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「トランプ政権 イラン産原油 制裁の波紋」(時論公論) 

出川 展恒  解説委員
神子田 章博  解説委員

(出川)
アメリカのトランプ政権が、日本を含む各国に対し、イラン産原油の輸入を完全に停止するよう要求したことが先週、明らかになりました。これは、先に「イラン核合意」から一方的に離脱したトランプ政権が、イランに対する独自制裁として行う措置ですが、世界各国を巻き込む制裁となっており、日本も難しい対応を迫られます。
経済担当の神子田解説委員とともに、この問題を考えます。

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神子田さん、まず、トランプ政権による今回の要求を説明してください。

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(神子田)
アメリカは、今年11月4日までと、はっきり期限を切って、各国に対し、イランからの原油の輸入を完全に停止することを求めました。
具体的な方法についてみてみます。各国の石油会社がイランから原油を購入する際には、代金を決済するためイランの中央銀行と取引をします。しかし、アメリカは国内法をつかって、イランの銀行と取引をする金融機関に対し、アメリカでの口座の開設を認めない制裁を科そうとしています。国際的に活動する各国の金融機関にとって、アメリカとの取引ができないのは致命的です。
つまり、金融機関を制裁の対象にすることによって、イランとの原油の取引を断念せざるを得なくさせるしくみです。いわば、「アメリカをとるのか、イランをとるのか」を各国に迫るものですが、出川さん、アメリカは、なぜここまで厳しい要求をつきつけるのですか。

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(出川)
トランプ大統領は、オバマ前政権が、3年前、他の5つの主要国とともに、イランとの間で結んだ「核合意」は、イランが将来、核兵器を獲得するのを止められない欠陥だらけの合意だとして、今年5月、一方的に離脱すると宣言しました。合わせて、イランに対し、「過去最大級の経済制裁」を行うと発表しました。
トランプ政権は、イランとの間で、今の「核合意」に代わる「新たな合意」を結びたいと考えています。イランの核開発を制限するのではなく、完全に停止させ、ミサイル開発の停止なども盛り込みたい考えです。
イランの国家収入の3分の1を占める原油の輸出を遮断すれば、イランは経済的に立ち行かなくなり、「新たな合意」を受け入れざるを得ないだろう。北朝鮮と同様、「最大限の制裁圧力」をかければ、イランも交渉のテーブルに着くだろうと考えたようです。

(神子田)
なるほど。こうしたトランプ政権の独自制裁に対し、各国はどう対応していますか。

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(出川)
まず、核合意に署名したアメリカ以外の主要国、すなわち、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国の政府は、核合意は、イランによる核兵器の開発を防ぐ十分な効果があり、イランが完全に守っている以上、維持すべきだという立場です。
EU・ヨーロッパ連合は、今週、スイスとオーストリアを訪問したイランのロウハニ大統領に対し、核合意を支持することを確認しました。また、イラン産原油の大口の輸出先である中国とトルコは、トランプ政権の要求をはねつけています。
しかし、各国の企業の対応は、政府とは異なり、ヨーロッパの大手企業が相次いでイランとの取り引きを停止すると表明しています。アメリカとのビジネスを犠牲にできないからです。神子田さん、日本政府は、どう対応していますか。

(神子田)
日本政府も、「イラン核合意」を支持しています。トランプ政権の要求に対しては、日本企業の活動に影響が出ないよう、イラン産原油の輸入継続の方策を探っています。

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実は、2012年に、当時のオバマ政権がイランに対し、同様の制裁に踏み切った際には、日本は、イランからの原油の輸入量を減らすことで、制裁の適用除外を受けました。今回も、アメリカに対し、イランからの原油の輸入を一段と減らすことなどを条件に、制裁措置の例外とするよう求めているものとみられます。ただ、トランプ政権は、例外は認めないとしているだけに、全く楽観できない状況です。

(出川)
仮に、日本政府も、今後イランから原油を輸入できないという結論に達した場合、日本の企業や経済界への影響はどうなるでしょうか。

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(神子田)
日本は、原油の輸入全体のうち、5%程度をイランから輸入しています。もし、これをイランから輸入できなくなると、サウジアラビアなど別の国から輸入する必要がありますが、石油元売り会社の中には、イラン産の原油の特性に合わせた精製設備をもつ企業があり、他の原油に切り換えることで、収益にマイナスの影響が生じます。
さらに日本は、原油の調達先の多角化を進めてきましたが、イランからの輸入を止めれば、その動きにも逆行することになります。

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1991年に起きた湾岸戦争の際、日本は、イラクやクウェートから調達できなくなった分を、イランから調達した経緯があります。イランからの原油の輸入は、中東で有事が起きた際のリスクを分散する意味で、決して小さくはない役割をもっているのです。

(出川)
原油価格への影響も気になるところですね。

(神子田)
はい。原油市場はこの2か月間、イランがらみの動きに大きく影響されました。

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原油の代表的な指標であるWTIは、今年5月、アメリカのイラン核合意からの離脱を材料に、3年5か月ぶりに1バレル70ドル台に上昇しました。その後、OPEC・石油輸出国機構が原油の増産で合意するという思惑から、いったん60ドル台前半まで値下がりしましたが、その後、再び上昇し、一時1バレル75ドルを超えました。
背景には、イランからの原油の供給が大幅に減ることで、需給がひっ迫して、原油価格がさらに上昇するという思惑があります。原油が値上がりすれば、日本でも、ガソリン価格、それに石油を原料に使う製品の価格などが上昇し、私たちの生活にも影響が及ぶことが懸念されます。
さらに原油関係以外でも、日本企業によるイランへの自動車輸出、あるいは、イランの油田開発の権益獲得など、核合意後の制裁解除をうけて進めようとしていたビジネスもできなくなってしまいます。
出川さん、多くの国がイラン産原油の輸入を停止した場合、イランは、どのように対応するでしょうか。

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(出川)
イランのロウハニ大統領は、トランプ政権を激しく非難しながらも、これまで、核合意にとどまる姿勢を示してきました。アメリカ以外の国が、核合意を維持し、イランに経済的な恩恵を与え続けてくれることに賭けているのです。
ただし、核開発を大幅に制限することに見合う経済的利益が得られない場合には、核合意から離脱する意向も表明しています。最高指導者ハメネイ師は、イランが核合意に残るための絶対条件として、「原油の輸出が保証されること」を挙げています。

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そして、イランは、トランプ政権が求める「新たな合意」を目指す交渉には応じないと思います。と言いますのは、イスラム革命後のイランは、アメリカを「大悪魔」と呼び、アメリカの圧力には徹底的に抵抗する意識が、国民の間に浸透しているからです。そして何よりも、イランには、国連安保理決議のお墨付きも得た「核合意」を完全に守ってきたという強い自負があるだけに、トランプ政権の圧力に屈する形で、「新たな合意」を受け入れる可能性は、ほとんどないと思います。

(神子田)
日本は、以前にも、イラン国内に持っていたアザデガン油田の権益を、アメリカとイランの関係が悪化する中で手放さざるを得なかったことがありました。今後も中東情勢がますます不透明となる中で、原油の調達先として中東への依存を減らしていく必要があるでしょう。
また、アメリカの思惑一つで、日本の企業活動の安定性が損なわれるおそれがでてくるのは、イランに限ったことではありません。アメリカ政府が、日本企業の活動にも関わる政策変更を行う場合には、日本政府としても、ビジネスへの影響が最小限に抑えられるよう配慮を求めていく必要があると思います。

(出川)
日本は、革命後のイランとも良好な関係を保ってきましたが、今、トランプ政権から、理不尽とも言える要求を突きつけられています。今後、日本を含む多くの国々が、イランからの原油の輸入を停止した場合、イランも、核合意から離脱して、核開発を再開し、加速させてゆく可能性が高いと思います。トランプ政権やイスラエルは、イランの目的を核兵器の獲得と見ていますから、ペルシャ湾岸の軍事的緊張が一気に高まり、この地域にエネルギーの大部分を依存する日本にとって由々しき事態となります。
日本としては、他の国とも協力しながら、現在の核合意を維持するため、最大限の外交努力を行うことが重要だと考えます。

(出川 展恒 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)

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