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「財務省決裁文書改ざん 真相は明らかになったか」(時論公論) 

神子田 章博  解説委員
太田 真嗣  解説委員

森友学園をめぐる決裁文書の改ざんで、財務省は、きょう(4日)、内部調査の結果と佐川前理財局長を含む幹部職員の処分を明らかにしました。財務省の内部調査で、改ざんの真相は明らかになったのか、そして、再発防止に向けて必要な取り組みや、政治の責任について考えます。

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太田(政治担当):きょう発表された財務省の内部調査、ポイントはどこですか?

神子田(経済担当):まず問題となった文書の改ざんについて、佐川前局長が事実上指示し、部下の総務課長らが佐川氏と相談しながら行っていた構図が明らかになりました。

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具体的には去年2月27日、佐川前局長は部下から決裁文書の内容について報告を受けた際に、「このままでは外に出せない」と話し、この言葉をきいた部下が「文書を直す必要がある」と認識したということです。さらに3月20日には、改ざんの内容について佐川前局長も加わって議論が行われ、その際佐川氏から、「国会答弁を踏まえた内容とするよう」念押しがあったとしています。こうした経緯から、報告書は、佐川前局長が改ざんの方向性を決定づけ、問題行為の全般について責任があると認定しました。

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これを受けて、佐川前局長を停職3か月の懲戒処分相当とし、退職金から513万円を減額。部下の総務課長についても「停職1か月」の懲戒処分としました。さらに監督責任があったとして、当時の事務次官を減給1か月相当の懲戒処分とした他、当時の大臣官房長を文書による厳重注意とするなど、あわせて20人を処分します。さらに組織のトップである麻生副総理兼財務大臣も、閣僚給与1年分、といっても170万円ですが、170万円を自主的に返納することになります。

太田:今回の問題では、政治からの指示や“忖度”があったのかが注目されていますが、その点は、どうだったのですか?

神子田:調査の焦点も「忖度」の有無にあてられたということですが、財務省は「調査した職員から「忖度」という言葉は出なかったとしています。
では、なぜ文書を改ざんしたかについて、報告書は、国会審議が紛糾するのを避けるためだと認定しています。具体的には、政治家関係者からの問い合わせに関する内容や、森友学園による国に対する損害賠償請求の可能性に関する検討の経緯などについて、「国会審議でさらに厳しい質問をうけることにつながりかねない」という考え方から改ざんに踏み切ったとしています。このあたりは、国民というよりは、政治家を向く財務省の姿勢が見え隠れしています。

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その一方で、報告書は、去年2月17日に安倍総理大臣が「私や妻が関係していたら、総理大臣も国会議員もやめる」と国会で答弁した後、理財局の総務課長が関係する部署に対し「総理夫人の名前がはいった文書があるかどうか確認した事実を明らかにしました。その後、総務課長が、総理夫人づきの職員を含む政治家の関係者による問い合わせのリストについて佐川前局長に報告したところ、佐川氏は「記録の保存は省内の文書管理のルールにしたがって行われるものだ」という考えを示しました。これについて総務課長は「記録を破棄するよう指示された」と受け止め、関係部署に伝達したということです。

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今回の報告書は、改ざんの経緯について説明してはいるものの、根本的な問題として、「なぜ、文書の改ざんに手を染める前に、答弁を修正できなかったのか」という点について明確な答えは示されていないように感じます。財務省の最高責任者である麻生大臣でさえ、「最初のきっかけが一番関心のあるところだが、そこは、正直、わからない」と述べ、内部調査の限界を認める形となりました。

太田:今回の調査結果を踏まえ、野党側は、予算委員会での集中審議のほか、改めて、佐川前局長の証人喚問を行うべきだと主張しており、今後の焦点となりそうです。
では、麻生大臣の責任問題は、今後、どうなっていくのか。
野党側は、麻生大臣の辞任を求めていますが、安倍総理は、「政治責任とは、こうしたことが2度と起こらないように、対策を徹底して講じていくことだ」として、続投させる考えを示しています。しかし、与党内からも、「後は、国民がどう受け取るかだ」という声が聞かれます。

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安倍内閣の支持率は、この問題発覚を機に『支持』と『不支持』が逆転しましたが、その後は、大きな変化は見られず、安倍総理としては、「少なくとも9月の自民党総裁選挙までは、なんとか今の体制でしのぎたい」という思いでしょう。ただ、いつまでも疑惑が払拭できない上、麻生大臣の発言が、度々、世論の反発を生んでいる状況に、与党内のフラストレーションが溜まっているのも事実です。仮に、今後、内閣支持率がさらに低下することになれば、そうした不満が一気に噴出し、政権として厳しい選択を迫られる可能性もゼロではありません。そうした世論をつなぎとめるためにも、再発防止に向けた取り組みが重要です。
 
神子田:財務省はきょう再発防止の取り組みについても発表しました。このなかで公文書の管理についは、今後幹部職員も含めて総合的な研修を行うとともに、文書の更新履歴などを厳格に管理できる電子決済への移行を加速するなどしています。財務省は、財政再建にむけ、来年10月の消費税率の引き上げをひかえています。増税にせよ、歳出の削減にせよ、国民に痛みを求めるもので、不信感をいだかれたままでは、こうした政策にも理解は得られないと思います。省内の体制を一刻も早く整えて、信頼回復に向けて立て直しを急ぐ必要があります。

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太田:いまの国会の会期は、今月20日までで、国会は最終盤を迎えています。野党側は、加計学園問題とあわせて、安倍長期政権の弊害をあぶり出したい考えで、今後、内閣不信任決議案の提出も視野に入れています。一方、自民党のベテラン議員は、「森友・加計問題で、国民の疑念を完全に払拭するのは難しく、今は、目の前の課題で着実に成果を出していくしかない」と話しています。政府・与党は、与野党で対立の構図となっている、働き方改革関連法案や、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備に向けた法案についても、いまの国会で成立させる方針で、与野党の攻防は、今後、さらに熱を帯びることになります。
そうした中、いま、注目されているのが、来週10日に投票を向かえる新潟県知事選挙です。選挙戦は、事実上、与野党が対決する構図になっており、その結果がどうなるかは、最終盤の国会のみならず、その後の政治の流れにも大きな影響を与える可能性があります。

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神子田:行政の記録を文書に残すことは、のちの担当者が過去の経緯を踏まえて適切な行政を行っていくために不可欠であることに加え、将来国民が歴史を正しく検証するうえでも、欠かせないものです。それが簡単に書き換えられてしまえば、正確な記録が失われるだけでなく、公文書への信頼、ひいては行政への信頼を失うことにもなります。それだけに今後こうしたことが二度と起きないよう、官庁全体で再発防止に取り組む必要があると思います。

太田:今回の問題は、単に『官僚の無自覚』、あるいは『一省庁の不祥事』といった次元の問題ではなく、憲法が定めるように、「内閣が、正しく官僚機構をコントロールし、議会に対し責任を果たしているのか」、そして、「議会が、その内閣をきちんと監視できているのか」という、この国の統治システムの根幹に強い不信感を与えました。「問題の真相は、どこにあり、何を改めるべきか」。それは、与野党の利害や思惑といったレベルを超え、国会、あるいは、政治全体に突きつけられた深刻な問い掛けであることを、政治は、改めて強く認識する必要があるように思います。

(太田 真嗣 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)

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