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「公文書問題 再発は防げるか」(時論公論)

清永 聡  解説委員

財務省による決裁文書の改ざんや廃棄など、公文書をめぐる一連の問題を受けて、政府は再発防止策をまとめました。ただ、全体として小幅な見直しにとどまり、不十分だという声も上がっています。
今夜は、公文書の管理で残された課題は何かを考えます。

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解説のポイントです。

●まず、再発防止策の内容を紹介します。
●今後求められる対策を考えます。
●最後に、文書がないことが何をもたらすのかをお伝えします。

【「管理強化」の再発防止策】

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公文書をめぐっては、去年から1年以上問題が続いています。「森友学園」をめぐる財務省の文書改ざんや廃棄。「加計学園」をめぐる文書。そして自衛隊の日報などです。
政府がまとめた今回の再発防止策は、「行政への信頼を取り戻すため」として、研修の充実、人事評価、チェック機能の強化、などが主な柱になっています。個別に対策を見てみると、例えば、改ざんや組織的な廃棄など特に悪質な場合、免職を含む懲戒処分の対象にするとしています。
また、内閣府の「独立公文書管理監」を局長級に格上げするほか、各府省庁に審議官級の「公文書管理官」(仮称)を新設するなどとしています。
ただ、実は、今回よりも前に、公文書管理のガイドラインが見直され、4月から新しい規則が各行政機関で始まっています。例えば内閣府の場合、「管理体制」は、すでにこうなっています。
文書の作成は「複数の職員」が確認。さらに実施責任者として「文書管理者」と補佐する「文書管理担当者」。また、「主任文書管理者」、「副主任文書管理者」がいて、さらに「総括文書管理者」、「副総括文書管理者」を置くことになっています。それぞれ職員の指導や監督などの役割です。
チェック体制の強化は必要でしょう。ただ、すでにこれだけいるうえ、今回、さらに新たな管理体制が加わって、果たしてどこまで実効性が高まるのでしょう。

【管理強まれば委縮も】

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反対に管理が強まることで懸念されるのが、公務員が委縮し、できるだけ文書を作らないようにする。あるいは、文書を作っても個人で保管するメモとしてしまうのではないかということです。
個人で作って保管していても、業務で使用し、組織で共有されれば、それは行政文書です。また、行政文書の定義をもっと広くとるべきだという意見もあります。しかし、「個人のメモで行政文書ではない」という主張はこれまでも繰り返され、行政文書なのかそうでないのか、という議論が繰り返されてきました。
また、公用メールも内容によって行政文書になるものが多いはずですが、現在は複数の省庁で、一定の期間を経て自動的に廃棄されていることが分かっています。本来残すべきメールが自動的に消されているのではないかという懸念も指摘されています。
そもそも情報公開請求に対して「存在しない」としながら、探すと職員のパソコンなどから出てくることが、これまでも繰り返されてきました。それが公文書管理の信頼を損なってきたのではないでしょうか。
専門家が第三者としての立場で参加している、政府の公文書管理委員会という組織があります。大学教授や弁護士など専門家の委員からは、以前から個人メモという「抜け穴」を作られないよう、行政文書の定義をもっと厳格にすべきだという意見や、公用メールを含む電子ファイルについても保存の仕組みづくりを求める意見が出ていました。
しかし、今回の政府による再発防止策の策定に、公文書管理委員会は直接加わっていません。そして、こうした専門家の意見も反映されませんでした。

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組織の管理を強化するよりも先に、委員会を活用して専門家の意見を丁寧に聞き、まずは前提となる行政文書の法律上の定義をもっとわかりやすく、しかも厳格にして、「抜け穴」をふさぐことを徹底すべきだったと思います。

【管理から文書作成の手助けを】
再発防止策の中に、今年度から内閣府が試験的に始めた制度が盛り込まれています。それは、文書の管理や保存に詳しい、国立公文書館の専門職員を総務課に派遣するというものです。

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これはフランスの取り組みを参考にしています。国立公文書館によると、フランスでは、「フランス省庁間アーカイブズ部」という文書管理を担当する部署から、専門家を各省に数人ずつ派遣し、職員と一緒に文書の保管や管理表の作成を行っています。廃棄の際も、この職員の許可が必要です。
制度は60年以上前に始まり、その後派遣先を増やして継続してきました。省庁の利害とは無関係の専門家が、一緒に仕事をして、適正な文書の作成と保存を手助けするという姿勢です。
今回の再発防止策も「専門家の派遣先の拡充を図る」としています。日本も省内で管理を強めるだけでなく、外部の専門家が手助けするこうした仕組みを、充実すべきだと思います。
ただし、日本は専門家の数がまったく足りません。フランスは公文書館の職員は570人。これに対して、日本の国立公文書館の職員は、今年4月現在でわずか56人です。これではフランスのように各省庁に人を出すこともできません。
国立公文書館はいま、国会前の憲政記念館の敷地に、新しい建物を建設することが計画されています。「アーキビスト」と呼ばれる文書など情報を管理する専門家の育成に力を入れるとともに、新しい国立公文書館を、行政文書に加えて司法文書なども幅広く収集して公開する拠点にしてほしいと思います。

【「文書なし」がもたらした不幸な結果】

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文書を残すためには、管理を厳しくするだけでなく、作成する手助けも必要です。そして、残すべき文書や記録がないことは、歴史的にも不幸な結果をもたらしてきました。
日本は、終戦直後、戦争責任の追及を恐れて、各地で大量の文書や記録が捨てられ、燃やされたことが複数の証言で分かっています。また、必要な記録も作られてこなかったとみられます。
昭和30年代に法務省が戦犯とされた人たちの弁護士などから聞き取り調査を行っています。アメリカ軍はBC級戦犯の裁判で、虐待されたとする捕虜の一方的な言い分を書類にして、戦争犯罪の追及を行いました。
これに対し、日本の弁護士の一人は聞き取り調査に対して、「否定しようとしても反証をあげる手がなかった」と証言しています。別の複数の弁護士も「記録が残っていなかった」と証言しています。
一連の戦争裁判では900人以上が死刑判決を受けました。もし、記録が正確に作られ、残されていれば、無実を証明できたケースがあった可能性もあります。

公文書は将来、今を伝える歴史文書となります。
その文書がないことは、一方的な主張を否定できなくなるだけでなく、都合よく歴史を修正することを許す結果にも、つながりかねない恐れがあるのだと思います。

【信頼回復は未来への責務】
財務省など一連の公文書をめぐる問題は、国民の行政に対する信頼を大きく損ないました。まとまった再発防止策は、不正を一定程度防ぐ効果はあっても、正しく文書を作り、保存するという意味では、なお不十分な点が残されます。
求められているのは、まず行政への信頼を取り戻すこと。そして、現在の日本の姿を次の世代へ正しく伝えることです。
そのためには、今回の再発防止策で終わるのではなく、将来の検証にも耐えられるよう、法改正や人材の育成など長期的な視野で、見直しを進めていくことが必要ではないでしょうか。

(清永 聡 解説委員)


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