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「2040年問題と外国人受け入れ」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

日本の未来を左右する、社会保障の2040年問題と、外国人受け入れ問題です。
高齢者人口がピークに達する2040年。社会保障は重大な局面を迎えます。
それは、お金がかさむだけでなく、働く人が減って、
深刻な担い手不足に直面するためです。
この見通しを初めて議論した政府の会議が、
今度は、介護などの分野で,外国人労働者の受け入れを拡大する、
という方針を打ち出しました。
これは介護にとって、どのような意味を持つのか?
そして日本の社会が外国人労働者を受け入れるために
どのような態勢の整備が必要なのか?考えます。

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焦点となるキーワードは三つ。
①    2040年
②    「新たな在留資格」
③    そして、受け入れ環境の整備
この三つです。

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[ 2040年問題とは? ]
まず、2040年問題とは何なのか?
これまで社会保障の世界では、2025年問題、
というのがよく論じられてきました。

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2025年というのは、戦後の世代として、
最もボリュームのある団塊の世代の人たちが全員、75歳以上になる年です。
これによって、日本人の5人に1人が75歳以上、
3人に1人が65歳以上という、超高齢社会に突入します。
一方、2040年は、高齢者の数がさらに増えて、ついにピークに達します。
団塊世代に加えて、その子供たち、つまり、団塊ジュニアの世代も
高齢者入りするためです。その数、およそ4000万人。
社会保障は大きな危機に直面します。

しかし、政府はこれまで、
この2040年問題を正面から議論したことはありません。
それは、消費税の引き上げを何度も延期して、
いまだに10%にあがっていないのに、
それよりもさらに増税が不可欠になる議論を始めるわけにはいかない、
そういう事情があるためです。

しかし、その10%への引き上げが、来年10月に迫っています。
もう次の議論を始めないと間に合わない。
それが、今回初めて行った、2040年の社会保障費の推計の意味です。

[ 社会保障の見通し ]
その推計です。

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税金や保険料など、社会保障にかかるお金をすべて合わせた社会保障給付費でみますと、
現在、およそ121兆円なのが、2025年度には、140兆円、
それが、2040年度には、さらに膨れあがって190兆円、
つまり今の1.6倍になります。

特に伸びが目立つのが、医療と介護で、医療は今の倍近く、
介護は倍以上の額になります。
大変な負担です。

また、これをGDP、つまり日本の経済力全体との比較でみますと
2018年度の社会保障給付費が
GDOの21.5%なのに対して2040年度はおよそ24%ですから、
社会保障の負担の重さは、今の1.1倍になる、というイメージです。
さきほどの金額で比べた場合の1.6倍と比べると、
開きは小さくなりますが、これもやはり厳しい数字です。

 [ 新たな局面 ]
さらに、このお金の問題より、もっと厳しいのが、
少子化による人手不足。担い手不足です。

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これまで、社会保障が直面してきた最大の課題は、「高齢者の急増」でした。
高齢者が増えると、医療・介護の費用が急増して
お金が足りなくなる、というものでした。
しかし、これが2040年になると新たに、「現役世代の急減」、
つまり、働く人たちの急激な減少、という新たな局面を迎えます。
就業者数、つまり働く人たちの数の見通しです。
現在、6580万人が働いていますが、
2025年には、200万人少なくなります。
そして2040年には、さらに減って
今より1000万人近く減ってしまいます。

一方、医療・福祉で働く人は、どうなるかというと、
現在は、全体の13%の823万人がこの業界で働いています.
それが2040年には、もっと多くの1060万人が働くことが必要になります。
これは、働く人全体の、実に5人に一人が
医療・福祉で働く、という計算になります。
これは実現可能でしょうか?

人口減少で、働く人が1000万人近く減る。
多くの業界が深刻な人手不足に陥る。
その中で、医療・福祉だけは、全く逆に、
順調に働く人が増えていく、ということが、どこまで可能なんでしょうか?
また、日本経済や産業全体のありかたとして、
どこまで許されることなんでしょうか?
これは相当に難しいことと、いわざるを得ません。

逆にいえば、2040年になると、お金がいくらあっても
医療や介護のサービスが十分に受けられないおそれが出てくる、ということです。

すでに今、老人ホームなどでは、ベッドに空きがあるのに、
職員の数が足りないために、
利用者が入所できないというケースが現実に起きています。
こうしたことが、もっと広範囲におきるおそれがある、ということです。

[ 新たな在留資格 ]
こうした中、この試算について議論をした経済財政諮問会議が
今度は先週、いわゆる骨太の方針の中で打ち出したのが
外国人労働者の受け入れ拡大です。

日本は外国人労働者の受け入れを厳しく制限しています。
基本的には、医師や弁護士など、
高度な技術や専門性を持つ人に限って受け入れています。
この規制を緩和して、もっと多くの外国人労働者を
受け入れるために新たな在留資格を作ろうというわけです。

具体的には、一定の専門知識や技能がある人に
最長5年間の在留を認めます。
介護や、建設や、農業分野などを想定していて、
2025年ごろまでに50万人の来日を目指します。

現在、似たような制度として「技能実習制度」があります。
本来は国際協力として、海外の人に日本の技術や知識を
学んでもらおうというもので、
労働者ではなく、実習生という位置づけです。

しかし、実際は単純労働として使われているケースが多く、
中には、低賃金労働や長時間労働、
さらには賃金未払い問題までおきていて、国際的に強い批判が出ています。

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今回の新たな在留資格はこうしたごまかしではなく、
正式に労働者として受け入れることを目指すもので、
その意味では、これまでよりも一歩前進、と言えるかもしれません。

[ 受け入れ環境の整備 ]
今回の検討を巡って安倍総理大臣は、
「いわゆる移民政策をとる考えはない」と述べて、
あくまで期間限定の労働力として受け入れる考えを示しています。
これに対し、専門家の間からは
「外国人労働者は、今や各国で奪い合いになっていて、
一時しのぎのような制度では、優秀な人には来てもらえない。
本格的な移民の議論を避けてはいけない」という意見や、
「介護現場には高いコミュニケーション能力が必要で、
外国人を増やすことには、慎重な対応が必要だ」などという声が出ています。

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問題は、移民であろうとなかろうと、外国人労働者に門戸を開く以上
安い労働力としてではなく、日本人と同じ処遇や環境で
公正に受けいれるべきだということです。
生活習慣や文化が違う人たちと理解しあって共に生きていけるよう、
官民あげて受け入れ環境の整備を急ぐ必要があると思います。

(竹田 忠 解説委員)

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