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「地球温暖化と激化する気象災害」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

先月24日、世界気象機関は会見を開き、世界各地で異常気象が相次いでいると発表しました。そしてそれぞれの直接の原因は地域ごとに異なり、地球温暖化のせいだとすることはできないと断った上で、こうした猛暑や豪雨などが増加しているのは、長期的な地球温暖化の傾向と一致していると警鐘を鳴らしました。

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なぜ温暖化が進むとこうした異常気象が増えるのでしょう?
ごく単純化して言えば温暖化とは「水の循環が極端になる現象」とも言えるからです。通常、陸や海からは水分が大気中に蒸発し、やがて雲を作り雨になって循環しています。

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 ところが温暖化が進むと蒸発する水分が大幅に増えます。その結果、水分を奪われた陸地では乾燥化が進み干ばつや火災のリスクも増します。一方、熱帯の海ではさらに大量の水が蒸発し、大気中に含まれるようになります。しかも、海水が蒸発する時に奪う熱が、形を変えて大気を運動させるエネルギーになるため、台風などの暴風雨が強く発達しやすくなります。そして大気に含まれた大量の水蒸気は豪雨をもたらし、洪水や土砂崩れにつながります。

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 このように温暖化が進むと猛暑だけでなく、雨が降る所では豪雨災害が深刻化し降らない所では干ばつが深刻化と両極端な現象をもたらしやすくなると考えられるのです。

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  西日本豪雨の際、日本付近からはるか南方にかけて大量の水蒸気が分布していたと、名古屋大学の研究グループが解析しています。赤い部分が大気中の水蒸気の総量が多い場所を表します。去年大きな被害をもたらした九州北部豪雨の時と比べても水蒸気の多いエリアが広がっていることがわかります。
 そして、極端な大雨が降る回数も、アメダスのデータで以前より確実に増えています。温暖化が進むにつれてかつてないような気象災害が起こりやすくなっている、言わば災害のフェーズが変わりつつあると言えるでしょう。
 
 この先はどうなるのでしょうか?IPCC・気候変動に関する政府間パネルは、2015年に採択されたパリ協定に先立って将来予測などの科学的根拠をまとめています。

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 温暖化が進めば、猛暑や高潮、洪水など気象災害の深刻化で命の危険にさらされる人が増えると考えられます。それだけでなくインフラの機能停止につながったり、食糧不足や水不足など世界規模で様々なリスクが増すと予測されています。
 日本では具体的にどうなるのかは環境省が去年、新たな予測をまとめました。それによると、このまま温暖化が進んだ場合、今世紀末には全国の平均気温は現在より4.5℃も上昇します。先日、埼玉県熊谷市で観測史上最高の気温41度1分を記録しましたが、40℃を超える日も珍しくなくなりそうです。1日に200ミリ以上といった豪雨の回数も2倍以上に増えるとしています。

 では、こうした深刻な事態に対して私たちは何が出来るのでしょう?先頃の国会で一般にはあまり注目されることなく成立した一つの法律があります。「気候変動適応法」です。

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 これは温暖化を食い止めるための努力はもちろん必要だとしても、もはやその悪影響はゼロにはできないため、各自治体にも温暖化を前提にして被害を抑える適応計画の策定を求めるなどの内容です。
 もちろん、自治体が温暖化への適応策としてできることは、農産物の品種改良から熱中症対策まで少なくありません。防災面に限っても、正確なハザードマップや大雨の排水設備の整備。住民に避難勧告を迅速に伝えられる仕組みや避難所・避難訓練の充実も必要でしょう。とはいえ西日本豪雨のような極めて広範囲の気象災害に対しては、個々の自治体に出来ることは限界があるのも事実です。
  根本的に温暖化の被害を抑えるには、やはり国、さらには世界全体で脱炭素社会を目ざしていくことが不可欠です。こうした中、経済産業省の官民協議会は先月24日、2050年までに日本の自動車メーカーが世界で販売する乗用車を全て電気自動車やハイブリッド車などモーターを使ういわゆる「電動車」とする目標を打ち出しました。世界的に電気自動車へのシフトが加速する中、自動車産業の競争力と温暖化対策の両立を目指す動きと言えるでしょう。これを身近なレベルで考えると、例えば家の屋根に太陽光パネルを貼り、電気自動車のバッテリーに電力を貯めて夜間などは家に戻すシステムにすれば、再生可能エネルギーの不安定さを吸収し、原理的には再エネ100%の生活も可能になります。
 また、環境省は30日、二酸化炭素の排出を有料化する「カーボンプライシング」の活用を議論する会議を立ち上げました。これは炭素税や排出量取引などを通じて、二酸化炭素を出さない方が得になるよう調整を図る仕組みです。経済団体などから強い反対があり新たに導入されるかは不明ですが、従来の枠組みを超えた温暖化対策が必要なことは確かでしょう。

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 世界の動きはどうでしょう?「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムは今年1月、現実となる恐れが最も高いリスクとして異常気象を挙げています。そしてアメリカではトランプ大統領がパリ協定からの離脱を宣言した後も、グーグルやアップルなど巨大企業が相次いで、再生可能エネルギーで電力の100%を達成したと発表するなど脱炭素化への大きな流れは変わることは無いでしょう。
 しかし、今世紀末の気温上昇を2℃未満に抑え、激化する災害で命や暮らしを奪われる人を出来る限り少なくするためには、こうした変革をさらに社会全体で加速していく必要があるのです。
 その一方で、明日にも起こるかもしれない気象災害から今、身を守ることができるのは私たち自身に他なりません。先月22日、防災に関わる学会の集まりである「防災学術連携体」が西日本豪雨を受けて一般市民への緊急メッセージを発表しました。これまで豪雨災害がなかった地域も例外ではないと日頃からハザードマップの確認などを呼びかけた上で、「あなたには自分と家族を守る責任があります」と訴えています。
 行政や産業界、専門家にそれぞれ最大限の役割を求めると共に、私たちもまた日頃から災害に備え、いざというときはためらわず避難する、そんな意識を持ちたいと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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