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「九州北部豪雨1年 復旧への課題は」(時論公論)

清永 聡  解説委員

40人が犠牲となった去年7月の九州北部豪雨から5日で1年となります。今も1000人以上が仮設住宅などで避難生活を続けています。
今夜は、九州北部豪雨の本格的な復旧へ向けた課題を考えます。

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【解説のポイント】

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●まもなく1年。被災地は今、どうなっているのか。
●被害はなぜ拡大したのか。
●最後に、今後の本格的な復旧を阻むことが懸念される「所有者不明土地」の問題です。

【九州北部豪雨とは】
去年の九州北部豪雨では、福岡県朝倉市で24時間の雨量が545ミリを記録しました。土砂崩れや河川の氾濫で40人が犠牲となり、2人が行方不明となっているほか、多くの住宅に被害が出ました。
この災害の特徴は大量の流木が発生したことです。36万立方メートル、20万トンと試算され、住宅を押し流しました。過去最大規模の流木災害と言われています。

【流木処理は今も】
道路や河川の流木は、すでに撤去がほぼ終わっています。ただ、取り除かれた大量の流木は今も、処理が続けられています。

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福岡県筑後市の処理施設には、現在も集められた流木が山のように積み上げられています。
福岡県は、流木を燃料などにリサイクルしています。泥がついているため、機械で何度もふるいにかけて分離した上で、細かく破砕します。また、石やゴミは人の手で取り除く必要があり、多くの手間がかかります。
ここでの処理が終わるのは、来年の春までかかる見通しです。

【被災地は今】
朝倉市杷木地区の赤谷川を取材で訪れました。赤谷川も氾濫して周囲は泥と流木で埋まりました。今は、石を詰めた黒い袋を、川の両岸に積み上げています。

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1つ2万トンでその数は27000個。すべて応急復旧として設置しました。
これは国土交通省九州地方整備局が、二次災害を防ぐため、地元の業者の協力を得て、急いで応急復旧を進め、梅雨の時期までに完成させました。

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また、上流部の沢には巨大なネットが張られています。これも再び土砂崩れが起きたときに、住宅や道路に被害が及ばないよう、緊急で取り付けました。今回は被害が甚大なため、ひとまず地区の住民へ説明して理解を得た上で、こうした対策を実施したということです。今年の梅雨の大雨でも、これまでのところ赤谷川の氾濫などは起きておらず、応急復旧の効果が出ていると言えそうです。

【流木災害の特徴は】

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では、大量の流木を伴った土砂災害は、なぜ引き起こされたのか。林野庁の専門家チームは現地を調査し、報告書をまとめています。
現地調査によると、今回は、山肌が崩れ落ちる「山腹崩壊」が比較的深い場所で起きていることが分かりました。斜面の崩壊は、多くの場合深さ1~2メートル程度。立木の根で持ちこたえることもあります。しかし、九州北部豪雨では、深さ3メートルから場所によっては10メートルに達していました。
これは500ミリを超える記録的な雨が短時間で降ったため、急速に地面の深い場所まで雨水が浸透し、立木の根よりも深い場所から崩れ、大規模な山腹崩壊になったと考えられています。
さらに、流された樹木は、多くが通常、斜面で止まるのに対し、今回は大量の雨水を伴ったため、多くが押し流されて、被害を拡大したとみられています。
林野庁の報告書には、こういうデータもあります。

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被災した自治体の人工林のうち、過去10年間に、間伐などの手入れをしていなかった山林の方が、手入れをしていた山林よりも、森林地域全体に占める山腹崩壊の面積の割合が高かったということです。
今回の災害の最大の要因は、あくまでも記録的な大雨とみられますが、今、民有林は過疎化や高齢化で、手入れの行き届かない山林が全国的に増えています。
林野庁は「適切な山の管理も、災害を防ぐ効果をもたらす可能性がある」としており、山林の管理をどう進めていくのか、今後の課題です。
報告書は、こうした大規模な災害は局地的な現象ではなく、激しい雨が降れば全国の山間部で発生する危険があると指摘しています。

【所有者不明土地がこれからの課題に】
九州北部豪雨で今後必要となる取り組みは何でしょうか。
梅雨の時期を前に、行政の担当者が現地を視察しました。相次いで見つかったのは、まだ山に残されたままの大量の流木でした。今後の雨で二次災害のおそれが指摘されています。
流木が残されているのは多くが山間部です。撤去を急ぐ必要がありますが、重機を入れるため、林道などの整備が必要になります。しかし、国土交通省や林野庁によると、こうした山の整備が、いま難しくなっています。
それは、所有者が誰なのかすぐには分からない「所有者不明土地」が増えているためです。

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不動産は持ち主が亡くなると子どもなどが相続し、登記を更新します。しかし、山間部や山林などは、子供が都市部へ離れるなどして、未登記のままのケースが少なくありません。国土交通省の調査では、長い間更新されず、登記簿の氏名で所在が確認できない山林が、全体の25%を超えています。

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相続登記をしないと、土地の権利は法律上の相続人全員が持つことになります。林道を作ろうとすれば、担当者は、子供や孫などすべての相続人を探し出して全員の承諾をもらうことが求められます。
さらに、山林の場合は、地域の数十人が共同で所有する「共有地」もあります。放置されていれば法律上の相続人はさらに増え、全員の承諾を得ることは、もはや難しいケースもあります。

【本格復旧を阻む】

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本格的な復旧事業もこの「所有者不明土地」の課題に直面すると懸念されています。
これまでは「応急復旧」だったため、地域への説明で緊急に進めてきました。しかしこれからは「本格的な復旧工事」です。川岸を石の袋ではなくコンクリートで整備し、山間部は砂防ダムにします。それには土地の買収や、所有者全員の承諾が求められます。
担当者は「被災地も相続登記が行われていない土地は、今後、所有者の特定に苦労しそうだ」と話しています。
しかし、所有者を捜すことに時間を費やし、いつまでも本格復旧に取りかかることができなければ、再び大雨の被害が発生しかねません。
所有者不明土地をめぐっては、6月、利用を促す新たな法律が成立したほか、政府は2020年までにさらに必要な制度の見直しを行う方針です。しかし災害復旧については、もっと早く、所有者が複雑な共有地でも速やかに長期的な防災対策を可能にすることや、登記制度の改善などを進めてほしいと思います。

【日本全体の課題に】
今、山間部ほど、高齢化と過疎化が急速に進んでいます。各地で大規模な土砂災害のリスクがある中で、人々の命を守り、山林を維持することは欠かせません。
九州北部豪雨で見えた復旧への課題は、いまの日本全体が抱える課題でもあります。犠牲を繰り返さないためにも、これからの抜本的な対策が求められます。
                           
(清永 聡 解説委員)

 

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