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「G7は結束できるか」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員
神子田 章博  解説委員
髙橋 祐介 解説委員

(伊藤)
まもなくカナダでG7サミット=主要7か国首脳会議が開幕します。これを前に、日米首脳会談が行われ、日米は、北朝鮮への対応で、緊密に連携し、制裁措置を継続していくことで一致しました。一方で、貿易をめぐり、アメリカと各国は対立しています。
G7は、結束できるのか。経済担当の神子田解説委員、アメリカ担当の髙橋解説委員とともにお伝えします。

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まずサミットに先立って行われた日米首脳会談についてです。史上初の米朝首脳会談を前に、焦点の北朝鮮への対応について、安倍総理大臣とトランプ大統領は、北朝鮮に対する国連安全保障理事会の決議に基づく制裁を継続するとともに、完全で検証可能かつ、不可逆的な非核化にむけて、北朝鮮から具体的な行動を引き出すため協力していくことで一致しました。

安倍総理大臣と、トランプ大統領は、ホワイトハウスで会談したあと、共同記者会見に臨みました。髙橋さん、北朝鮮との米朝首脳会談に向けたトランプ大統領の発言をどう見ますか?

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(髙橋)
「会談はすばらしい成功を収めるだろう」「今度はキム委員長をホワイトハウスに招いても良い」そうした楽観的、融和的な発言が目立ちました。しかし、最大の焦点である非核化をどのように進めていくのか、具体性に乏しかった印象は拭えません。「北朝鮮が非核化を行動に移すまで現在の制裁は維持する」としながらも「最大限の圧力という言葉はもう使わない」と改めて述べました。「1回の会談で大きな合意に達するのは難しい」とする一方で、「朝鮮戦争の終結で合意して調印する可能性もある」と意欲を見せました。今度の会談は、対話のプロセスが始まることにこそ、意義があるというのでしょう。

(伊藤)
そんなアメリカの前のめりの姿勢を危惧する声も日本政府内にはあるようです。なぜトランプ大統領は、ここまで今度の米朝首脳会談に並々ならぬ意欲を見せているのでしょうか?

(髙橋)
何としても歴史的な業績を挙げたい。そんな大統領のこだわりだけではなく、アメリカ国内の世論に背中を押されている面もあるのでしょう。

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現に、最新の世論調査では、今度の米朝首脳会談の開催を72%が支持しています。僅か数か月前まで首脳同士が公然と罵りあい、核戦争の危機すら懸念された頃とは一転し、トップ会談によって突破口が開かれることに、成果はどうあれ一定の期待が寄せられていることがうかがえます。党派別に見てみると、与党・共和党の支持層では実に95%、野党・民主党の支持層でも半数が、今度の米朝首脳会談の開催を支持しているのです。

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(伊藤)
一方、日本にとって重要課題である拉致問題については、アメリカが本当に、この問題を米朝首脳会談で取り上げるか心配するむきもありましたが、トランプ大統領は、必ず取り上げると強い言葉で約束しました。拉致問題は、日本が独自に北朝鮮との間で解決すべき問題です。安倍総理大臣は、日朝首脳会談を行うことも視野に北朝鮮と協議していく考えを示しました。ただ、トランプ大統領は、記者会見で、非核化が実現した際には、日本や韓国の経済面での支援に期待する考えを示しました。日本は、拉致、核、ミサイルの問題の包括的解決が、経済協力の前提になるという立場です。北朝鮮をめぐる各国の調整が続く中で、北朝鮮との協議をどのように進め、各国の理解を得ていくのか、日本外交は正念場を迎えることになりそうです。

さて、ここからは、まもなく開催されるG7サミットの焦点について見ていきます。とりわけ貿易面では、アメリカと他の6か国の間で、対立が目立っています。神子田さん、経済面では、貿易の問題の議論はどうなりそうですか?

(神子田) 
トランプ政権が相次いで打ち出している保護主義的な措置が議題に上り、そしてこの問題で会議が紛糾する場面も予想されます。

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アメリカは、日本や、EU=ヨーロッパ連合、それにカナダなどから輸入される鉄鋼製品やアルミ製品に15%から25%の高い関税をかける措置を打ち出しました。こうした製品の輸入増大が安全保障上の脅威にあたるからだとしていますが、各国からは自由貿易のルールに違反していると批判を浴びています。
こうした中でEUが、ウィスキーのバーボンなどアメリカを象徴する製品に対して、来月から報復関税を課すと発表しました。さらに、中国もすでに報復関税をかけているほか、隣国のカナダもアメリカからの輸入品に10%から25%の関税をかける方針を示しています。こうした報復合戦は世界経済に確実にマイナスの影響を与えます。OECDは、アメリカ中国EUがそれぞれすべての輸入品の関税を10%引き上げると、世界のGDPを1.4%押し下げるという予測を発表しました。

(伊藤)
そうした事態はなんとか避けたいところですが、今回の首脳会議で解決が図られそうでしょうか?

(神子田)
簡単におさまりそうもありません。というのも、トランプ政権は、各国からの自動車の輸入についても、25%の関税をかけるかどうか調査を始めるなど、保護主義的な姿勢を一段と強めているからです。

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実はサミットの前哨戦として先週末に開かれた主要国による財務相などの会議でもアメリカの輸入制限措置が中心的な議題となりました。この席で日本を含めた各国が、アメリカの措置が自由貿易を脅かすおそれがあると強い懸念を表明しました。これに対しアメリカのムニューシン財務長官は、自国経済を最優先に不均衡の是正をめざす姿勢は変えませんでした。いわば主要7か国が1対6に分裂した状況です。

(伊藤) 
髙橋さん。1対6とは極端な構図だが、トランプ大統領は、今度のサミットでどう対応する?

(髙橋)
トランプ大統領は、当初の予定より若干遅れて、サミットの舞台となるカナダに間もなく到着する見込みです。関係者らは、ほっと胸をなでおろしていることでしょう。と言うのも、大統領は、各国との対立の構図のもとで、貿易問題だけではなく、イランとの核合意からの離脱などでも他の首脳から批判を浴びるのが確実なため、米朝首脳会談を控えて「気が散る」と、周囲に不満をもらしていたからです。トランプ大統領はサミット2日目の途中で日程を早々と切り上げて、そのままシンガポールに向かう予定だとしています。

(伊藤) 
トランプ大統領自身も“居心地の悪いサミット”となるようですが、その原因をつくっているのもアメリカ。なぜアメリカは頑なに保護主義的な動きに走るのでしょうか?

(髙橋)
アメリカの製造業を守り抜く。そうした姿勢を見せることが、そのまま秋の中間選挙対策になっているからです。トランプ政権は、理念や原則で動くのではなく、アメリカの世論とりわけ自らの支持層に忠実な政権です。いま支持率は、だいたい40%台の前半ですが、与党・共和党の支持層に限っては、圧倒的に高い支持率を保っています。

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就任から500日の時点で、戦後の歴代大統領と比べると、与党からの支持率は、イラク戦争を始めた年のブッシュ元大統領に次ぐ歴代2位。こうした共和党の支持層を固めることが、中間選挙で勝利するための絶対条件です。

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とりわけ力を入れているのは、与野党がほぼ拮抗している議会上院で多数を維持することです。上院で改選されるのは定数100のうち、黄色で示した35議席です。このうち、民主党は18議席、共和党も6議席を今のところ確保できそうだとみられています。残る11の議席が、どちらが勝つか判らない「接戦州」です。

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この接戦州を地図で見てみましょう。実は11の州のうち、青色で示した西部ネバダ州を除いて、赤色の10の州はすべて、トランプ大統領が、おととしの大統領選挙で勝利した州でもあるのです。では、どうすれば“トランプ支持者”に中間選挙でも与党候補に投票してもらえるか?鍵を握るのは、大統領選挙の時と同様に、かつて盛んだった製造業が外国製品に押されて衰退し「ラストベルト=錆付いた工業地帯」と呼ばれている中西部の各州です。つまり「ラストベルトで勝てば中間選挙に勝てる」。共和党は伝統的に自由貿易を重んじますから、トランプ大統領の保護主義的な政策は、一見、不合理にも見えますが、地域を絞った選挙対策としては、きわめて合理的な判断と言えるのです。

(伊藤)
神子田さん。こうした中で今回のサミットでは、トランプ大統領と最も近い安倍総理大臣から、トランプ大統領を説得してほしいと期待する声が高まっています。日本はどう説得していくことが考えられますか?

(神子田)
日本自身がトランプ大統領の攻勢を浴びているだけに、難しいところです。

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実際にトランプ大統領は、8日の日米首脳会談のあとの共同記者会見で、「安倍総理大臣は、軍用機や航空機、それに農産物など数十億ドルにおよぶ製品を購入すると表明した」と強調し、アメリカから日本への輸出にとっての障壁をとりのぞいていきたい考えを示しました。これに対し安倍総理大臣は、アメリカに進出している日本企業が海外に輸出している額は、対日貿易赤字の額を上回っていると説明して理解を求めたということです。

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このようにアメリカが各国と対立し、一方的な制裁措置に傾く背景には、日本やEUなどとの間に巨額の貿易不均衡を抱えており、アメリカが「公正で互恵的」だ」と考える状況になっていないという不満があります。ただ、そのアメリカも自由貿易体制そのものを否定しているわけではありません。実際にホワイトハウスの高官はG7内の軋轢は、いわば「家庭内の揉め事に過ぎない」と楽観的な見通しを語っています。
ポイントは、貿易問題を二国間の黒字や赤字の額だけで考えるのでなく、経済面で依存しあう各国が多国間の枠組みを通じて、貿易量全体を増やしていくことが大事だという視点で説得していくことだと思います。さらに今回のG7は、別の意味でも自由貿易を守る重要な分岐点になると思います。

(伊藤)
それはどういうことでしょうか?

(神子田)
実は、いまアメリカが最も強い不満をもっているのは、先進国というよりも、異なる経済体制のもとに急速に発展している中国です。

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中国は、WTO・世界貿易機関に加盟して以降、日本や欧米など市場主義経済に移行することが期待されていました。しかし実際には、国家主導の経営統合で強力な企業を生み出し、そうした企業が資金力にものを言わせて先端技術をもつ欧米各国の企業を買収している。さらにそうした企業が知的財産権をきちんと守らない。あるいは収益の悪化したいわゆるゾンビ企業が事実上政府の補助金を受けて生き残り鉄鋼などの製品を過剰に生産しているといった問題です。アメリカは中国に対しても独自の制裁を打ち出す構えですが、こうした問題が世界の自由貿易体制をゆるがしているという認識では、日本やヨーロッパ各国も一致しています。このため、先進各国は分裂するのではなく、結束して中国に改善を求めていくことが求められています。

(伊藤)
髙橋さん。今回のG7、何が求められているのか?

(髙橋)
G7の経済規模が世界に占める割合は、新興国の伸びにおされて、いまや5割を切っていますが、そのG7の中で5割以上を占めるのがアメリカです。アメリカの積極的な関与抜きに、G7は機能できません。いまは中間選挙で頭が一杯のトランプ大統領も、その後は2020年のみずからの再選に向けて、各国との協力のあり方を見直さざるを得ない場面も出てくるでしょう。価値観を共有するG7。コップからこぼれてしまった水よりも、まだコップに残った水の価値にこそ目を向けるべきではないでしょうか。

(神子田)
サミットの存在感は低下したとはいえ、世界経済の安定成長、自由で公正な貿易、あるいは温暖化防止の取り組みなどで世界をリードしてきました。それも各国の結束があったからだと思います。もしこのまま分裂が続くということであれば、将来、再びリーマンショックのような事態が生じた場合に、うまく対応できなくなるおそれもあります。今回の会議で、アメリカの一国主義的な行動に歯止めをかけ、各国の協調の枠組みの中に引きとどめることができるのか、重要な分岐点となりそうです。

(伊藤)
G7内の対立が激しくなればなるほど、結果的に、国際社会の中で、中国の影響力が強まることにつながります。主要国として、世界をリードしてきた責任をどう考えるのか、対立を抱えた今だからこそ、どこまで明確なメッセージを世界に打ち出すことができるのか。G7は、その存在意義を問われる局面を迎えているといえそうです。

(伊藤 雅之 解説委員/神子田 章博 解説委員/髙橋 祐介 解説委員)

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