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「『同一労働・同一賃金』最高裁が初判断」(時論公論)

竹田 忠  解説委員
清永 聡  解説委員

●日本のサラリーマン社会に大きな影響を及ぼす判決が出ました。契約社員や定年後の再雇用で、仕事が同じ場合正社員との待遇の差は許されるのか。
●最高裁の初めての判断は、契約社員の手当を幅広く認めた一方、定年後の再雇用の賃金は、原告に厳しい内容になりました。
●判決が雇用契約のあり方や政府の働き方改革の議論に与える影響を、経済・雇用担当の竹田委員と共にお伝えします。

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【定年後再雇用の賃金格差とは】
清永:まず、今回の判断、竹田さんはどう受け止めましたか。

竹田:一言でいうと、非正規で働く人や、高齢になっても働く人が増えているのに、現場の処遇や実態が、それに対応できていない。
その矛盾や問題点に、最高裁が一定の判断基準を示した、ということだと思います。

清永:裁判の内容を見ていきましょう。2つあるのですが、まずは定年後の再雇用のケースからです。
この裁判は、トラックの運転手をしていた男性らが起こしました。男性は、60歳の定年後も嘱託社員として、正社員とほぼ同じ仕事を続けました。ところが再雇用された男性の賃金は、2割ほど下がりました。
ポイントは労働契約法20条の条文です。正社員かどうかで「労働条件の差が不合理であってはならない」などと書かれています。では、再雇用で賃金が下がったのは不合理かどうか。
1審は「仕事は正社員と同じなのに差があるのは違法だ」と男性らの訴えを認め、2審は逆に「定年後の引き下げは妥当だ」と逆転敗訴を言い渡していました。

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【最高裁判決】
清永:最高裁は、このケースで賃金に差が出ることを容認しています。
判決が重視した要素の1つは、定年後、再雇用された人の事情です。定年まで正社員として働き、退職金も受け取り、今後は年金を受ける予定です。こうした事情などを踏まえると、一部の手当に一定の格差があっても、不合理ではないと判断したのです。

【賃金カーブの仕組み】
竹田:定年後の再雇用の賃下げというのは、実態としては多くの企業で行われていること。それが、最高裁の判断の背景になっているとみられます。

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そもそも賃金の仕組みがどうなっているかというと、日本の多くの企業は、いわゆる年功序列型賃金、在職年数に応じて賃金が徐々に上がるという、こういうカーブを描いて賃金が上がる仕組みになっています。若い頃の給料は低く抑えられていて、それを年をとってから、取り戻すという感じです。
ところが、社会の高齢化が進んだことで、国は5年前に法律で、希望者全員を65歳まで雇用することを義務づけました。そうすると、企業は、この高いところのまま、雇い続けることは負担が大きいので、多くの場合、賃金を平均で2~3割下げて再雇用するケースが多い。こうしたことが背景になっているわけですね。

清永:ただし、再雇用された人にとっては、どうでしょうか。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が平成26年に行ったアンケートでは、定年後も継続雇用された人で60歳から64歳の人のうち、賃金が下がった人の47、9%は、「雇用が確保されるから賃金の低下はやむを得ない」としている一方で、34、7%は「仕事がほとんど変わらないのに、賃金が下がるのはおかしい」と考えていて、意見が分かれています。
ただ、格差が大きくなりすぎると、定年後の労働意欲が失われることにもなりかねません。また、今回の最高裁判決はあくまで個別のケースです。企業が自分に都合のいいように解釈し、際限なく賃金を下げてしまわないよう、注意が必要です。

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竹田:そこは大変重要なところです。実際、判決後の会見で、原告のドライバーの人たちがどうしても納得できない、と繰り返していたのが、仕事は同じなんだということです。たとえば大企業などでは、定年後は仕事の内容が変わったり、軽くなったり、ということがよくあるわけですが、原告の男性たちは「自分たちはドライバーで、全く仕事の内容が同じだ」と言っていました。“寸分たがわず”という表現もされていましたが、全く同じ仕事をしていて、賃金だけが下がるのはどうしても納得できない、という発言です。
今、政府は、人口減少と、高齢化が進む中で、生涯現役社会を作ろうとしています。つまり、できるだけみんな意欲をもって長く働いてくださいと。
そういう中では、やはり、もう再雇用で賃金水準をどうするか、ではなくて、もう定年そのものをもっと延ばすとか、仕事の内容が同じかどうかで、もっと報酬体系のありかたを見直すとか、そういう大きな議論も必要になってくると思います。

【契約社員の手当の格差とは】
清永:もう1つの裁判もドライバーで同じ仕事をしているケースです。ただしこちらは正社員と契約社員の手当の違いが争われました。
これが今回争われた手当の一部です。

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「通勤手当」は当時、契約社員は正社員よりも少ない額しかもらえませんでした。残りは正社員にしか支給されていない手当です。
「無事故手当」は1か月無事故の場合に支給されます。
「給食手当」は食事代の補助。ほかに「皆勤手当」「住宅手当」などもあります。
1審が同じ金額を支給するよう命じたのは、通勤手当だけ。2審はこれに加えて、無事故手当、給食手当も契約社員に支給するよう命じました。
一方、最高裁は、これらに加えて皆勤手当まで、仕事の内容が同じである以上、契約社員に支給しないのは「不合理」だと判断しました。住宅手当が除外されたのは、正社員には転勤があり、住宅費が多くかかることが考慮されたためです。
竹田さん、こちらは契約社員の主張を大幅に認めました。

【非正規の現状と同一賃金ガイドライン案】
竹田:日本の雇用の大きな問題点の一つは、正規・非正規の賃金格差が大きいことです。

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これはフルタイムで働いている人の賃金を100とした場合に、パートで働いている人がどれだけもらっているかというグラフです。フランスはほぼ9割。ほとんど変わりません。ドイツ8割、イギリス7割。日本は6割にも満たない。この大きな賃金格差を何とかしようということで、政府が取り組んでいるのが同一労働・同一賃金なんです。で、その裏付けとなる働き方改革法案が、今、まさに国会で審議中でして、さらに、今回、最高裁で、不合理な手当ての格差は認められない、という明確な判断が出たことで、これまで様子を見ていた企業も、もう待ったなしの対応を迫られることになると思います。

【格差を減らす取り組みを】
清永:正規、非正規の待遇格差をめぐる訴訟が、全国で相次いでいます。今回の最高裁判決は、こうした訴訟や、企業の人事・労務に与える影響が極めて大きいと思います。定年後再雇用の人たちも、契約社員も、今や、全国のあらゆる働く現場で、なくてはならない存在です。
判決を通じて、トラブルを未然に防ぐことはもちろん、企業側は、働く人たちの意欲を奪うことがないよう、できる限り個別に事情を考慮し、格差の解消に取り組んでほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員 / 清永 聡 解説委員)

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