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「進んでいるのか? 米朝非核化交渉」(時論公論)

出石 直  解説委員

アメリカのポンペイオ国務長官は、先週、3度目となるピョンヤン訪問を行いキム・ヨンチョル副委員長と2日間にわたって会談しました。トランプ大統領とキム・ジョンウン委員長による史上初めての首脳会談からもうすぐ一か月。北朝鮮の非核化に向けた交渉は果たして進展しているのでしょうか?

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きょうは次のような点についてお話ししたいと思います。

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(1)    米朝首脳会談に続くステップとして注目されたポンペイオ長官のピョンヤン訪問でしたが、具体的な成果と言えるようなものは得られず、双方の受け止めも対照的でした。
(2)    予想されていたことではありますが、非核化をめぐる交渉、そうは簡単にいかないようです。
(3)    この交渉がうまくいくかどうかは、両国の指導者が“非核化の意思”と“交渉を継続する意思“を持ち続けられるかどうかにかかっているように思います。

【対照的な受け止め】
まず今回のポンペイオ長官のピョンヤン訪問に対する、アメリカと北朝鮮の受け止めから見ていきましょう。まさに対照的でした。

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ポンペイオ長官は「建設的な会話ができた。あらゆる事項で進展があった」と成果を強調しています。これに対して北朝鮮外務省は「アメリカは強盗のような要求ばかりを持ち出した」と不快感を露わにしました。首脳会談以降、アメリカ批判を控えていた北朝鮮がアメリカを強盗よばわりしたのは見過ごせない変化です。

では今回の交渉でアメリカは何を要求し、北朝鮮は何に反発したのでしょうか。

【米の要求】
ポンペイオ長官は「大量破壊兵器の申告」と「非核化を進める手順」、この2つの点について多くの時間を割いたと述べています。

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「核兵器」ではなく「大量破壊兵器」としている点がポイントです。これについて8日、ポンペイオ長官と会談した河野外務大臣は「すべての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルの、完全で検証可能で後戻りしない廃棄を目指すのが、日米韓3国の共通の目標だ」と述べています。

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河野大臣が強調したように、核兵器だけでなく生物・化学兵器も含む「すべての大量破壊兵器」、そしてアメリカ本土に届くICBMだけではなく中距離や短距離も含む「あらゆる射程の弾道ミサイル」の廃棄を迫ったのであれば、北朝鮮に対する要求を一段と強めたとも解釈できます。

【北の要求】
これに対して北朝鮮は次のように反発しています。
「アメリカは、一方的な要求ばかりを持ち出した。平和体制の構築問題については一切言及せず、朝鮮戦争の終結宣言も先送りしようという立場をとった」
「我々の確固たる非核化の意思が揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」

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このように強い言葉でアメリカをけん制しています。
ただこれで交渉決裂ではなく、むしろ北朝鮮独特の言い回しで、アメリカの譲歩に期待を示しているのではないかと、私は解釈します。

ここまで見てきましたように、今回のポンペイオ長官のピョンヤン訪問では、具体的な成果と言えるようなものは得られず、むしろこれから先の交渉の難しさを印象づけるものとなってしまいました。

【非核化交渉は前途多難】
しかし交渉が難航することは会談の前から予想されていました。
CVID=完全で検証可能、かつ後戻りしない非核化を実現したいアメリカ、朝鮮戦争を早く終わらせて体制の保証を取り付けたい北朝鮮。
そもそも双方の優先順位がまったく異なっているからです。

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もともとアメリカは入り口論、つまりまずは一括して非核化を実現し、その後に制裁の緩和や国交正常化を行うという立場。一方の北朝鮮は出口論、平和協定の締結や制裁の解除さらに国交正常化が実現すれば段階的に非核化に応じるという主張です。

【非核化の手順】
この立場の違いを埋めるためには、非核化を実現するためにどのような手順が必要なのかを、細かく決めていく必要があります。

ではその「非核化の手順」とはどのようなものなのでしょうか。ひとつの参考例としてスタンフォード大学のヘッカー教授が、ことし5月、次のような報告書を発表しています。ヘッカー教授は、北朝鮮の核施設を4回、訪問し、核開発の現状に詳しい専門家です。

ヘッカー教授によりますと、非核化のプロセスは、初期、中期、後期の3つの段階に分けられます。

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▽まず初期段階として、核実験や弾道ミサイル発射の中止や原子炉の停止などを一年以内に行う。
▽次に、核兵器施設の申告・削減、原子炉の解体などを2年から5年で、
▽最後に、NPT=核拡散防止条約への復帰や貯蔵しているプルトニウムの除去、再処理施設の閉鎖などを、6年から10年かけて行う、というのです。このロードマップは、あくまでも物事が順調に進むことを前提にしており、ヘッカー教授は「交渉や作業が滞ることも考慮すれば、完全な非核化には15年かかるだろう」と述べています。

専門家の中にはもっと短期間でできるという人もいれば、もっとかかるという人もいて、トランプ政権の中でも意見が分かれているようです。ただ、はっきり言えるのは、非核化にはそれなりの時間がかかるということです。非核化は、ある日、突然実現するのではなく、一連のプロセスとして捉える必要があると考えます。そしてそのプロセスの中に、大量破壊兵器の申告なり、朝鮮戦争の終結宣言なり、双方の主張を落とし込んでいく、これからはそのような作業になるのではないでしょうか。

【非核化と継続の意思】
ようやく始まった非核化に向けた動き。では、これを失敗に終わらせないためにはどうすれば良いのか。
私は、両国の指導者の“意思”、何としても非核化を実現するのだという意思と、交渉を続けていくという意思を、2人が持ち続けられるかどうかにかかっていると考えます。
4月に行われた南北首脳会談で、キム・ジョンウン委員長は「核のない朝鮮半島を実現するのが共通の目標だ」とするパンムンジョム宣言に署名し、先月の米朝首脳会談では「朝鮮半島の完全な非核化についての断固として揺るがない決意」を示しました。
こうした最高指導者の決意が安易に揺らぐようでは、北朝鮮はもう2度と国際社会から相手にされないでしょう。
そして、たとえ困難ではあっても米朝間の協議を続けていくことが重要です。完全な非核化は様々なプロセスを経なければ実現しない難しい作業であり双方の思惑も異なっています。
しかしだからといって途中で投げ出してしまっては元も子もありません。

【まとめ】
今月27日は朝鮮戦争の休戦協定締結から65年の節目の日です。
今月末から8月初旬にかけては、日本、アメリカ、韓国、北朝鮮も参加するASEAN関連の会議があり、9月9日は北朝鮮の70回目の建国記念日と、これから秋にかけて重要な外交日程が続きます。

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今回に限らずこれからもまだまだ紆余曲折があるでしょう。しかしまだ諦めるには早すぎます。トランプ大統領とキム・ジョンウン委員長には、非核化に向けた熱意を持ち続ける努力と忍耐、そして困難に立ち向かう勇気を期待したいと思います。

(出石 直 解説委員)

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