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「米ロ関係は『改善』するか?」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員
石川 一洋  解説委員

髙橋)
アメリカのトランプ大統領がロシアのプーチン大統領と会談し、両国の多岐にわたる懸案の解決に向けて対話を深めていくことで一致しました。冷戦の終結後「最悪」と言われるほど冷え込んでいる米ロ関係は、はたして改善に向かうでしょうか?ロシア担当の石川解説委員とともに、首脳会談を分析し、米ロ関係の行方を考えます。

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ポイントは、3つあります。

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▼まず、おととしのアメリカ大統領選挙にロシアが干渉したとされている、いわゆるロシア疑惑は、どのように話し合われたのか?
▼次に、北朝鮮の非核化に向けて、米ロ両国はどのように取り組んでいくのか?
▼そして、世界の核兵器の大半を保有する核超大国としての米ロの責任は?
以上の3点です。

フィンランドの首都ヘルシンキで会談した両首脳。アメリカ側から大統領のヨーロッパ歴訪に合わせて、ロシアに首脳会談を持ちかけたのは、秋の中間選挙を前にロシアとの関係改善を外交の成果としてアピールしたかったからでした。
「深く生産的な対話が出来た」そうトランプ大統領は胸を張ります。しかし、具体的な成果に乏しかった印象は拭えません。
石川さん、ロシア側は今回の会談に、どのような狙いで臨んだのでしょうか?

石川)
プーチン大統領としては正常の対話の再開が目的でした。ワールドカップ終了直後に米ロ首脳会談を開催するというのはプーチン大統領の希望でした。ワールドカップによってロシアのイメージは一定程度改善しました。アメリカメディアによる米ロ首脳会談自体への批判的な報道は続いているものの、緊張緩和の雰囲気を米ロ首脳会談にも影響させたいとの思いと狙いがあったでしょう。

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髙橋)
会談後の共同記者会見をアメリカの多くのメディアは批判的に伝えました。「ロシアがアメリカの選挙に干渉した事実はないし、これから干渉するつもりもない」そうしたプーチン大統領の主張を、トランプ大統領は、いわば丸呑みし、アメリカの情報機関がロシアによる関与を断定している疑惑を「信じる理由はない」と言ってのけたからです。
トランプ大統領は、オバマ前大統領との違いをアピールするため、就任前からテロ対策を理由にロシアとの関係改善に強い意欲を見せてきました。ところが、そうしたロシアとの接近を阻む、いわば“くびき”となったのが、ロシア疑惑でした。

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こちらは今回の米ロ首脳会談を前にアメリカで行われた世論調査です。アメリカ国民の過半数が「トランプ大統領はロシアに対し、もっと厳しく対応すべきだ」と答えています。この結果だけを見れば、ロシア疑惑を否定したかのようなトランプ大統領の発言が、多くの批判を浴びている理由はうかがえます。
しかし、支持する政党別に見てみると、与党・共和党の支持層では「ロシアにもっと厳しく対応すべきだ」という意見はおよそ3分の1にとどまっています。「ロシアとトランプ陣営に癒着はなかったのだから、ロシアとの関係改善を優先しても、トランプ支持者から理解は得られるはずだ」。そう大統領が考えたとしても不思議はありません。

会談後、トランプ大統領は「アメリカの情報機関には絶大な信頼を置いているが、明るい未来を築くため、過去にばかりとらわれてはいけない」とツイッターに書き込みました。ロシア疑惑の“くびき”から脱出をはかるトランプ大統領の意欲は今後も変わらないでしょう。

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石川)
4期目を迎えるプーチン大統領は国内的には経済を成長軌道に戻し、アメリカとの関係も対立から融和へとの方向転換を模索しています。その大きな障害は、やはりロシア疑惑です。ただ、ロシアがどのように否定しようとアメリカ国内の厳しい視線は変わるものではありません。プーチン大統領はトランプ大統領に期待はしつつも幻想は抱いていません。今回、本格的な首脳会談に踏み切ったのは、アメリカのボルトン大統領補佐官や在モスクワのハンツマン大使など、もともとは対ロシア強硬派が主導したからです。ロシア疑惑という深い傷は残しながらも、共通の利益を見いだせる場ではアメリカとの対話と協力を進めたいとの考えがあります。例えばシリアの問題です。プーチン大統領は記者会見でトランプ大統領が重視するイスラエルの安全保障が重要だと強調しました。両首脳はアサド政権の存続を事実上容認する引き換えにイスラエルの懸念するイランの影響力を如何に無くすのか、率直に話し合ったものと見られます。

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髙橋)
一方、トランプ政権がロシアとの関係修復に乗り出した背景には、北朝鮮の非核化と、中国の存在もありました。アメリカと中ロ両国との関係は、「シーソー」のバランスに喩えられます。一方との関係が重みを増している時には、もう一方の比重は相対的に軽くなるからです。
いまアメリカと激しい貿易摩擦を抱えている中国は比重が重い状態です。この状態でアメリカが北朝鮮の非核化に、中国からこれまで以上の協力を得ようとしても、難しいのが現状です。そこで、トランプ大統領がロシアの側に歩み寄り、北朝鮮の非核化に向けて、ロシアから協力を取り付けることができれば、それは貿易摩擦をめぐる中国へのけん制にもなり、いわば一石二鳥の効果を生むはずだというのです。

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石川)
北朝鮮については一定の成果があったとみています。
ロシアはこれまで南北の融和は全面的に支持するものの、米朝の対話には、懐疑的あるいは警戒感を示してきました。今回、両首脳が北朝鮮問題について、初めて突っ込んだ話し合いをして、プーチン大統領がトランプ大統領の進める米朝対話と非核化を支持することを明確にしました。9月のウラジオストクでの東方経済フォーラムにプーチン大統領は中国の習主席、日本の安倍総理とともに北朝鮮の金委員長を招待しています。ロシアは北朝鮮の非核化を日本、ロシアも含めた六か国の枠組みを復活させる中でロシアも関与して進めたいと考えています。米ロの対話が滞れば北朝鮮に付け入るスキを与えることにもなります。首脳会談で米ロ双方の意思疎通が進んだことは一定の成果と言えるでしょう。

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髙橋)
ただ、北朝鮮に非核化を迫るためには、米ロが核超大国の責任として、みずから率先して核軍縮に取り組まなければなりません。いまも米ロ両国だけで、世界の核兵器の90%以上を保有しているからです。
とりわけトランプ政権が問題視しているのは、プーチン大統領が、ことし3月の年次教書で、アメリカのミサイル防衛に対抗するためとして、ロシアの内外に明らかにした新型の核兵器の開発です。わざわざトランプ大統領の別荘があるフロリダ半島と思しき場所に核弾頭が投下されるイメージ映像まで作られたのを見て、トランプ大統領は激怒したと側近らは言います。

石川)
ロシアは、アメリカとの核兵器の軍拡競争に陥ることは避けたいと思っています。プーチン大統領としては新型核兵器の開発という脅しを梃子にアメリカを今ある条約の枠組みを維持するための交渉に引き込みたいとの狙いがあり、トランプ大統領の反応は、狙い通りということが言えるでしょう。ただ米ロの対話が再開しても、米ロ両国とも核軍縮の意欲は乏しく、実際の核削減につながる見通しは悲観的です
今回の米ロ首脳会談の実現に向けては、両首脳と良好な関係を維持するイスラエルのネタニヤフ首相や日本の安倍総理の働きかけがありました。米ロが対話の窓さえ閉ざしたままでは、北朝鮮やシリアなど国際問題の解決にも悪影響を及ぼすと考えたからです。ただロシア疑惑という重しの中で今回の会談は米ロ首脳交渉の限界も明らかになりました。

髙橋)
アメリカファーストを掲げるトランプ大統領の一方的な通商政策や安全保障政策で、いまアメリカとヨーロッパの同盟諸国との間には亀裂が走り、そうした現状で米ロが接近することは、世界の安定を損なう危険性をはらむでしょう。しかし、経済では中国、安全保障ではロシアからの協力なしに、アメリカ一国だけの力で国際秩序を担う時代は終わりを告げたのもまた確かです。
米ロ関係の改善を世界の安定につなげることは出来るのか?アメリカの同盟国・日本が果たすべき役割は、ますます重要になっていくでしょう。

(髙橋 祐介 解説委員 / 石川 一洋 解説委員)

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