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「夏の全国高校野球100回大会 ~新たな歴史を刻むために~」(時論公論)

小澤 正修  解説委員

100回大会を迎える夏の甲子園、全国高校野球選手権が、8月5日に開幕します。プロ野球の発足より早く、大正4年に第1回の全国大会が行われた高校野球。その現場は長い歴史を経て、徐々に変化しています。節目の大会を前に、新たな歴史を刻むため、今後、何を変えたらよいのか、何を残すべきなのか、考えます。

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解説のポイントです。

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■まず長い歴史を築いてきた高校野球の本質を考えます。
■そして変わる現場を「二極化」と「時短」のキーワードでみてみます。
■その上で求められる改革から、高校野球のあり方を考えます。

▼長い歴史を重ね100回大会を迎えた夏の甲子園
高校野球は、球児が憧れの甲子園を目指し、同じ目標を持つ仲間と努力を重ねることで、長い歴史を築いてきました。100回大会まで、数多くのチームが、その大舞台で輝きました。私が強く印象に残っているのは、徳島の池田高校です。当時はまだ珍しかったウエイトトレーニングをいち早く取り入れて全国のライバルを圧倒し、その強打は「やまびこ打線」と呼ばれました。四国の県立高校を全国の強豪に育てた当時の蔦文也監督。「山あいの子供たちに大海(甲子園)をみせてやりたかった」という言葉を残しています。

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石川の星稜高校との激闘を演じた和歌山の箕島高校、決勝終盤の逆転劇で夏の甲子園を制した佐賀北高校。甲子園を目標に地元の仲間が集まり、知恵と工夫で強豪校に立ち向かう姿は、多くの人の記憶に刻まれていると思います。甲子園が高校野球のすべてではもちろんありません。ただ、多くの球児が甲子園を現実にかなう目標としてかかげ、切磋琢磨してきたからこそ、100回大会という長い歴史をつないできたのではないかと思います。

▼変わる高校野球①「二極化」
新たな歴史を考える上で、現場に起きている2つの変化を考えます。今、全国でチームの二極化が、じわじわと進んでいます。

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15年前に比べて、部員10人未満のチームはおよそ3倍に増え、また、100人以上も初めて100校の大台にのりました。ことしは100回大会の56の代表校のうち、半数近い25校が部員数90人以上となりました。
高野連、日本高校野球連盟の関係者は「球児にとって日本列島が小さくなってきた」という表現をしました。以前から、いわゆる野球留学はありましたが、今は、チームや指導者がどのような取り組みをしているか、情報が全国に瞬時に広まり、交通網の発達も相まって、甲子園出場のためだけではなく「自分の力を伸ばす」ために、広く進学先を選ぶ傾向が強まっているのではないかと指摘されています。少子化を受けて、各地域でも特色のある学校作りが進む中、どこに進学するかは、本人の意思が尊重されるべきです。ただ、二極化がさらに進めば、レベルの差がより広がることも懸念され、甲子園という目標を、現実的に持てない球児も増えてしまうかもしれません。

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▼甲子園を目指す公立の取り組み
こうした中、地元の球児が中心となる公立高校で、甲子園を目指す取り組みが成果を出しつつあります。激戦区のひとつ、東京では20年前まで、都立高校の甲子園出場はわずか1回だけでした。しかし都立の指導者どうしがレベルアップについて研究しあい、その結果、この20年で夏の甲子園出場回数はのべ3回、東西の東京大会での準優勝もことしの小山台高校を含めて3回と、飛躍的に力をつけています。また、高知県の檮原高校は、過疎や高齢化が進む自治体が、活性化策のひとつとして町営グラウンドを無料で貸し出したり、使われなくなった町営の幼稚園を寮として整備したりするなどの支援を行い、去年の高知大会で準優勝する成果をあげました。

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こうした取り組みが続けば、小学生から一緒にプレーしていた仲間とともに、地元で甲子園を目指したいという球児も増えることが見込まれ、二極化にも、一定の歯止めがかかる可能性が高まると思います。
甲子園を目指すひたむきな球児の姿は、結果以上に、100年以上、ファンが支持してきた高校野球の魅力だと思います。球児が夢を現実的な目標にできる、さまざまな取り組みが進むことを期待したいと思います。

▼変わる高校野球②「時短」
最近の現場の変化をもうひとつ、見てみます。それは「時短」とも言える、取り組み方の変化です。

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高野連などが行った実態調査によりますと、毎日練習をする学校は、15年前より20ポイントも減少、87%の学校で週に1回以上の休日を設けていました。自主練習を含めた平日の練習時間も、3時間未満が半数をこえています。昭和60年代に高校野球をしていた私にとっても、驚いた調査結果でした。その背景にあるのは、指導者の意識が大きく変わったことだと思います。高校生の気質の変化を受けて、多くの指導者は「やり方を変えないと選手がついてこない」と考えています。そして、指導方法を模索し、プロ野球や大リーグなどの練習も参考に、効率的で科学的な指導方法を取り入れています。かつて、多くの野球部には、練習中に水を飲んではいけないという決まりがありました。今は熱中症にならないよう積極的な水分補給が叫ばれますが、当時は、体がだるくなる、苦しいことを乗り越えてこそ精神的に強くなるという考えが根強かったのだと思います。ただ科学的な根拠はなく、精神論的な指導方法が「好きだけでは続けられない」と、野球から離れる部員を生み出すことにもつながっていたと思います。取り組み方の変化を受けて、今、「野球部を辞めない部員」が増えています。1年生で入部してから最後まで野球を続けた部員の割合を示す、継続率では、調査が始まった昭和59年度は、およそ73%でしたが、今年度は91%と、過去最高を記録しました。
スポーツは、選手本人が自主的に、そして科学的な視点で実戦に即した練習を行うことが、技術向上の大きなポイントです。団体競技では時には長時間の練習が必要なこともあります。それでも、指導者が球児に競技の魅力、そして上達する楽しさを伝えられるよう、指導方法の研究をさらに重ね、取り組み方を変えていくことは、高校野球の未来に、必要なことだと思います。

▼求められる高校野球の改革は
高校野球の新たな歴史を考える上で、改革が求められていることもあります。炎天下で行われる夏の甲子園での健康対策です。高野連は準々決勝後の休養日に続き、ことしから得点が入りやすいよう延長13回からは、ノーアウト1塁2塁で攻撃を始めるタイブレークを導入しました。延長再試合がなくなることを惜しむ声もありますが、かつては指導者の指示だけではなく、選手自身も「高校で終わっていい」と無理を承知でプレーを希望する場合もありました。こうした結果、故障が原因で野球から離れざるを得なかった選手が出たのも事実です。特にことしは、記録的な猛暑を受けて、さらなる改革を求める声もあがっています。連投をはじめとする投球に関する制限や、最も暑い昼の時間帯をさけたナイトゲームの実施など、選手の健康を守る仕組み作りについて、様々な案を本格的に議論することが必要ではないかと私は思います。

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公立、私立、どの学校に進んだ球児も、けがや根拠のない練習で野球を離れることなく、甲子園という夢を現実的な目標として努力する。それができる環境作りをさらに進めることが、高校野球の新たなステージに向けて、求められます。

▼未来の高校野球へ
甲子園でも活躍したソフトバンクの王貞治・球団会長から、こんな言葉を聞いたことがあります。「高校野球の選手全員がプロになるわけではない。しかし、“甲子園にいく”という目標を仲間と共有し、懸命にボールを追いかけるのは得がたい経験だ。将来どんな道に進んでも、その経験は人生で大きな糧になる」。

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この言葉が、高校野球の本質だと私は思います。長い伝統で培ってきた本質は変えず、球児のために勇気を持って変えるべきところは変える。それが新たな100回へのスタートになると思います。

(小澤 正修 解説委員)

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