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「新幹線 台車亀裂 二度と起こさないために」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

二度と同じことを起こさないために何が必要なのでしょうか。2017年12月、東海道・山陽新幹線で台車に亀裂が見つかったトラブルについて、国土交通省の検討会が2018年7月27日報告書をまとめました。一歩間違えれば大惨事になりかねなかったトラブルの再発防止策をどう進めていけばいいのか考えます。

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解説のポイントです。

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▽今回のトラブルで何が問題だったのか、
▽そして、国土交通省の検討会がまとめた再発防止策をみた上で、
▽新幹線の安全性をさらに高めるにはどうしたらいいのか考えます。

亀裂が見つかったトラブルは2017年12月に起きました。

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博多発・東京行きの走行中の「のぞみ34号」で、異音や異臭、モヤ、振動が繰り返し報告されました。異常は、新大阪までに合計30件に上りました。名古屋で運行を取りやめて調べたところ、台車に亀裂が見つかりました。
亀裂は台車の重要な骨組み部分にありました。切れていない残りの部分は上側の3センチしかありませんでした。運行を続けていれば、高速走行中に脱線していたかもしれないと指摘されています。

亀裂の原因は、国の運輸安全委員会が調査していますが、製造の仕方に大きな問題がありました。台車の骨組み、下の図の左のブルーの面で切った断面が図の右です。

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台座が取り付けられますが、上図の右の断面の下部が下側にやや出っ張っていたため、製造のとき削って平らにしました。

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これで台座はきれいに取り付けられましたが、その一方で、このオレンジ色の部分が、設計では厚さが7ミリ以上必要とされていますが、4.7ミリしかありませんでした。
このため、設計以上の大きな力がかかり、亀裂が広がったと考えられます。

これによって多くの人が危険な状況に置かれました。
製造した川崎重工業に対しては、大勢の命を運ぶ台車を作っているという意識が欠落しているとしか思えない行為が、なぜ行われ、なぜチェックできなかったのか、厳しく検証されなければなりません。

このトラブルの問題点はどこにあったのか。

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ひとつは製造時に設計より削ったことです。

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定期検査では、亀裂は、この溶接部分付近から広がりましたが、台座があるため、下から亀裂を見ることができませんでした。外から見える側面途中まで広がってからは、亀裂は一気に進んだとみられています。
また、運用ではJR西日本の担当者がいくつもの異常を確認したのに、列車の運行をやめなかったことにも批判が集中しました。

このトラブルなどについて、国土交通省は、専門家や鉄道事業者などによる検討会を設置し、再発防止策を検討してきました。そして、その報告書が公表されました。

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この中では、再発防止には、「設計」から「製造」「検査」「運用」の各段階の対策を総合的に結びつけることの重要性を指摘しています。

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設計する際、溶接部分が台座で隠れて見えなくても大丈夫と考えたのは、設計どおり厚さが7ミリ以上であれば、計算上、亀裂が生じるだけの力はかからず、亀裂が広がることもないと考えられます。
ただ、報告書では、設計に反した製造が行われた今回のトラブルを踏まえて、
▽溶接部分を極力減らし
▽隠れて見えなくなる溶接部を避けることなどが必要だとしています。

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製造について
▽製造の途中や製造後に台車が適切に作られているかの確認方法の検証や
▽品質確保のための作業員に対する教育訓練の充実などが必要だとしています。
検査について報告書では、国土交通省の現在の「検査マニュアル」の見直しが必要だとしています。具体的には、目視で検査できない隠れた場所に溶接がある場合は、超音波を使って内部の状態を調べる特殊な検査を行うなどとしています。
運用については、安全が確認できないときは列車を止めるといった方針を徹底するなどとしています。

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このうち「検査」について、今のマニュアルではそもそも新幹線に使われるような台車については、亀裂が起きないことを前提に検査方法を決めてよいことになっています。
今回、報告書ではこれをもっと厳格に解釈するよう見直しを求めていますが、過去に事例がないといっても、亀裂が起きるかもしれないという安全側にたったマニュアルに、なぜなっていなかったのか。見直しの作業を進める際には、2001年のマニュアル作成の過程にまで立ち返って検証してほしいと思います。そして、新しいマニュアルを台車の安全性確保にとってより有効なものにしなければなりません。
また運用については、福知山線の事故を経験して、経営トップも含めて安全運行に力を注いでいたはずのJR西日本が、なぜ安全第一の行動を取れなかったのか。安全意識を高め、維持していくことがいかに難しく重要なことなのか、今回のトラブルはあらためて示す結果になりました。それだけに、ハードと合わせてそうした意識の改革にも取り組まなければなりません。

では、今後さらに新幹線の安全性を高めるためにはどうしたらいいのでしょうか。仮に今回のような設計にない製造をしたり、前例のない事態が起こったりした場合、事故やトラブルを完全に防ぐことは難しいと思います。
そのひとつの答えになると考えるのが、JR東海が導入を進めている温度検知装置です。

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これは、列車が通過する際、車両の下側から台車の中の熱の状態を測定するものと、車体の横からは車軸の熱を測定します。およそ100キロごとに検知装置を設置する予定です。
高速走行する新幹線の台車で、何らかトラブルがあった場合、摩擦などでどこかが熱を持つことが考えられます。今回のトラブルでもモーターの出力を車軸に伝える装置が熱を持ちました。特定のトラブルではなく、さまざまなトラブルに対応できる可能性があります。
この温度検知装置は、JR西日本も導入を決めていますし、ほかのJRも検討しています。
他にも、台車に何らかの異常があったときの振動を検出するセンサーを取り付けるなど、異常を検知する様々なシステムが研究・開発されています。
これらはリアルタイム、あるいはリアルタイムでなくても高い頻度で台車の状態をモニターするという点で、定期検査と大きく性質が異なります。亀裂が進展するなど、台車の何らかの不具合を監視し、想定外のトラブルを検知できる可能性があります。こうしたハードの対策を実際に使う鉄道担当者の教育と合わせて行うことが必要です。

高速走行する新幹線には、極めて高いレベルの安全性が求められています。今回の台車亀裂のトラブルを機会に、会社の枠を越えた取り組みを進めて、安全向上を図ることが、いま求められていると思います。検討会の報告でも、鉄道事業者やメーカーの横のつながりを強化して、情報共有を行う場を設置するよう提言しています。これが今後、機能するようしなければなりません。
50年余り前、日本は鉄道技術のほか、航空工学、土木、電気、システムなどあらゆる技術と人の力を結集して新幹線開業を実現しました。長い間築き上げてきた新幹線の信頼が、台車の亀裂で揺らいでいます。二度とこうしたトラブルを起こさないために、今、あらためて鉄道事業者やメーカーなど関係者を総動員して安全性向上と信頼回復に向かっていかなければならないと思います。

(中村 幸司 解説委員)


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