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「東京五輪まで2年 難航した野球の実施方式」(時論公論)

小澤 正修  解説委員

東京オリンピックの開幕まで、7月24日であと2年となりました。先週行われたIOC・国際オリンピック委員会の理事会では、競技スケジュールの大枠が承認。東京オリンピックの姿が徐々に具体化する一方で、理事会ぎりぎりまで、実施方式すら東京オリンピックの組織委員会と競技団体との間で、調整が難航した競技もありました。それが3大会ぶりに悲願のオリンピックに復帰する野球ソフトボール、特に野球です。背景にあった「追加競技」ゆえの難しさ、そして、まとまった実施方式はどんなものだったのでしょうか。

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解説のポイントです。

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野球の出場チーム数はいくつか。そして、1次リーグはどう行うのか。その上で、まとまった実施方式はどんな仕組みなのか。この3つを踏まえて、オリンピック本番へ、今後2年間で必要なことを考えます。

(野球の出場チーム数はいくつか)
2年前、追加競技として野球のオリンピック復帰が決まってから、まず議論になったのが、出場するチームの数でした。これまで野球がオリンピックで実施された時は、8チームが参加。オリンピック憲章にも、チーム競技の出場数は8チーム以上と記されていることから、WBSC・世界野球ソフトボール連盟は、東京オリンピックにも8チームの参加を要望しました。しかし、組織委員会の主張は6チーム。理由は「追加競技での選手の総数が500人をこえない」という条件があるからでした。

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IOCはオリンピック改革で、もともとの実施競技以外にも、開催都市の特色を生かすなどとして、実施競技の一部を採用する権限を開催都市に初めて与えた一方、オリンピックの肥大化に歯止めをかけるため、ハードルも設けていたからです。野球ソフトボール、空手・スポーツクライミング・サーフィン・スケートボードの5つの競技の選手をすべてあわせて、500人以内に抑えなければならず、最終的に参加は6チーム、野球だけで50人弱、選手の数を減らすことになりました。
出場するのが6チームだと、参加するチームの半分がメダルを獲得することになってしまい、メダルの価値が下がるという見方もあります。公開競技の時代でも、野球には8チームが出場していました。それより少ないチーム数となりますが、チーム競技では1チーム参加を増やすだけで、選手総数がふくらんでしまいます。追加競技として久しぶりにオリンピックで実施される野球にとっては、妥協せざるを得なかった、苦渋の決断だったと思います。

(1次リーグはどう行うか)
実施方式を巡る議論はまだ続きました。WBSCは、1次リーグを参加6チームの総当たり戦で行うことを提案しました。一方、組織委員会は、日程や開催費用などを理由に、総当たり戦ではなく、6チームを3チームずつ、2つのグループにわけて1次リーグを行うという案を主張し、ここでも意見が平行線をたどりました。WBSCは、仮に組織委員会案で上位チームによる準決勝と決勝、3位決定戦を行ったとしても、試合数は合計で10試合、総当たり戦で1次リーグを行った場合の19試合より大幅に少なくなり、盛り上がりが損なわれて競技の面白さを十分アピールできなくなることを危惧しました。

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(オリンピックで普及をはかりたい野球)
意見が平行線をたどった理由のひとつに、野球界のオリンピックにかける、強い思いがありました。世界への競技の広がりが限定的な中、野球のグルーバル化を目指した当時の日本野球連盟の山本英一郎さんらが力を尽くし、オリンピックでは1992年のバルセロナ大会から正式競技となり、現在は133の国と地域で競技が行われるようになりました。しかしサッカーのように200を超えるまでには至らず、建設した球場の後利用が難しいことなどから、オリンピックでは2008年の北京大会を最後に除外されてしまいました。世界最大のスポーツイベントのひとつ、オリンピックでの実施が、さらなる普及につながると考える野球界にとって、復帰はまさに悲願であり、次のパリ大会以降も継続して実施されていくために、東京オリンピックでの盛り上がりが、なにより重要と位置づけていたのです。

(承認された実施方式は)
調整が難航した実施方式は、先週IOC理事会ぎりぎりのタイミングでようやくまとまりました。組織委員会の提案通り、1次リーグは、6チームを2つのグループにわけて行うことになりました。ただ、ここではグループ内の順位はつける一方で、敗退するチームはなく、6チームすべてが次のトーナメントに進む、珍しい方式が採用されています。

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例えば日本がもし1次リーグ2戦全敗でグループ最下位となっても姿を消すことはなく、トーナメントに進むことができます。さらに次のトーナメントで、途中で敗れても、敗者復活戦に回って、金メダルを獲得できる可能性があるという、実に変則的な方式です。
すべての試合数は16試合と、WBSCが求めていた数に近くなりましたが、通常、どの競技でも国際大会の1次リーグでは、次のステージに進むチームを絞り込むために行います。東京オリンピックの組織委員会とWBSCの折衷案で生み出された、異例の仕組みだと思います。

(侍ジャパンはどう受け止める?)
金メダルを目指す日本代表、侍ジャパンにとっては、少しでも早く実施方式が決まってほしいというのが本音だったと思います。なぜなら、日本では侍ジャパンを構成する選手たちが毎日のようにプロ野球の公式戦を行っているため、日本代表として集まり、国際大会への対応をはかる機会が、サッカーなどほかの競技に比べて極端に少ないからです。世界での活躍を期して日本代表の強化を目指し、プロが誕生したサッカーと、プロが発足したあとに日本代表が構成されるようになった野球との違いがあらわれていると思います。とはいえ、実施方式が決まったことで、侍ジャパンの関係者は、本番で戦うイメージを、ようやく持つことができるようになったと思います。開催国の日本を除く、出場チームも、来年の国際大会「プレミア12」から順次決まっていく予定です。侍ジャパンの稲葉監督は「1次リーグから全勝する気持ちでやりたい」と意気込みをのべています。

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オリンピックでは、ペナントレースと違い、24人の登録メンバーが大会期間中固定されるため、先発、中継ぎ、抑えといったピッチャーを中心に、ポジション別にどのような配分で選手を選考するのかが重要です。変則的なトーナメントの採用で、対戦相手が読みにくく、稲葉監督の戦略・采配もポイントになります。シーズン中の大リーグの選手の参加は、難しいとみられる中、稲葉監督ら侍ジャパンの関係者が、どこまで、この方式に対応した準備ができるか、大きな焦点になるでしょう。

(本番までの2年間どうすべきか)
今回の東京オリンピックで、組織委員会は、野球が国内で人気のスポーツであること、またチケット収入が期待できることから、野球の採用に積極的に動き、3大会ぶりの復帰を実現させました。その一方、全体では史上最多の33競技339種目が実施される中、組織委員会はもともとのオリンピック競技を中心に、各団体と膨大な量の調整が必要でした。追加競技には制約もある中、野球でさまざまな部分で妥協点を見つけなければならなかったのは、やむを得ない部分もあったと思います。
ただ日本で野球は、プロが年間1000万人以上の観客を動員するほか、高校野球をはじめとするアマチュアも非常に人気があるスポーツです。NHKの世論調査でも、オリンピックで関心ある競技に、半数近くの人が野球をあげました。

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体操や陸上などに続き、特に20代、30代の男性で関心の高さが際立っています。JOCが東京オリンピックの金メダル獲得目標を、過去最多の2倍近い30個と掲げる中、野球も金メダル獲得が期待される競技のひとつであり、人気も加味すると、正式競技に匹敵、またはそれ以上の関心を集めることも事実だと思います。
その一方で、プロ野球の中断期間に影響する開催日程の調整でも、組織委員会と野球界との間にコミュニケーション不足が感じられました。本番まであと2年、野球が盛んな日本で、開催都市が自ら実施を決めた追加競技であるからこそ、今後も組織委員会と競技団体が連携しつつ、東京オリンピックで、野球の魅力を世界に伝えるという期待に応える必要があると思います。

(小澤 正修 解説委員)

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