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「大阪北部地震 落下危険物の対策強化を」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

先週の大阪府北部の地震ではブロック塀が倒れて2人が亡くなったのをはじめ、人が行き来する場所に建物の外壁やガラス窓などが落下する被害が相次ぎました。阪神・淡路大震災以降、国は建物の耐震化に力を入れて耐震化率は少しずつあがってきました。一方、ブロック塀や外壁、看板などの落下危険物の対策は後回しにされてきた感があり、今回、大都市で起きた地震でその危険性と対策の遅れが際立つ形になりました。この問題を考えます。

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解説のポイントは3つ
▼先週の地震で外壁などの落下がどのくらいあったのか
▼耐震化の中で落下物対策が残されている現状について
▼対策をどう進めるのか

【落下物が相次いだ大阪北部地震】

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先週の地震発生の瞬間を捉えた防犯カメラの映像です。画面右側の住宅の外壁が大きく崩れ落ちます。その家の方向に歩いていた子どもがあわててUターンして走って逃げ、おとなと抱き合っている様子も捉えられています。

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この地震で全壊した住宅は3棟、火災の発生は8件とそれほど多くありませんでした。しかし、ブロック塀が倒れて2人が亡くなったのをはじめ、建物の外壁やガラス窓、看板、駅の表示板などが、人が行き来する場所に落下する被害が相次ぎました。

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震度6弱を観測した5つの市の消防などを取材したところ、外壁やガラス窓、看板、それにブロック塀などが落下・倒壊したり、しそうになって周囲を立ち入り禁止にするなどの対応にあたったものが、少なくとも181件あったことがわかりました。

【耐震化に取り残された落下危険物の対策】

ふたつ目のポイント、こうした落下危険物の対策の遅れについてです。

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23年前の阪神・淡路大震災では死亡した人の9割が建物の倒壊や家具の転倒によるものだったことから、建物の耐震化を進める法律が作られ官民で取組みが続けられてきました。その結果、耐震化率は住宅が82パーセント、多数の人が利用するビルなどは85パーセントになっています。耐震性のない建物はまだ膨大な数残っていますが、確実に改善されてきたのも事実です。
注目されるのは5年前からは一定以上の規模のビルには耐震診断が義務付けられ、耐震性不足の建物の名前が公表されるようになったことです。所有者や管理者の責任を明確にすることで耐震化を強く促そうという踏み込んだ取組みで、耐震改修や建替えを加速させています。

地震から命を守るために建物本体の耐震性を高めることが最重要であることは言うまでもありません。ただ、こうした踏み込んだ取組みと較べると、ビルの外周や街中にある落下危険物は以前から問題が指摘されてきたにも関わらず抜本的な対策は取られず、後回しにされてきた感があります。それが露呈したのが学校のブロック塀です。

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公立小中学校の校舎などの耐震化率は98.8パーセントに達し、文部科学省は「耐震化は概ね完了した」と胸をはっていました。しかしブロック塀は耐震化のチェック対象には入っておらず、小学校4年生の児童が亡くなった高槻市の小学校では、驚くような危険な状態で放置されていたことがわかりました。地震後の調査で全国の学校で危険な塀が次々と見つかっています。

ビルなどについても全体の耐震化率があがった一方で、老朽化した建物で落下物の危険性が高まっていると指摘されています。

3年前、札幌市の繁華街で飲食店の看板が突然落下し、歩いていた女性にあたって女性が重体になりました。看板は設置されて30年以上たって接続部分の腐食が進んでいました。

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5年前には大阪市で3階建てのビルの外壁が落下。路上にいた男性が下敷きになって死亡しました。

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このように、地震が起きたわけではないのに、ビルの外壁や看板などが突然落下するという事故が今年3月までの8年間で77件起きて1人が死亡、40人が重軽傷を負っています。

では、ビルの外壁などの安全性のチェック体制はどうなっているのでしょうか。

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一定規模以上の建物については外壁や看板、設備の安全性について、所有者が資格を持つ人に依頼をして定期的に点検・調査をし、その結果を市町村や都道府県に報告することになっています。しかし報告は「義務」であるにも関わらず3割の建物からは報告がありません。また報告があるところでも、調査の方法は基本的に所有者にまかされていて、多くは目視で確認をしているだけで、専門家は危険性を把握しきれていないと指摘しています。

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こうした現状から東京・新宿区は幹線道路沿いのビルなど2272棟について外壁や看板などが落下する危険がないかを現地調査し、今月とりまとめました。その結果、改善が必要な建物が16パーセントにあたる355棟見つかり、このうち著しい損傷があって危険性が高い建物が23棟ありました。新宿区は改善を指導していますが、改善されたのはまだ1割弱にとどまっています。

首都直下地震が起きたとき外壁の落下やブロック塀の倒壊などで4000人近くが死傷するという被害想定もまとめられています。

【対策をどう進めるのか】
では、被害を防ぐために何が必要なのでしょうか。

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落下物や倒壊の対策は所有者や管理者の責任です。地震であっても求められる安全性を備えずに通行人などを巻き込めば刑事責任や賠償責任を問われます。札幌の看板落下事故では店の副店長が業務上過失致死傷の罪に問われ有罪判決が確定しています。また熊本地震でブロック塀が倒壊して男性が死亡したケースではブロック塀の所有者は刑事告訴を受けたほか民事裁判でも責任の有無が争われています。補強や作り替えには費用がかかりますが、一部には助成制度もあり、対策を急ぐべきだと思います。

そして国や自治体は所有者に対策を強く促すと同時に、関与度を高めて自ら調査を行ったり、チェック体制が十分なのかどうか見直す必要があります。

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ブロック塀については40年も前の宮城県沖地震で危険性が指摘され安全の基準が強化されましたが、その後も福岡県西方沖地震や熊本地震でも死者が出るなど被害が繰り返されてきました。自治体のなかにはブロック塀を詳しく調査して指導し、補強や安全なフェンスへの作り直しに独自の助成をしているところもあります。国が主導してこうした取組みを広げ、今度こそ危険な塀をなくしていく必要があります。

建物の外壁などの落下対策では、まず7割しかない報告を徹底させなければなりません。建物本体の耐震化と同様に問題のある建物の名前を公表することも検討すべきでしょう。
所有者にまかされ目視が中心になっている点検方法も考える必要があります。耐用年数を決めて時期が来たら取り付け直すという方法や、そもそも落下の恐れのある看板などを減らすことも必要ではないでしょうか。
危険な建物について市民からの通報を受ける窓口を作ったり、行政と民間で協力してパトロールを行っている自治体もあり、参考になると思います。

先週の大阪府北部の地震で周辺の活断層による大地震の時期が早まったと指摘する専門家もいます。また首都直下地震は30年以内に70パーセント程度の確率で起こるとされています。

地震による被害を減らすために、まず建物そのものの耐震化をさらに加速させる必要があります。同時に建物の外周やブロック塀など街中の危険を減らしていくことの重要性を、先週の地震は投げかけていると思います。

(松本 浩司 解説委員)

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