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「相次ぐ『がん見落とし』 背景に何が」(時論公論)

堀家 春野  解説委員

検査でがんが見つかったのに、適切な治療につながらず患者が死亡してしまう。
そんな深刻な事態が名だたる大病院で相次いでいます。背景には、医療の高度化が進む一方で、情報が共有されないといった現場の「縦割り」の問題があることがわかってきました。

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解説のポイントです。

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明らかになったがん見落しの共通点。医療が高度化する中で見えてきた光と影。そして、見落としを防ぐにはどうすればいいのか考えます。

【がんの見落としに共通点】 
CT検査でがんが見つかったのに治療に生かされない。こうした深刻な事態が6月、大学病院などの高度な医療を提供する3つの病院で相次いで明らかになりました。このうち、千葉大学医学部附属病院では患者9人についてがんの疑いがあったものの、CT検査の結果が見落されるなどして、このうち、2人が死亡しました。亡くなった2人のケースです。

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▽60代の女性は腸の病気でCT検査を受け、そこで、腎臓がんの疑いが指摘されていました。▽70代の男性は皮膚がんの疑いで検査を受け、そこで肺がんの兆候が指摘されました。いずれも、別の病気を詳しく調べるために受けた検査で、がんが見つかったという共通点がありました。このようなケース、実は、珍しくないのです。

【高度化が進むCT】
日本は他の先進諸国に比べCTの数が多く、総合病院であれば概ね導入されています。CT検査はもはや特別なものではなくなってきています。撮影は対象となる臓器だけでなく、例えば上半身など広い範囲でとることが多く、体の断面を一度に数百枚、撮影することも可能です。画質の向上も目覚しく、例えるならば、かつては白黒テレビだったのが、デジタル画像になっている、そう表現する専門家もいます。その結果、いま、腫瘍は数ミリ単位で見つかり、画像を撮影した際に別の部位の病気もわかるようになっているのです。実際、私が、東京都内の総合病院を取材した際も、心臓を詳しく調べるために上半身を撮ったCT画像に、ぼうこうがんや胆石などが映し出されていました。CTの高度化に加え、医療の現場では患者が高齢化し様々な病気を抱えているため、このように、別の病気を調べる目的で行われた検査でがんが見つかるケースは少なくないといいます。

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【縦割りの弊害】
では、せっかくみつかったがんがなぜ見落とされてしまうのか。
そこには、診療科ごとに専門化、そして細分化が進む医療現場のいわば「縦割り」の問題があります。

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CT検査の流れです。まず、主治医が検査のオーダーを出します。実際に検査を行うのは放射線科の医師で、画像を作成し画像診断報告書をつくります。この報告書には例えば、「がんの疑いがある」などの意見が書き込まれます。数百枚の画像を読み込み報告書を書くには一定の時間がかかります。増え続ける検査のオーダーに報告書の作成が追いついていないという面もあります。一方、撮影された画像はすぐに主治医の端末に届きます。このため、主治医は、報告書が届く前に画像だけを見て診断し、患者に説明することも少なくありません。その際、主治医は自分の専門分野、例えば肺なら肺、腎臓なら腎臓の臓器だけに注目し、周辺に映っているほかの臓器に注意を払わない傾向があるといいます。ほかの臓器に異変があるかもしれない、そうした可能性を考えることなく判断を下す。そして、その後届いた報告書の確認も行わない。その結果、がんの見落としが起きているのです。同様に報告書を十分に確認せず治療が遅れたケース、平成29年までの6年間に全国で64件報告されています。医療現場で縦割りが進んでいるからこそ、医師は、特定の臓器だけに注目するのではなく、患者の全身を診て治療にあたるという意識を改めて持ってもらいたいと思います。

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【がん見落とし防ぐには】
縦割りの弊害を組織を上げて無くそうという対策も始まっています。東京慈恵会医科大学附属病院です。この病院では平成29年、がんの見落としで、患者が死亡しています。肝臓の持病があった患者が受けたCTの画像診断報告書には肺がんの疑いがあることや、検査のフォローを求める記載がありました。しかし、主治医はその報告書を確認せず、治療が行われないままがんが進行してしまいました。患者は亡くなる前、「自分だったら決してこうした記載を見逃したりしない」と悔しそうに話し、病院に同じようなミスが起きないよう徹底した対策を求めたといいます。

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こうした切実な声を受け、病院はまず、主治医が画像診断報告書を確認しているかどうかチェックするシステムを導入しました。報告書が送られてから2週間たっても主治医が読んでいないものについて自動的に検出。それを、事務職員がチェックし、確認を促します。報告書を読まない限り、主治医が電子カルテを開く画面には、このように、注意を促す表示が絶えず出るようにしました。病気の見落しを防ぐため、第三者がチェックすることにしたのです。

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さらに、患者にもチェックする役割を担ってもらいます。この病院では、報告書を要約したものを患者にも渡しています。当初、「がんといったネガティブな情報も含まれるので渡すべきではない」といった反対意見もありましたが、見落としを防ぐためには、患者にもチームの一員として治療に関わってもらう必要があると判断したといいます。こうした病院の対応はいまの時代にあったもので評価できると思います。しかし、報告書を渡したのだから、たとえ病気の見落としがあっても責任は報告書を読んだ患者にもあるという姿勢では困ります。報告書には難しい専門用語も使われていますので、医療側はこれまで以上に、わかりやすく、丁寧に説明する必要があります。そして、患者も自分自身の検査情報に関心を持ち、わからないことは遠慮しないでたずねるなど、積極的な姿勢が求められると思います。

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かつて、医療ミスはあってはならないもので、病院はその事実を隠す傾向がありました。個人の責任を追及し、個人の努力で防ぐべきだとも考えられていました。しかし、いまは、ミスは起こりうるということを前提に、情報を共有し、個人だけでなく、チーム、そして、組織全体で防いでいこうという考え方に変わってきているように思います。

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医療の高度化、そして技術の進歩に伴い、医療をめぐる情報は膨大になっています。これまでと同じ態勢でその情報を使いこなそうとしても限界があります。せっかく得られた情報を見落とさず治療に生かすため、医師以外の人材や新たな技術を活用して、医療現場の態勢整備を急がなければなりません。

(堀家 春野 解説委員)

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