう姿でしょう。

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政府の資料によりますと、▽日本の人口は、およそ1億1100万人と、今より1500万人あまり減少。全国のおよそ4分の1の自治体で、人口は、いまの半分程度になります。また、▽高齢者人口がピークを迎える一方、若い労働者の絶対数は減り、労働力不足が更に深刻化します。▽社会保障費や老朽化したインフラの修繕費など、行政の支出は増大。逆に、収入は、人口減少による所得や地価の下落で落ち込み、地方財政は一層厳しくなるとしています。

そうした状況を見据え、今後、どのような議論が進んでいくのでしょうか。その叩き台になると見られるのが、先に総務省の研究会がまとめた報告書です。提言は、多岐に渡っていますが、キーワードは、『スマート自治体』、そして、複数の市町村による『圏域での連携』です。

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まず、スマート自治体とは何か。報告書は、AI=人工知能などを活用し、「従来の半分の職員でも、自治体として本来担うべき機能を発揮できる」姿だとしています。自治体ごとにバラバラな情報システムなどの標準化・共有化を進めると共に、AIやロボットなどで処理できる事務作業、例えば、▽住民から送られてきた書類をデータにまとめたり、▽パターン化したりしている作業などは、全てAIなどに任せる。そして、職員は、企画立案や住民への直接サービスなど、「職員でなければできない業務」に集中するとしています。
一方、報告書は、「人口減少社会では、地域の中心都市でも都市機能が維持できなくなる」として、自治体のあり方、そのものも転換が必要だとしています。人口が減り、自治体の力が弱くなれば、いまの様に、それぞれの市町村が全ての行政サービスを提供することは難しくなります。そこで、中心市と周辺の複数の市町村からなる、『圏域』単位で行政を進めていくことをスタンダード=標準とする。一方、地理的条件などで、圏域に入れない地域に対しては、都道府県が、直接、補完・支援に乗り出すとしています。

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ただ、この圏域での連携というアイディア自体は、新しいものではありません。同じような考えは、前の地方制度調査会の答申にも盛り込まれており、人口20万人以上の市を中心とした、『連携中枢都市圏』は、すでに、全国に28箇所あります。しかし、自治体間の利害調整が難しいことなどから、多くが、図書館などの施設の相互利用や、観光イベントの共同開催といったレベルに止まっています。このため報告書は、▽圏域として行政を進める法律上の仕組みを設ける、とした上で、▽「連携を促すルール作りや、財政支援、あるいは、連携しない場合のリスクを可視化するなどといった手立てが不可欠だ」と指摘しています。

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地方制度調査会は、こうした報告書などを踏まえ、今後、2年を掛けて議論することにしていますが、初会合で、地方の代表からは、「地方創生の努力に水を差すもの以外の何モノでもない」という厳しい声が出されました。それでも、政府が議論に踏み出した背景には、市町村合併を進めてきた合併特例法の期限が再来年3月で切れることがあります。であるならば、その平成の大合併がどうだったのか、検証する必要があるでしょう。

平成11年に始まった平成の大合併も、人口減少や少子高齢化といった社会情勢の変化、そして、地方自治体の基盤強化が目的でした。合併特例債の発行などといった財政措置のもと、事実上、国主導で進められ、市町村の数は3229から1718と大幅に減りました。合併して、自治体の財政基盤は強化され、広域的な街づくりが可能になりましたが、住民からは、「中心部だけが良くなり、周辺部はかえって過疎化が進んだ」という声も聞かれます。また、職員の再配置や公共施設の統廃合など、行政の効率化が進んだ一方で、役所と住民との距離は遠くなり、「住民の声が届き難くなった」という批判も根強くあります。

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では、このような課題・教訓を今後の議論にどう生かすべきでしょうか。
今回、『合併』ではなく、市町村の『連携』が強調されたのは、『大きすぎる自治体』という合併の弊害を考慮したものと言えるでしょう。ただ、圏域という単位で一括りにし、幅広い連携を進めていけば、やがては、弱い自治体は飲み込まれてしまう恐れもあり、「合併と変わらない」と指摘する声もあります。圏域という枠組みの中で、各自治体が、対等な存在として、自主・独自性を発揮できる仕組みをどう設けるかは、簡単ではありません。

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また、スマート自治体も、AIなどの活用で、より良いサービスが提供できるようになるのではなく、単なる職員の削減なら、住民との距離は、ますます離れてしまうでしょう。

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さらに、先の合併の大きな問題は、国によるトップダウンの手法にありました。国が背中を押さなければ合併が進まなかったのも事実ですが、十分な議論や理解がないまま合併に突き進んだ“ツケ”が、いま、住民の不満、または、地域コミュニティーや防災力の低下といった様々な形で表面化しています。同じ轍を踏まないためにも、押し付けではなく、広く当事者の理解が得られる丁寧な議論が求められます。

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一方、自治体の側も、新しい自治体の姿について、もっと積極的に議論をリードする、あるいは行動で示していく姿勢が問われています。先の合併で、明暗を分けたのも、その自治体が主体性と責任を持って判断し、住民と十分な合意ができていたかどうかだからです。
各地の努力と工夫で、魅力ある地域づくりの成功例を積み上げ、地方自治体の可能性を、もっとアピールしていくことが重要です。

人口減少のもと、自治体を維持していくには、連携や業務の効率化は不可欠ですし、それでも足らざるところは、住民にきちんと説明し、その穴を埋めるため、理解と協力を仰ぐことも必要になるでしょう。
厳しいシナリオだからこそ、「地域のことは地域の責任で決める」。
過去に経験のない事態だからこそ、そうした、『地方自治の原点』を思い返し、将来の自治体の姿を描いていく必要があるように思います。

(太田 真嗣 解説委員)

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