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「西日本豪雨 土砂災害~見えてきた全体像と課題」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

西日本豪雨から3週間がたって甚大な被害の全体像がようやく見えてきました。
このうち土砂災害の発生件数は1400件、1年間の平均発生件数を上回りました。
先週、広島と愛媛の土砂災害の現場を11ヶ所取材しましたが、その規模の大きさと広がりに、集中豪雨のスケールが一段階上がってきているのではないかと実感しました。
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今夜は、
▼判明してきた衝撃的な被害
▼浮き彫りなった事前避難の難しさ
▼今、求められている対策
この3点を軸に、突きつけられた課題にどう向きあえばよいのかを考えます。
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【見えてきた土砂災害の全体像】
西日本豪雨の土砂災害は3つの特徴があげられると思います。
▼まず発生箇所の多さです。
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広島大学の調査団は航空写真を分析し、広島県南部の斜面崩壊箇所を調べました。その数は7448ヶ所。調査団は「一度の雨で発生した斜面崩壊件数として過去最多の可能性がある」としています。

一方、国土交通省は建物・施設などに被害があったところを土砂災害として集計していて、今日現在1,382ヶ所にのぼっています。過去10年の年平均の発生件数は1,106件ですから、たった一度の災害で1年分を大きく上回ったことになります。
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▼次の特徴は、崩壊箇所の広がりとそれに伴う、これまでにない被害です。
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国土地理院は上空から撮影した写真を分析し斜面の崩壊がどこまで達したのかを調査しています。被害の大きかった広島県呉市や坂町周辺です。赤い線が土砂崩壊と土石流が起きたところで丸印がその上端です。山頂や尾根近くでおびただしい数の土砂崩壊が始まり、谷筋という谷筋のほとんどを流れ下って合流し、麓の町まで達していました。これまでの災害では見られなかった広がりです。こうした斜面崩壊によって新たな被害形態も確認されています。川の下流にある広島県呉市の天応地区です。
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ここでは住宅地の広い範囲が砂と石で埋め尽くされました。
山頂付近から続く崩壊箇所から出た大量の土砂が川の水で運ばれ市街地に堆積したのです。深いところは2メートル以上あって、被害は土砂災害警戒区域の外まで及んでいました。
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この現象は「土砂・洪水氾濫」と呼ばれ、ここを含め4地域で確認されています。専門家は「少なくとも過去数十年、都市部でこれだけの被害が確認されたことはなかった」と話し、土砂災害の激しさが一段階あがった可能性を指摘しています。

▼もうひとつの特徴は砂防ダムにも大きな被害が出たことです。
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広島県坂町小屋浦では、砂防ダムが土石流で決壊し、ほぼなくなっていました。
この砂防ダムは68年前に石を積み上げる工法で作られたもので現在の設計基準には適合していませんでした。広島県内では古い砂防ダムを中心に数ヶ所で被害が確認されていて、県は「これまでにない大きな被害だ」としています。
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一方、現在の設計基準の砂防ダムが土石流を食い止めたケースが複数あったこともわかっています。この砂防ダムはおよそ2万立方メートルの土砂をせきとめ下流の集落の被害を防ぎました。古い砂防ダムの点検や補修が課題として浮かび上がりました。

【事前避難の難しさ】
ここから2つめのポイントです。
今回の災害では避難の難しさがあらためて浮き彫りになりました。
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国は土砂災害の被害を減らすために「避難」に重点を置いています。
自治体に対して、危険のある場所を「警戒区域」に指定したうえで住民に公表し、避難対策を進めるよう求めてきました。しかし4年前の広島土砂災害で警戒区域の指定が遅れていた地域で大きな被害が出たことから、指定前の調査段階でも危険があるとわかれば公表することが義務付けられました。

今回の災害で、広島県が土砂災害で死亡し被災した地点がわかった75人を調べたところ、土砂災害警戒区域など危険箇所であることが公表されていた場所で被災した人が65人と9割近くを占めました。危険箇所の公表は進んだものの、それを住民に伝え、避難行動につなげてもらうことの難しさを示しています。
西日本豪雨災害では川の氾濫でも、事前に危険区域が公表され、特別警報や避難勧告が出されましたが多くの人が逃げ遅れていて、避難行動を起こすことの難しさがあらためてクローズアップされています。

こうしたなかにあって、危険区域が公表されたことを受けて備えを進めてきた地区があります。松山市の高浜地区です。この災害で住民たちが声かけあって避難をして被害を免れました。
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高浜地区では3年前に土砂災害の警戒区域が公表されたのを受けて住民たちは自主防災マップを見直し、土砂災害用の避難場所を新たに決めるなど備えてきました。
今回の災害で住民はどう行動したのでしょうか。
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今月6日の午後、雨が強まったため住民で作る自主防災組織や町内会長たちが地域の見回りを始めました。午後5時半ごろ一部で斜面が崩れたり、泥水が流れ始めたりしたため消防署員を現場に呼んで相談し、避難の呼びかけを決断しました。午後6時ごろから手分けをして地域の一軒一軒をまわって避難を呼びかけました。
「松山市はまだこうした切迫した状況を把握していない」と考え、住民側から連絡をして避難勧告を出すよう要請、市は午後9時に避難勧告を出しました。
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この頃から翌朝にかけて地区内35ヶ所で土石流や崖崩れが発生。次々と住宅を襲いました。
全壊したこの家にはお年寄からひ孫まで5人がいましたが、自主防災組織の人に連れられて避難をしていて難を逃れました。高浜地区では朝の段階で200人近くが避難所に避難していました。11軒が全半壊しましたが、避難の際にけがをした一人をのぞいて、全員が無事でした。
避難の遅れが被害を拡大した今回の災害のなかで、行政の指示を待たずに自分たちで地域を守った、参考になるケースだと思います。

【まとめ】
日本の南に台風12号があって近づいています
今、何が求められるでしょうか。
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まず被災地では山の斜面が非常に脆い状態になり、川も土砂が溜まったままで再び災害が起こりやすくなっています。
二次災害防止のための緊急工事が進められていますが、被害箇所がきわめて多いためとても追いついていません。県や市町村は避難所や自宅の2階で避難生活をしている人たちを含め防災情報が確実に伝わるよう準備をしてほしいと思います。

次に生活再建のための土砂の撤去です。土砂・洪水氾濫の被災地など膨大な土砂が復旧を阻んでいます。多くのボランティアが支援に入っていますが除去のためにはたくさんの重機が必要で、国や自治体に加えて民間の建設会社などの広域応援も検討すべきだと思います。

今回の災害を受けて防災関係の学会でつくる団体は緊急メッセージを発表し「日本中で豪雨災害のリスクが高まっていて、あなたの町も例外ではない」と呼びかけました。

国や自治体はどうしたら住民の避難行動につながるのか、踏み込んだ対応を求められることになります。
そして私たち住民の側も、豪雨災害は一段と激しさを増していて、行政まかせ、他人まかせの姿勢では自分や家族を守れない、という危機感を持つことを求められているのだと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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