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「職場はどう変わるのか? ~働き方改革法 成立~ 」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

今回は、「職場はどう変わるか~働き方改革法成立」についてお伝えします。
紆余曲折の末、法律が成立しました。
日本で始めて、もうこれ以上残業してはいけない、という
明確な残業の上限が設けられることになります。
その一方、そうした規制から完全に外れて、
いくら働いても本人の自由、という高度プロフェッショナル制度も誕生します。
新たな制度によって、職場は、働き方は、どうなるのか?考えます。

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[ 何が焦点か? ]

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焦点となるキーワードは、三つ。
①    法案一括審議の限界
②    残された疑問
③    残業上限規制と“先送り”
この3点です。

[ 8法案一括審議 ]
まず、今回の働き方改革法、実は、8つの別々の法律を束ねたものです。

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労働基準法、労働契約法、労働者派遣法、パート法などなど。
それだけ、論点も盛りだくさんで、
高度プロフェッショナル制度と残業時間の上限規制をはじめ、
同一労働・同一賃金、年次有給休暇の取り方の変更や、
中小企業が猶予されていた割り増し賃金の引き上げなど
論点は多岐にわたります。

ところが、実際の審議はというと、
序盤から、肝心の労働時間のデータに大量のミスが見つかり、
問題の追及に多くの時間が費やされました。
さらに、その後は高度プロフェッショナル制度の是非を巡って議論が集中し、
それ以外の論点はすっかりかすんでしまいました。
どれも国民の仕事そのものや暮らしに大きく関わる問題なのに
議論が十分に行われたとはいえません。
法案一括審議の弊害は、大きかったといわざるを得ません。

[ 高プロ導入の課題 ]
そうした中で、与野党が最後まで鋭く対立したのが高度プロフェッショナル制度でした。
この制度、年収の高い、一部の専門職を労働時間規制から、完全に外す、というものです。

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対象になるのは、年収が1075万円以上で
金融ディーラーやコンサルタント、研究開発職などが想定されています。

労時時間規制から完全に外す、とは、どういうことなのか?
まず労働法は、使用者に対し、労働者を働かせ過ぎないよう、
いろんな義務を課しています。
たとえば、残業させたら、割り増し賃金を払うとか、
一定時間働いたら、休憩をとらせるとか、
こまかな義務を課しています。

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しかし、高度プロフェッショナル制度では、
こうしたことが全く適用されなくなります。
ちなみに、同じく労働時間の規制から外れているのが管理職です。
しかし、管理職でも深夜労働をした時には割り増し賃金がつきます。
しかし、高度プロフェッショナルにはなし。究極の規制緩和です。

この制度について安倍総理大臣は、国会審議の中で
「時間や場所にとらわれない、自立的で創造的な自由な働き方が可能になる」
と述べて、制度の意義を強調しました。

また、経済界からは、
「人口減少で働く人が減る以上、働いた時間の長さではなく
成果で評価される働き方が必要だ」、という主張がされました。

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これに対し、野党側からは
「いくら働かせても、残業代を払わなくていいなら
ドンドン仕事をさせることになって、
過労死のリスクが高まるのではないか」という反論や、
過労死の遺族の人たちからは、「労働時間が把握されないことになり、
過労死しても労災認定が難しくなってしまう」として
反対の声があがりました。
しかし、結局、議論は平行線に終わっています。

[ 残されたギモン ]
国会審議の終盤で出てきた、新たな疑問が二つあります。
一つは、年収条件です。
先ほど、年収条件は1075万円、ということを説明しました。
政府によると、年収1000万円以上の労働者は全体の4%で、
役員などを除くと、わずか2.5%しかいません。

この年収の高さが、高度プロフェッショナルに対する関心が
今一つで、どうせ自分は関係ない、という反応の背景になっていると思われます。
しかし、この前提が変わるかもしれないという議論が出てきました。

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というのも、この年収には、
たとえば通勤手当なども含まれる、という見解を政府が明らかにしました。
確実に払われる手当てなら含まれる、という言いかたもしています。
それでは、住宅手当なども含まれるんでしょうか?
もしそうならこの年収条件は、見かけより、かなり下がる可能性が出てきます。

また、適用される職種も、さきほど、金融ディーラーなどと紹介しましたが、
それはあくまで現段階で政府が考える想定であって、
具体的なことは、今後更に審議会でつめることになっています。
つまり、議論しだいでは、もっと職種が拡大する可能性もあるわけです。

そしてもう一つの疑問は、休日の問題です。
高度プロフェッショナル制度が適用者されている人は、
働きすぎをふせぐために、
必ず年104日以上の休日をとることになっています。
しかし、どういうペースでるかについては、
「4週間で4日以上」ということが決められているだけです。
ということは、月のはじめに4日まとめて休みをとれば、
残りは連日勤務することが可能になります。

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さらに先日、新たに野党が指摘したのは
次の4週間と合わせて8週間で考えると、
最初と最後の4日間をそれぞれ休めば
その間の48日間の連続勤務が理論上は可能になるという指摘です。
これについて政府から特に否定する発言はありませんでした。
それは極端すぎる話しだ、と思われるかもしれませんが、
どんな制度を作ろうが、問題は悪用されることをどう防ぐかです。
今後、より細かな規定について、検討する必要があるのではないでしょうか?

[ 残業規制と例外 ]
そして、最後は、高度プロフェッショナルとは全く方向性が逆の、
規制強化の新たな仕組み、残業の上限規制です。
くどいようですが、
これは高度プロフェッショナルの人には全く適用されない話しです。

これまで、労使が36協定と呼ばれる協定をむすべば、
残業時間は事実上青天井でした。
しかし、今後はどんな理由があろうと、
残業は月最大100時間未満、まで、となります。
適用は来年4月からです。

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しかし、これにも課題があります。
日本の企業の大半を占める中小企業は、一年先送りされて2020年4月からです。
人ぐりの厳しい中小企業に配慮したものですが、
こうなると、残業規制の厳しい大企業が
まだ規制のゆるい中小企業に無理をおしつけるという、
下請けイジメにつながるおそれがあります。

また、さらに、自動車運転業や建設業、医師などは
さらに先送りして、2024年4月からとなっています。
これも業界の事情に配慮したものですが、
だからといって、過重労働を放置していい、というわけにはいきません。
労働基準監督署はもちろん、業界団体なども協力して
目を光らせることが重要です。

法律の成立を受けて、安倍総理大臣は、
これからも働く人の目線に立って改革を進めて行きたいと述べました。
働き方改革が、本当に働く人の命と健康を守り、
意欲をもって働くことにつながるのか、
それとも、結局、働きすぎが続くのか、
真価が問われるのは、これからの取り組みです。

(竹田 忠 解説委員)

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