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「日朝首脳会談は実現するのか」(時論公論)

塚本 壮一  解説委員
増田 剛  解説委員

史上初の米朝首脳会談が行われてから、きょうで2週間となります。
トランプ大統領がキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長に、拉致問題の解決の必要性を提起したことを踏まえ、日本政府内では、首脳会談の開催も視野に、北朝鮮との直接対話を探る動きが本格化しています。安倍総理大臣とキム委員長の日朝首脳会談は実現するのか。そして、拉致問題は解決に向かうのか。
朝鮮半島担当の塚本委員とともに考えます。

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(増田)
米朝首脳会談で、トランプ大統領は、拉致問題を提起しました。
これを受けて、安倍総理は拉致被害者家族と面会し、「日本が北朝鮮に直接、向き合い、拉致問題を解決していく決意だ」と表明しました。国会では、「最後は、私自身がキム委員長と向き合い、日朝首脳会談を行わなければならない。拉致問題を解決するためには、どのようなチャンスも見逃すつもりはない」と踏み込みました。

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政府内では、北朝鮮との直接対話を模索する動きが本格化していて、日朝首脳会談についても、複数のアイデアが浮上しています。

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ひとつは、9月11日からロシア極東のウラジオストクで開かれる国際会議を利用するアイデアです。プーチン大統領は、この会議にキム委員長を招請しており、安倍総理も出席を検討しています。
この際に、両首脳の接触や会談を模索しようというものです。
もうひとつは、9月下旬、ニューヨークで行われる国連総会の一般討論演説です。仮にキム委員長が出席することがあれば、その機会に、日朝首脳の接触や会談を実現できないかというものです。
どちらも、キム委員長の出席を仮定した話ですが、こうした国際会議の合間の会談は、日本にとってメリットがあります。本格的な会談と位置づけずに話し合えるため、たとえ、この時点で成果が出なくても、次の本格的な会談につなげるための第一歩だと説明できるからです。
ただ、現時点では、いずれも、アイデアの域を出ていません。
塚本さんは、首脳会談を含む日朝対話の実現可能性をどうみますか。

(塚本)
北朝鮮は、日朝対話に踏み出すどうか、日本側の出方をさらに見極めた上で判断する構えだと思います。キム委員長は、先の米朝首脳会談で日本との対話にオープンな姿勢を示したということですし、4月の南北首脳会談でも日本と対話する用意があると述べていました。
北朝鮮も、日本との対話再開を選択肢のひとつに置いているのは間違いありません。ただし、そこには、自らに有利な形で対話が運ぶのなら、という条件を付けていると思います。朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は先週、「対立関係にあった国であっても、我が国に友好的に対応するなら、関係を改善させる」という論評を掲げました。北朝鮮は、国営メディアが拉致問題について「解決済み」とことさらに強調し、日本との対話に容易には応じないという姿勢です。特に、拉致問題をめぐっては日本の出方を非常に警戒していると思います。

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(増田)
北朝鮮が警戒しているとしても、やはり、日本にとって、拉致問題は譲れません。
安倍総理自身、日朝首脳会談に強い意欲を示す一方で、やる以上は、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないとしています。拉致問題の解決を目指す超党派の議員連盟は、先週末、安倍総理に、日朝首脳会談に臨む際には、拉致被害者の帰国につながる実質的な協議ができるかを見極めることなど、慎重な対応を申し入れました。
拉致被害者の家族会代表の飯塚繁雄さんも、「今まで北朝鮮にだまされてきた経過があり、今回は、そのようなことが絶対にないようにしてもらいたい。焦って前の轍を踏むことは許せない」と話しています。
背景には、拉致問題をめぐる日朝の相互不信の歴史があります。

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2002年、当時の小泉総理とキム・ジョンイル(金正日)総書記の首脳会談が行われ、拉致被害者5人が帰国。2004年には、家族の帰国が実現しましたが、それ以降、問題の進展はみられません。2014年、拉致被害者の再調査を約束したストックホルム合意は、北朝鮮が一方的に中止を通告してきました。それでも、日本は、今回、拉致問題を解決する千載一遇のチャンスとみて、北朝鮮との対話に乗り出そうとしているわけです。

(塚本)
一方の北朝鮮は、拉致問題の解決そのものというよりも、拉致問題に終止符を打って国交正常化に向けて進めるかどうかに注目していると思います。
拉致問題だけが取り上げられることを避け、国交正常化を含めた幅広いテーマで議論ができるかどうかを見極めようとするはずです。
さらに、北朝鮮はいま、日本が制裁の続行を主張していることを厳しく非難しています。日本側の対話姿勢を懐疑的に受け止めているとみられます。先の米朝首脳会談でアメリカが体制の保証に応じたのと同じように、日本も独自制裁の緩和や解除など、北朝鮮の求めに応じる用意があるのかを見定めようとしているのは間違いありません。
そして、日本側の出方に不満があれば、対話を見送ることでも構わないと考えているかもしれません。

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(増田)
北朝鮮と温度差がみられる中で、日本政府が、拉致問題を前進させるための交渉カードとして考えているのは何か。
ひとつは、日本が北朝鮮に行っている独自制裁の緩和です。
次に、コメや医薬品の提供といった人道支援。
ストックホルム合意は、「適切な時期に北朝鮮に人道支援を実施する」ことを明記しています。人道支援のカードを使い、拉致問題の進展を促す案も検討されています。
そして最大のカードが、将来の経済協力。
「拉致、核、ミサイル問題を包括的に解決し、国交正常化を早期に実現する。国交正常化の後、北朝鮮に経済協力を行う」というのが日本の立場です。経済協力というアメを最大限活用して、拉致問題の解決を迫るわけです。

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(塚本)
確かに、北朝鮮にとって、日本の経済協力は魅力的です。莫大な資金を得て、立ち後れたインフラを整備したいと考えています。
キム委員長自身、南北首脳会談で、ムン・ジェイン大統領に対し、韓国の高速鉄道を持ち上げながら、「我が国の交通には不備がある」と、インフラの遅れを認めていまいした。私自身、北朝鮮国内を取材した際に鉄道に乗りましたが、列車の速度がひどく遅いのに驚かされました。線路を支える路盤が貧弱で、速度を出せないのです。
その一方で、北朝鮮はいま、かつてなく強気になっている可能性があります。

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北朝鮮が2002年に日朝首脳会談に応じたのは、キム・ジョンイル政権を「悪の枢軸」と呼んで厳しく非難したアメリカ・ブッシュ大統領との間を日本に取り持ってほしいという切羽詰まった事情がありました。いまはむしろ米朝関係が先行していますし、韓国や中国とも首脳会談が実現しました。
経済面でも、2002年は食糧不足にあえぎ、北朝鮮が「苦難の行軍」と呼んだ厳しい時期の直後でしたが、いまは改善しています。日本の経済協力は獲得できればそれに越したことはありませんが、切実に必要だとは感じていないかもしれません。

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北朝鮮は「優位にあるのは自分たちだ」という認識に立っていると想像されます。
日本としては、北朝鮮に拉致問題に誠実に取り組むよう、どう促して首脳会談につなげるのか、綿密な戦略が求められます。

(増田)
私は、拉致問題の解決のためには、日朝首脳会談は避けて通れないと思います。そして、塚本委員も指摘するように、首脳会談に臨むには、事前に準備を積み上げ、綿密な戦略を描く必要があります。
2002年の日朝首脳会談では、当時の外務省幹部が北朝鮮当局と、事前に数十回も極秘に接触。水面下の調整を重ねた上で、会談にこぎつけました。今回は、そうした積み上げが行われているのでしょうか。
危うさも指摘されるなかで、それを払拭するための綿密な戦略を構築し、拙速を避けながら、拉致問題の解決に向けて、首脳同士が真剣に話し合える環境を整えていく。まさに日本外交の正念場です。

(塚本 壮一 解説委員 / 増田 剛 解説委員)

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