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「西野ジャパンが見せたもの」(時論公論)

刈屋 富士雄  解説委員
小澤 正修  解説委員

(刈屋)
「すべてが足りないけれども、ほんの少しの差だと思う。」世界ランキング3位のベルギーと激戦の末敗れた直後、西野監督はこう語りました。
日本代表がワールドカップに出場して20年、ベスト8に最も近づいた瞬間でもありました。
決勝トーナメントに進んだのは三度目ですが、初めて上を目指して戦える状態で臨めたことは、日本サッカー界の大きな一歩といえます。
西野ジャパンの戦いぶりから何が見えたのか。現地の取材情報も整理している小澤委員とともに振り返ってみます。

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3つのポイントで考えます。

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①    本番前の低評価を覆し、ベスト16に進出した要因。
②    賛否両論に分かれたポーランド戦の最後の10分間についての考え方をもう一度検証します。
③    そして今回の経験をどう生かすのか次の4年について考えます。

まず、ベスト16に進出した要因について、小澤さんはどう分析しますか。

(小澤)
要因としてまず1番にあげられることは、急きょ、チームを率いることになった、西野監督の手腕です。開幕まで2ヶ月、西野監督は準備の時間がない中で、今ある戦力でどう勝つかを考えました。そこで選手との対話を重視して短期間でチームを立て直し、現実的な采配を振るうことで、選手が今出せる力を、最大限発揮させることを目指しました。ハリルホジッチ前監督の「個の強さ」、それに「縦への速い攻撃」を軸にした戦術を継承しながらも、ボールを保持し、パスでつないでいく日本サッカーのよさを、うまくミックスし、采配でも、これまでワールドカップで日本代表の主軸を担ってきた本田選手を思い切って先発から外す決断をして、勝負どころで切り札として起用するなど、勝負師としてのさえもみせました。
大会直前の苦しい時期も西野監督は「ネガティブになる必要はない」と繰り返し発言し、選手への信頼をベースに、チームをまとめて決勝トーナメント進出に導いたのです。

(刈屋)
4年前一勝も出来なかった日本代表の反省点のポイントを修正し、目指すべき日本のサッカーのスタイルの方向性を見せたと言えますね。

(小澤)
今大会では選手の「経験」を本番で存分にいかしました。
短期間でのチーム作りのため、代表メンバーは、平均年齢は過去で最も高い28点3歳、3大会連続出場も5人と、経験重視となりましたが、その経験ある選手たちが、正確でテンポの速いパス回し、組織的で粘り強い守備、縦への素早い攻撃を展開し、期待に応えました。
また、選手たちは観客の大声援で消えてしまうお互いの指示を、伝言ゲームのように前の選手に順番に伝えることを徹底するなど、過去の大会の経験をいかして、意識を一体化することができました。選手が互いに次のプレーを共有し、攻守に体を張って、2大会ぶりの1次リーグ突破につなげました。

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(刈屋)
さて次に、世界中に賛否両論を巻き起こしたポーランド戦の残り10分について、もう一度、西野監督の決断の背景をたどってみます。世界最高の舞台でのサッカーの試合としては、負けている日本が、攻めずにボールを回し、海外のメディアからも酷評されました。サッカーの試合としては、非難されても当然の試合ですし、最後まで全力を尽くすという日本人が大切にしてきたスポーツマンシップにも反する行為で、すっきりと喜べないファンも多かったと思います。
しかし、理解を示す声も多くあることもまた事実です。
あの采配を考える上での一つの考え方をここでご紹介します。

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一次リーグは、決勝トーナメントの16チームを決める為の勝負といえます。
ですから一次リーグはサッカーの勝いである以上に、短期間でサッカーを3試合行った上での、勝ち点の勝負です。勝ち点が同じ場合は、得失点差、総得点、直接対決の勝者、そこまで同じ場合は今大会から導入された警告の回数などのフェアプレーポイント、それでも決まらなければ抽選という順番で勝負が決まる規則になっています。
ポーランド戦の終盤、ランキング61位の日本が、ランキング上位のチームと3試合戦ってきて、残りおよそ10分で、ようやくつかみ掛けている決勝トーナメントのチケット。しかもわずかなフェアプレーポイント差。これを手放さないための選択肢はいくつかありましたが、西野監督は、同時進行の2つの試合のうち、自力で出来る自分たちの試合を止めるという選択をしました。
他力に託す戦術だけに苦渋の思いは容易に想像出来ますが、決定的なカウンターを何度も受けていたことや警告カードのリスク、スタッフのコロンビアが逃げ切るという分析など決断する要素はいくつかあったと思います。
その上で、2つの会場で試合を動かすリスクより自分たちの試合を止めて、もう一つの会場のしかもコロンビアの守りにかけるという前代未聞の作戦を選択しました。
この作戦は到底理解できないという声も多くありますが、正解がないのもまた事実です。明確なことは、日本は3回目の決勝トーナメント進出を果しました。しかしこの件については、賛否両論あった事を踏まえ、その決断の根拠や他の方法はなかったのかなど多角的に検証することが、サッカー界の財産になると思います。

さて最後に今回の経験を経て、次の4年に向けて日本サッカー界に何が必要かを考えます。小澤さんいかがでしょう?

(小澤)
日本代表は、今大会の経験と課題をどう生かして、何を目指すのか。まずは、日本人監督に本格的に4年間を託す機が熟したかについて考えます。
大会前の監督交代劇はその理由のひとつに、コミュニケーション不足があげられました。
それを考えると、通訳を介さず、また日本のサッカーの特性も理解している西野監督が、短期間で強豪相手に戦えるまでに、不安視されていたチーム状態を高めたことは納得できます。
西野監督はガンバ大阪などで数々の修羅場をくぐり抜けJリーグ最多の通算270勝をあげた名将、その手腕が、大舞台でも通用することを示しました。
実はワールドカップで過去に優勝したチームはいずれも自国出身の監督が率いています。
日本代表はこれまで多くの外国人監督が率いてきましたが、Jリーグ出身の日本人監督に本格的に次の日本代表を託す議論も高まると思います。

(刈屋)
ただ今回は、ワールドカップ出場を決めた監督を本番前で交代させるという監督人事がありました。
結果としてよかったとして終わらせるのではなく、しっかりとその過程と判断と責任を検証し、次に生かして欲しいと思います。
選手の面からいかがでしょう?

(小澤)
4年後には再びワールドカップ、そして2年後には23歳以下の選手で戦う東京オリンピックも行われます。
代表メンバーの平均年齢が高かったということは、同時に、世代交代が待っていることも示していて、次世代の選手の台頭が求められます
今大会は柴崎選手のように、Jリーグから海外に挑戦し、一皮もふた皮もむけて日本代表の中心選手として活躍する選手があらわれました。
今後も、いわゆる「海外組」が代表の中心となる傾向は続くと思いますが、世界に通用するサッカーを目指してプロ化をはかり、スタートしたJリーグも25年。
4年後は生まれた時から、プロサッカーが身近にある環境で育った選手がほとんどになるはずです。大会後に再開するJ1では、スペインのスーパースター、イニエスタ選手もプレーします。去年、15歳ながら「飛び級」で20歳以下の日本代表に選ばれたFC東京の久保建英(くぼ・たけふさ)選手など、今10代から20代前半を中心とした次世代の選手が、こうした中で力をつけて、海外組をおびやかす存在になることが、次のステージに向かうために、何より求められると思います。

決勝トーナメント1回戦では、後半途中出場したベルギーの選手が2点目、そして決勝の3点目をあげ、世界ランキング3位の選手層の厚さをみせつけました。
日本代表が、ワールドカップでベストエイト以上という、新たな歴史を作るには、次世代の選手の台頭によって、軸になる選手だけでなく、控え選手も含めて、選手層をより厚くし、23人の登録メンバー全員で短期決戦を戦い抜くことが必要だと思います。

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(刈屋)
日本代表は、ワールドカップで3度目のベスト16でしたが、過去2回はいずれも次の大会で、一次リーグ一勝も出来ず惨敗しています。日本サッカーのスタイルが見えてきた今回の大会の教訓を次に生かしてこそ、ベスト8の壁は崩せると思います。

(刈屋 富士雄 解説委員 / 小澤 正修 解説委員)

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