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「新技術を中小河川の防災に生かせ!」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

各地が梅雨入りし大雨への警戒が必要な季節になりました。大雨による災害の中でも中小河川の氾濫は事前の避難がとても難しい災害です。川の数が多いうえ、水かさが急激に増えるためです。しかし最近、開発されたふたつの技術で川の状況をリアルタイムに把握することで、避難のタイミングがはかりやすくなるという期待が持たれています。その可能性と課題について考えます。

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解説のポイントは3つです。

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▼中小河川対策の難しさ
▼2つの新しい技術とは
▼新技術を減災に生かす課題

【中小河川対策の難しさ】
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岩手県岩泉町で21人が亡くなったおととしの水害や、41人が犠牲になった去年の九州北部豪雨は、氾濫の監視体制が薄い中小河川で起きて、避難対策が大きな問題になりました。

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日本には人のいない山奥の川も含めて3万5000あまりの川がありますが、要所要所に水位計をつけて監視し住民に避難を呼びかける態勢がとられている川は2000河川です。大都市や中核市を流れる大きな川が中心で、それ以外の中小河川は警戒・監視体制がきわめて薄いのが現状です。

対策が難しいのは、なんと言っても数が多く、水位計の設置が追いつかないこと。そして小さな川は大雨で急激に水かさが上昇することから、避難を呼びかけるタイミングの見極めが非常に難しいためです。

【新しい技術① 洪水警報の危険度分布】
こうしたなかで、注目される2つの取り組みがあります。
ひとつは気象庁が発表する「洪水警報の危険度分布」です。

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対象は人の生活圏にあるほぼ全ての川、2万河川。氾濫の危険性を5段階に色分けして示し、薄い紫色は「3時間先までに重大な災害が発生する可能性が高い」川、濃い紫色は「すでに重大な災害が発生している可能性が高い」川の区間を示します。

どういう仕組みなのでしょうか。

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まず、その川が雨水を集める範囲を決めます。そこで実際に観測された雨量と3時間先までに予測される雨量をあわせ、流れ込む水の量を計算します。そして過去に氾濫を起こしたときのデータと比較して、いつ限界を超えて氾濫になるのかを予測して色で示しているのです。実際の水位ではなく、精密な雨量と過去のデータからシミュレーションをするこれまでにない手法で、水位計のない川でも避難のタイミングを示すことができるのが最大のメリットです。

信頼性はどうなのでしょうか。去年7月の運用開始後、総務省消防庁が検証を行ってきました。

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年7月、大雨で新潟県魚沼市を流れる4つの川で堤防が壊れたり水があふれたりする被害が出ました。
検証の結果、いずれの川も被害が出る25分から2時間あまり前に濃い紫色になり、さらにその1時間ほど前に薄い紫色になっていたことがわかりました。薄い紫色が「避難開始の目安」とされていますから、中小河川でも避難の時間的余裕がとれることがわかりました。

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一方、紫色になっても被害が出ないケースもあります。実際に被害が出たのはどのくらいの割合でしょうか。
気象庁が去年7月に秋田県の広い範囲で浸水被害が出た大雨について調べたところ、薄い紫色になった川の半分近く、濃い紫色になった川では65パーセントで、実際に氾濫や堤防の損傷などの被害が出ていました。

こうした検証結果を受けて、総務省消防庁は「市町村が避難勧告などを判断するための情報のひとつとして有効」と結論づけました。この雨期から少なくとも13の市と町が避難勧告を判断する具体的な基準などに取り入れることにしているのをはじめ、多くの市町村が重視するようになっています。この情報はもちろん誰でもパソコンやスマホで見ることができます。

【新しい技術② 簡易型水位計】
もうひとつの新しい技術は簡易型水位計です。
中小河川に水位計の設置が進まないのは設置と維持に大きな費用がかかるためです。そこで国土交通省は民間企業に呼び掛けてさまざまな会社のノウハウを持ち寄ってもらい新型の簡易型水位計を開発しました。

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最大の特徴は山奥など電源が取れないところでもバッテリーや太陽電池で最低5年間は観測できることです。大雨のときだけ観測をすることで消費電力を抑えるもので「危機管理型水位計」とも呼ばれます。また従来の水位計はデータを送るために専用の回線を使い装置も大がかりでしたが、簡易型水位計はスマートフォンなどと同じ、通信会社の一般回線でデータを送り、クラウドコンピュータで処理します。IoT技術によって設置費用は従来の10分の1以下の50万円から100万円。維持費も大幅に安くすることができました。

現在、従来型水位計が大きな川を中心に全国で7150か所ありますが、国土交通省は簡易型水位計を今後3年間で8700か所設置し、観測点を倍以上にしようと計画しています。

この水位計の情報もリアルタイムでパソコンやスマホでも見ることができることから、市町村や地域の防災組織などが身近な川に設置して、避難に生かすという使い方も想定されています。

【新技術を減災に生かす課題】
これらの新しい技術を中小河川の被害軽減に役立てるために何が課題なのでしょうか。

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▼まず市町村は、新しい情報・データを避難勧告の判断に生かす準備を急ぐ必要があります。危険度分布について国はガイドラインで薄い紫色を「避難勧告の目安のひとつ」と位置づけています。広島県は市町村が使いやすいように独自のガイドラインをつくって利用を促しています。一方、簡易水位計について岐阜県は市町村と勉強会を開いて、設置する中小河川の川ごとに避難勧告を出す基準水位を検討することにしています。ほかの市町村でも対応を急いでもらいたいと思います。

▼もうひとつは、両方の技術を高めあって、次の総合的なシステムづくりをめざすことです。

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気象庁の危険度分布には国土交通省や都道府県が持っている川の断面図つまり容量を示すデータが直接反映されていないほか、ダムの放流などの影響もほとんど考慮されておらず、実態を反映しない場合があります。
一方、簡易型水位計は数多く設置することで現状把握が飛躍的に進みますが、中小河川の急激な水位変化を見越して的確に避難判断をするには雨量予測との連動が不可欠です。

ふたつの技術は気象庁と国土交通省とで別々に開発が進められてきました。国土交通省側には気象庁の危険度分布の信頼性への疑問の声があり、独自のシステム開発にも取り組んでいます。

しかし、すでに運用されている危険度分布のシミュレーションに簡易水位計の膨大な実測データを突き合わせて修正していけば、危険度分布の信頼性が高まることが期待できます。さらに、いずれの技術も、知恵を出し合うことで中小河川のリスクを管理する、次世代の総合的なシステムに発展させられる可能性があります。一体的な取組みを期待したいと思います。

岩手の水害も九州北部豪雨も逃げ遅れて亡くなった人はほとんどが高齢者でした。もう少し早く危険を察知できていれば、隣の建物の2階に避難させるなどして助けることができた人は少なくありませんでした。今年も雨期を迎えて、市町村をはじめ防災関係者は、新しい情報も最大限に生かして、お年寄りなどを守る態勢を整えてほしいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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