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「日米通商協議始まる~アメリカの圧力をどうかわす」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

日本とアメリカとの、新たな通商協議が、9日からワシントンで始まりました。FFRと呼ばれるこの協議の開催を強く求めたのはアメリカです。その狙いは何なのか。日本はどう対すべきか。この問題について考えていきたいと思います。

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通商協議初日は、二国間の自由貿易協定に意欲を示してきたアメリカのライトハイザー通商代表が二国間の交渉を重視する立場をあらためて強調しました。これに対し、日本の茂木経済再生担当大臣は、アメリカに対し多国間の枠組みであるTPPに復帰することを求め、双方の対立の構図が鮮明となりました。

そこできょうの解説のポイントです
1)    アメリカはなぜ二国間協議にこだわるのか
2)    アメリカの交渉姿勢は“超”強硬となることも
3)    最後に、日本はアメリカの圧力をどうかわすか です。

まず最初に、アメリカが二国間の交渉にこだわるのはなぜでしょうか。最大の理由が対日貿易赤字の大きさです。

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こちらは去年1年間のアメリカの貿易の統計のグラフです。日本に対する貿易赤字は、中国メキシコに次いで3番目の大きさですが、それでも688億ドル日本円でおよそ7兆5000億円にのぼっています。
トランプ大統領の理屈では、貿易赤字がアメリカの労働者の雇用を奪う元凶となっています。そこで秋の議会の中間選挙を前に日本との間で二国間の自由貿易協定の交渉を進め、貿易赤字縮小に取り組む姿勢をアピールしたいという思惑があります。
アメリカが今回の協議にかける期待の強さは、協議につけられた「FFR」という名称からもうかがえます。

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FFRとはFREE,FARE,そして互恵的という意味のRECIPROCALの頭文字をとってならべたものです。互恵的というのは、お互いに利益があるという意味ですが、この言葉はアメリカの要望で付け加えられました。日本が貿易黒字の恩恵を受けているなら、自動車の安全規制などの非関税障壁や農産物の関税障壁をとっぱらい、アメリカにも恩恵を与えるべきだという強い意思が込められているのです。

そこで心配なのは、アメリカが自らの主張を通すために、国際ルールに違反した一方的な制裁措置をとってこないかどうかです。話は20年あまり前にさかのぼります。

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1995年、日本からアメリカへの自動車の輸出が年々拡大するなか、貿易不均衡を是正するための日米間の通商協議が行われました。この協議でアメリカは、日本の自動車メーカーがアメリカ製の自動車部品をどれだけ買うか、具体的な数値目標を示して約束するよう求めました。これに対し、日本側は、自由競争を原則とする国際ルールに違反するとして、要求をはねつけました。するとアメリカは自国の法律、通商法301条に基づいて日本から輸入する高級車に、100%の関税をかす一方的な制裁措置に踏み切り、日本の譲歩を迫りました。結局日本の自動車メーカーがアメリカでの現地生産の拡大を自主的に表明した事などで、事態は収まりましたが、この一件は、ひとたび交渉が始まれば、目標を達成するためには手段を選ばない、アメリカの強硬な姿勢を如実に示すものでした。
そしてそのアメリカの厳しい交渉姿勢は、いまも発揮されています。それを鮮明に浮かび上がらせているのが、中国との貿易摩擦です。

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 先月、トランプ政権は、中国がアメリカ企業の知的財産権を侵害しているとして、中国からの500億ドル規模の輸入品に25%の関税を上乗せする一方的な制裁措置の発動を部分的に開始しました。
これに対し中国側が、アメリカと同等の規模の輸入品に25%の関税を上乗せする報復措置に踏み切る構えを見せると、アメリカは、さらに2000億ドル規模の輸入品に最大で25%の関税を上乗せする措置を検討し始めました。けた違いの制裁をふりかざすことで、相手が音を上げるのをまとうとしているかのようです。

そして今回の日米間の協議に関しても、非常に気がかりなことがあります。アメリカはいま、海外からの自動車の輸入品に20%の関税をかけることを検討しています。

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日本の自動車メーカーは年間170万台の車をアメリカに輸出しています。自動車メーカーでは、実際に高額な関税がかかれば、1台あたり60万円をこえる負担が生じるとしています。一方でこの負担を価格に転嫁すれば、現地での販売減少、すなわち、輸出が減少するおそれがでてきます。そうなれば、自動車メーカーだけでなく、部品メーカーもふくめた広い範囲で、日本経済が打撃を受けることになります。懸念されるのは、トランプ政権が、この自動車の関税引き上げを、日本との協議で譲歩を引き出すためのカードに使ってくることもありうるということです。

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ではどうしたらアメリカの圧力をかわすことができるでしょうか。その一つの方策がアメリカを多国間の自由貿易の枠組みに引き戻すことです。

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日本が加盟するTPP=環太平洋パートナーシップ協定は、年明けの発効が見込まれます。これに加えて日本は先月EU=ヨーロッパ連合との間で経済連携協定に署名しました。こうした経済連携の規模を見ますと、TPPが世界のGDPの13%、日・EUはおよそ3割を占めます。さらにTPPには今後タイやイギリスが加盟の意欲を示しています。貿易の自由化を目指す経済連携の輪は着々と世界に広がろうとしているのです。

こうした中で日本はアメリカに対し、二国間交渉にこだわらず、経済連携に入ったほうが得だと説得することが必要です。

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例えばアメリカが日本へ牛肉を輸出する際にかかる38.5%の関税。TPPに加われば、牛肉の関税は最終的に9%まで引き下げられます。逆に加盟しなければTPPに加盟するライバルのオーストラリア産牛肉との間で価格競争力に大きな差が生じることになります。
またトランプ政権は、WTO・世界貿易機関が中国の知的財産権の問題に対応できていないとして、国際ルールに違反する措置で解決をはかろうとしていますが、新たな経済連携には、WTOでは規定していない貿易や投資のルールも盛り込まれています。日本としては、アメリカに対し、国際ルールに違反するのでなく、新たな経済連携を通じて中国に圧力をかけていくほうが得策だと説得する。そうすることで、アメリカの保護主義的な行動に歯止めをかける役割が求められていると思います。

その一方で、アメリカに対して、間違っていることは間違っているとしっかり指摘することも必要です。

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EUやカナダなどは、アメリカの鉄鋼製品などをめぐる一方的な関税引き上げ措置に対して、アメリカからの輸入品に対して関税を引き上げる対抗措置をとるとともに、WTOに提訴しました。日本としても何も言わないままでは、アメリカからさらなる攻勢を受けるおそれがあります。アメリカの国際貿易ルール違反には、EUなどともスクラムを組んで抗議し、必要があればWTOに提訴するといった毅然とした対応をとっていくべきだと思います

新たな通商協議は、日米の対立の根が深いだけに、長期にわたることも予想されます。この中で日本としては、日米両国がお互いの経済、そして世界経済のために何をするのが最善かという原則にたって話し合いを続け、アメリカのルール違反にはしっかりとNOをつきつける。そうした是々非々の姿勢でのぞむことが求められていると思います。

(神子田 章博 解説委員)

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