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「アメリカの保護主義に求められる日本の対応」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

こんばんは。ニュース解説時論公論です。
こちらの写真をごらんください。保護主義的な言動を繰り返すアメリカのトランプ大統領に詰め寄る先進各国の首脳たち。
今月カナダで開かれたサミット主要国首脳会議を象徴する場面です。
中国をはじめ貿易相手国からの輸入品に高額の関税をかける「一方的な措置」を振りかざして、譲歩を引き出そうとするアメリカ。
その過激な行動の背景には何があるのか、そして日本はどう対応したらよいのか、今夜はこの問題を考えていきたいと思います。
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解説のポイントは三つです
1)    エスカレートする交渉戦術
2)    アメリカの行動の背景は
3)    日本はどう対応すべきか
です。

先週末、トランプ政権は、中国がアメリカ企業の知的財産権を侵害しているとして、中国からの500ドル規模の輸入品に25%の関税を課す一方的な制裁措置を発動すると発表しました。
具体的には、来月6日に、およそ340億ドル規模の輸入品の関税を引き上げ、その後さら160億ドル規模の輸入品の関税を引き上げるとしています。
これに対し中国側が、同等の規模の対抗措置をとると発表すると、トランプ大統領は、さらなる制裁措置の可能性を示唆しました。
中国が対抗措置を発動すれば、さらに2000億ドルに相当する輸入品に対して10%の関税をかける案を検討するというのです。
こうした強硬な姿勢の背景には、巨額の制裁措置をふりかざすことで相手に譲歩を迫り、相手が譲歩したとみるや、さらなる制裁措置をちらつかせて一段の譲歩を迫るという「過激な交渉戦術」が見えてきます。
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これを中国の例でみてみます。
アメリカが今年4月今回の制裁措置を初めて明らかにした際、中国は、貿易戦争は避けたいという思惑から、アメリカの要求に沿った対応を打ち出します。アメリカが関心を示す自動車や金融分野の市場開放に踏み切ったほか、米中間の閣僚協議では、アメリカからの農産物や石油製品など700億ドル分の輸入拡大を提示したと伝えられています。
これに対し、アメリカは矛を収めるどころか、今度は、実際に制裁措置を発動することでさらなる譲歩を引き出す構えです。
さらに「中国が対抗措置をとるなら、はるかに大きな規模の制裁措置が待っている」と脅すことで、対抗措置すら封じ込めようとしているかのようです。
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アメリカが一方的な措置をふりかざして譲歩をせまるのは、中国相手にとどまりません。
トランプ政権は今年3月、海外から輸入される鉄鋼製品などに10%から25%の関税をかける措置を発動。
その際、EUやカナダメキシコに対しては、当初適用を猶予しました。その背景には、それぞれの国との間で進める貿易交渉で、「アメリカに譲歩をすれば高関税は実施しない」という取引の材料に使う思惑があったものとみられます。
日本も他人ごとではありません。来月にもアメリカとの間で貿易と投資をめぐる二国間の協議が始まることになっています。
米中間の協議で自らの交渉戦術が功を奏すれば、トランプ政権は日本に対しても、一方的な制裁措置をちらつかせながら市場開放を迫ってくることが懸念されます。
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アメリカがこうした過激な交渉戦術をとる背景にはどんな狙いがあるのでしょうか。
ひとつは、巨額の貿易赤字の大幅な削減です。
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トランプ大統領は、年間7900億ドルあまり日本円で87兆円をこえる貿易赤字が国内の労働者の職を奪う元凶だと考えています。このため、秋の議会の中間選挙を控えて貿易赤字を目に見える形で減らし、有権者にアピールしたい思惑があります。
その最大のターゲットが貿易赤字の半分を占める中国だというわけです。
意外なことにトランプ大統領は、自らは自由貿易を信奉していると主張しています。
では、なぜ保護主義的な言動を繰り返すのでしょうか。
実はトランプ大統領が支持する自由貿易には、対等で公正であるべきだという条件がついているのです。
ここでいう対等とは、単純にいうとアメリカが相手国から輸入するのと同じくらい、アメリカからも相手国に輸出でき、貿易が均衡するということです。その意味で中国をはじめ巨額の貿易不均衡となっている国々はみな問題だと考えているようです。
さらに、「公正」という意味では、とりわけ中国に対する不満を強めています。
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 中国は3年前に「中国製造2025」と呼ばれる産業政策を発表しました。
5Gと呼ばれる次世代通信分野や、自動運転などの自動車関連の新技術といったハイテク分野を中心に産業を発展させようというものです。
ところが、アメリカは「中国政府がこうした企業を育てるために、事実上の補助金を与えている」という疑念を抱いています。
さらにアメリカは、「中国では、国内に進出する外国企業に対し、最新技術を中国企業に移転するよう強制し、知的財産権が侵害されている」と考えています。
トランプ政権は、「こうした政策を通じて、中国の企業の競争力が強まり、アメリカ企業の強力なライバルになるという事態を見過ごすことはできない。しかしこの不公正な状況を現在のWTO・世界貿易機関のルールではきちんと規制できてない。だから独自の一方的な措置を通じて事態を改善するしかない」と考えているようです。
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しかし、各国が、貿易紛争を国際的なルールによらずに、独自の措置で解決をはかろうとすれば、報復が報復を呼ぶ最悪の展開となり、世界経済の混乱は避けられません。こうした中で日本はどう対応すべきでしょうか。
 まず第一に、アメリカの国際ルール違反に対しては、EUやカナダがすでに行っているように、WTOへ提訴するなり、対抗措置を示すなり、毅然とした態度で警告を与えることが必要です。
それと同時に、アメリカ政府だけでなくアメリカ国民にむけて、「貿易戦争となればお互いに利益にならない」ということを訴えていくことも必要です。
実際に、アメリカ政府は、当初高い関税をかけることにしていたテレビやスマホなどについて、「価格が上がってしまう」と反発する消費者の声を無視できず、結局、除外することになったと伝えられています。
関税の引き上げに対する消費者の反発の声が一段と強まり、選挙対策にも逆効果ということになればトランプ政権の独りよがりの行動にも一定の歯止めがかかるかもしれません。
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もう一つはWTOのルールの改善にむけて加盟各国に働きかけていくことです。
 実は、今年のサミットでは、各国からの批判に音を上げたトランプ大統領が、安倍総理大臣に「しんぞう、言うことに従うからまとめてくれ」と助け船を求める場面がありました。そこで日本が示したのが「ルールに基づく国際的貿易体制の推進」というキーワードでした。これを受けて首脳宣言には「WTOを可能な限り早期により公正にする」という文言が盛り込まれました。
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さらに、中国を念頭に、「強制的な技術移転や不適切な知的財産権の保護に対処すること」や、「市場や貿易をゆがめる補助金や国有企業による行動に関して、強固な国際ルールの構築をはかる方向性」が盛り込まれまれました。
 日本としては、アメリカをいさめるだけでなく、中国に対しても不公正な慣行を改めるよう強く促すなど、「より公正な貿易」の実現にむけて調整役を果たす役割が求められていると思います。
トランプ大統領は、今後秋の中間選挙が近づくにつれて、いっそう過激な貿易政策を打ち出してくることも予想されます。
しかし、ルール違反に対し、ルール違反で対抗するわけにはいきません。日本としては、自由貿易を守るという原則を最後まで貫く。正攻法の対応こそ最善の道ではないでしょうか。
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(神子田 章博 解説委員)

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