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「課題残し 通常国会閉会へ」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

通常国会は、きのう安倍内閣に対する不信任決議案が否決され、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備法が可決成立し、事実上、閉会しました。この国会は、財務省の決裁文書の改ざん問題への対応や重要法案の審議のあり方など、多くの課題を残しました。
論戦を検証し、国会改革の方向性について考えます。

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この国会は、行政をめぐる様々な問題で大きな影響を受けました。

裁量労働制をめぐる厚生労働省のデータの不備によって、予定されていた「働き方改革関連法案」から裁量労働制に関する部分が削除されました。
防衛省では、存在しないとされたPKO部隊の日報が見つかっていたにも関わらず、大臣に報告されていなかったことが明らかになりました。
森友・加計学園をめぐる問題では、多くの時間が割かれ、安倍総理大臣は、昨夜の記者会見で、この問題に関連して、信頼回復に努める決意を示しました。国会では、財務省の決裁文書が改ざんされた問題で、証人喚問も行われましたが、その動機や背景は明らかにならず、政治的なケジメがついたとはいえない状況です。
こうした行政をめぐる一連の問題の影響もあって、当初は、国会の焦点になると見られていた、安倍総理大臣が意欲を示す憲法改正に向けた議論は進みませんでした。ただ、政府・与党が重要法案と位置づけた、働き方改革関連法、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備法は、会期を延長した上で、いずれも成立にこぎつけました。

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また、延長国会では、大阪府北部の地震や、甚大な被害をもたらした西日本豪雨など災害が相次ぎ、国会が、どう対応するかが問われました。
一方で、初の米朝首脳会談と日本の安全保障、アメリカの保護主義的な通商政策への対応、財政再建への取り組みや外国人材の受け入れなど、法案審議だけでなく、重要な政策課題で議論が尽くされたとはいえないと思います。

この国会での論戦で、多くの課題を浮き彫りにしたのが、IR整備法でした。
この法律は、カジノの収益を活用し、国際会議場や宿泊施設、劇場やショッピングモールなどを一体として整備するもので、国際競争力のある滞在型観光を実現して、観光と地域振興、財政の改善につなげるのが目的です。

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施設の整備は当面は全国で3か所まで。カジノについては、収益の30%を国に納付することを義務付け、入場料は6000円。日本人と日本に住む外国人の入場は1週間で最大3回、4週間で10回までに制限します。
論戦の焦点は、主に3つありました。まずは、そもそも民間の事業者に、カジノの実施を認めるべきかどうかです。IRの整備にカジノを賭博罪の例外として認める公益性があるといえるのか、意見は激しく対立しました。
もうひとつが、依存症対策は、十分かという点です。政府は、各国の例に比べても「世界最高水準」のものだとして理解を求めました。これに対し、入場料を取り、入場回数を制限しても、ギャンブル好きの人は、その分を取り戻そうと、制限いっぱいまで、のめりこみかねず、逆効果だという批判も出されました。
さらに世界各地にカジノが存在する中で、いわば後から参入して、収益や地域への経済効果が本当に期待できるのかという疑問も出されました。

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加えて問題があると指摘されたのは、IRの整備に向けた具体的な手続きや基準について、国会での承認が必要ない政令などに委ねられているものが300あまりもあることです。例えば、返済能力があると認められた日本人の利用者に、無利子で資金を貸し付ける仕組みには、強い批判がありますが、貸し付けを認める基準や限度額などは、今後、政府が決めることになります。
もうひとつは、審議の前提となる具体的なデータ示されない例があったことです。IRの経済効果は、整備される地域や規模によって変わるとして、明らかにされませんでした。
今月のNHKの世論調査で、IR整備法案への賛否を尋ねたところ、賛成が16%、反対が34%、どちらともいえないが40%でした。国民の理解が進んだとはいえない状況でした。
なぜ、政府・与党側が、成立を急いだのか。仮に、国民の評判が芳しくないから、来年の統一地方選挙や参議院選挙まで、できるだけ時間を置いて、影響を抑えたいという思惑があったのだとしても、私は、必ずしもその思惑通りにはならないだろうと見ています。
といいますのは、IRは、都道府県や政令指定都市と民間の事業者が、共同で計画を作り
申請する形になります。IR整備法が成立したことによって、各地でIRを誘致するかどうか、議論が始まることが予想されます。住民にとってより身近で具体的な課題ですから、地域によっては、統一地方選挙の争点になるところも出てくるでしょう。その意味で、地方自治体、そして、IRの整備の申請に同意するかどうかを判断する地方議会の役割は大きいといえます。一方、政府も、政令の内容や審査の状況を公開し、はじめから整備ありきでなく、厳格で透明性の高い審査を徹底して、国民の理解と納得を得る努力が、よりいっそう求められることになります。

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この国会では、論戦の状況も踏まえ、与野党から国会改革が必要だという指摘が出されました。ここからは国会改革の方向性を考えます。求められることは、はっきりしていると思います。それは政策論議と行政の監視を両立させることです。
政策論議に関しては、党首討論で、見逃せない場面がありました。安倍総理大臣と野党第一党の立憲民主党の枝野代表が、それぞれ「党首討論の歴史的使命、意味は終えた」という趣旨の発言をしたことです。いずれも相手の発言が長く、いわば時間切れになったことを批判する文脈での発言でした。
党首討論は、二大政党制をモデルにスタートしただけに、多くの野党が存在する現状にはなじまないという点はあるでしょう。しかし、私は、党首討論の使命は終わっておらず、言いたいことを言いあうだけの形を続けることが、その使命や意味を失わせていくのではないかと考えます。何を議論すべきか、具体的なテーマを設定することが一つの手立てになると思います。ただ、党首討論の回数を増やし、スケジュールがはっきりしなければ、何をテーマにするかで与野党の意見がまとまらないでしょうし、討論の時間を拡大することも必要でしょう。大切なことは、法案の質疑とは性格が異なることを意識して、自らの主張だけを展開するのではなく、相手の意見も踏まえて、どこに違いがあるのか、どちらの主張に合理性があるのか、国民が判断できるような、かみ合った討論をする意思にかかっていると思います。

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一方、行政を監視し、問題があれば、実態を解明していくことは国会の責任です。行政をめぐる不祥事は、予算案や重要法案の審議とは、できるだけ切り離して継続的に調査、議論できる場を確保することが必要だと考えます。すでにある委員会の活用や、事案によっては特別委員会の設置なども検討すべきでしょう。また、国政調査権に基づく国会の行政への監視機能を強化する具体策も議論すべきだと思います。

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こうした改革は、与党にとっては、政権への攻撃の場に利用されかねないという懸念、野党側には、意見が対立する重要法案の審議を促進させることになるという反発もあり、合意の形成は難しいかも知れません。そうであるならば、制度として採用する前に、改革の一部でも試験的に実施してみるような取り組みがあってもよいでしょう。いま、与野党に求められているのは、国民が望む国会の姿と、国会の現状とのかい離を埋める真剣な努力です。各党の事情を優先していては、国会改革は進まないことを改めて指摘しておきたいと思います。

(伊藤 雅之 解説委員)


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