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「東京医大 なぜ入試で『女性差別』」(時論公論)

堀家 春野  解説委員

公正に行われるはずの大学入試が歪められていました。文部科学省の前局長の息子を不正に合格させていた東京医科大学で、女子の合格者の数を意図的に抑え差別的な扱いをしていたことが明らかになりました。背景にある医療界の問題について考えます。

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解説のポイントです。

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▽公表された大学の調査結果。▽女子の受験者が差別的な取り扱いをされた問題の背景。そして、▽女性活躍の建前と本音を埋めるには、です。

【調査結果】
東京医科大学は東京・新宿区にある100年以上の歴史を持つ私立の医科大学です。
便宜を図ってもらう見返りに文部科学省の前局長の息子を不正に合格させたとして、7月前の理事長らが贈賄の罪で在宅起訴されました。
7日は事件を受けて大学が設けた調査委員会が会見を開き、結果を公表しました。
医学部医学科の一般入試は400点満点のマークシートの1次試験のあと、2次試験で小論文と面接が行われます。明らかにされた不正の詳細です。

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1次試験では去年は13人、ことしは前局長の息子など6人の、合わせて19人に8点から49点を不正に加算。2次試験ではすべての受験者の小論文に「0.8」の係数を掛けて一律に減点した上で、3浪までの男子には10点から20点を加算する一方、女子と4浪以上の男子には一切、加算せず合格者を抑えていました。結果は、男子の合格者が141人だったのに対し、女子は30人でした。
こうした点数の操作は少なくとも平成18年度の入試から悪しき伝統のように行われていたということです。調査委員会は「重大な女性差別的な思考に基づくもので、強く非難されるべきだ」と指摘しました。なぜ、医師になりたいという志を持った受験生を女性というだけで排除していたのか。「女性は結婚や出産で職場を離れることがあり、人手が足りなくなるから」と指摘する関係者もいます。大学には附属の3つの病院があり、多くの卒業生はここで働きます。医師不足への危機感から病院を運営するための人材を入試の段階で選別していたと疑わざるを得ません。しかし、大学は募集要項などで受験生に対してこうした事実についていっさい明らかにしていませんでした。まるでだまし討ちのような対応です。入試は公正に行われるものだと信じ、大学を選んだ受験生たちへの裏切り行為で決して許されません。なぜ、こうした不正が長年続けられてきたのか、大学はうやむやにすることなく検証するとともに、救済措置を急がなければなりません。

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【問題の背景は】
今回の東京医科大学の不正とは別に、女性への差別的な扱いは他の大学でも行われているのか。医学部がある大学の学長経験者は「ここまであからさまなことはしないが、同じ成績なら男子を採るようにしていた」と明かします。国は女性医師の支援に力を入れ、多くの医療関係者は女性医師には活躍して欲しいと話します。しかし、現実はそう簡単ではなく、どうやら本音と建て前があるようです。

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女性医師の数は年々増加し、いま、2割を超えています。しかし、その割合は先進諸国では最も低くなっています。女性の進出を阻む理由として指摘されているのが、日本の医療現場が抱える構造的な問題です。医学部を卒業し臨床研修を終えた直後の若い世代では就業率はおよそ95%と男性とほぼ同じです。しかし20代後半から30代後半にかけて女性医師の就業率は下がります。その大きな理由は、ほかの職場と同じように出産や子育てです。さらに、過酷な「長時間労働」がよりいっそう仕事との両立を難しくしています。

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こちらは、病院で働く20代の医師の週当たりの平均の勤務時間です。男女ともにおよそ60時間にも及んでいます。特に男性は、法律で定められた労働時間の40時間を25時間も上回っています。この25時間の残業がもし1か月続くと、過労死ラインの100時間に達してしまいます。医療の現場には、患者の命を守るには長時間労働は仕方ないと考える体質が根強くあります。労働時間を管理するという考えも欠けています。こうした環境の中、「自分たちと同じように働けない女性は困る」。「女性が増えると自分たちにしわ寄せがくる」。こうした本音が医療現場には少なからずあると感じます。

【建前と本音埋めるには?】
ではこの本音と女性医師の活躍を進めるという建て前の間にあるギャップを埋める努力をしてきたのか。医療現場全体の長時間労働を是正することなく女性医師への支援策を進めてもこのギャップは広がるばかりです。
ここで、医師独特の働き方の、病院に泊まって緊急の患者に対応する「当直」を例に考えます。

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日中働いてそのまま当直に入り、睡眠がとれないまま連続で30時間以上働くこともあるといいます。妊娠や育児をしている女性医師が必要な支援としてあげるのは、この当直などの免除です。合わせて同僚にしわ寄せがいかないよう医師の増員も必要です。こうした支援を行っているところもありますが、まだ広がっていないのが現状です。必要なところには人員を増やし、翌日は早く帰れるようシフトを組み直す。1人の主治医が患者を24時間診るのではなく、複数の医師がチームを組んで対応する。これまで当然のように行われてきた長時間労働を是正する工夫をして、誰もが働きやすい環境をつくっていかなければなりません。

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そのために必要なのはトップの意識改革です。医療の現場では、自分たちが長時間労働をいとわず患者の命を守ってきたのだから、後輩たちも同じように働いて当然だという考えが根強くあるのも事実です。しかし、時代は確実に変わっています。男性であれ女性であれ、自分たちの健康や生活を大切にしながら、やりがいを持って仕事をしたい。そう考える人は増えています。そして医師の健康を守ることが、医療の安全を守ることにもつながります。
若い医師たちの声を真剣に受け止め、旧態依然とした医療界の体質を変えていかなければなりません。

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今回、明らかになった東京医科大学の問題は不当に女性を差別するもので決して許されるものではありません。
ただ、この問題は医療現場が変わるひとつのきかっけになるのではないかとも感じます。
これから私たちの社会はますます人口が減少します。一方で、高齢化や医療の高度化によって医療現場はさらに忙しくなると考えられます。育児だけでなく、介護など何らかの事情を抱え、仕事をセーブする人を排除していたら、医療ニーズに応えることは到底できません。いまの時代にあった多様な働き方を医療の現場でも実現することができるのか、問われています。

(堀家 春野 解説委員)

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