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「森林バンク 森はよみがえるか」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

スギやヒノキなど、荒廃した森林を、市町村が一旦借り受け、森林バンクとして集約した上で、意欲ある事業者に貸し出す。そうした新たな法律が、先週国会で可決・成立しました。
国内に広大に存在する荒廃した森林は、経済的価値だけでなく、水を浄化し、山を守るという本来の機能も失っています。
そうした眠った資産を、面積をまとめることで整備し、利用しようというこの法律。森を甦らせ、地域の活性化につなげることができるのか。
この問題を考えたいと、思います。

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日本の森林は戦後、燃料や、住宅用としての需要に備え、国を挙げて大規模な植林が、行われてきました。その中心となったのが、スギやヒノキの人工林です。
しかしその後、石炭・石油の普及や木材の輸入自由化で、価格は低迷。スギの価格はピークだった1980年の3分の1、ヒノキは4分の1に下落しました。
植林された木材は、すでに50年以上育って、利用する最適期を迎えていますが、多くが放置され、荒廃したままになっています。

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そもそも森林は、木材としての利用だけでなく、昆虫や動物など、多様な生物を育んだり、深く根を張ることで水を貯めて、山を守る。
また二酸化炭素を吸収するなど多面的な機能があるとされます。

しかしその機能を活かすためには、定期的に木を伐採し、植林するなどの、手入れが必要です。
ところが1戸あたりの所有面積は小さく、伐採してもコストがかかりすぎて、利益はほとんど出ません。
高齢化が進み、山を活かす意欲は低下する一方で、林野庁の調査では、所有者の60%が、伐採すべき森はあるものの、その予定はないとしているのです。

ただ、コスト的に合わないとはいえ、価値のある木材が、放置されているのは、いかにももったいない。
しかも荒廃したままでは、水をため込むなどの機能は発揮せず、むしろ土砂災害を引き起こす危険性が指摘されています。

そこで法律が目指したのが、森林バンクとされる新たな仕組みを作り、それを、国民全体が支えていくことでした。

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今回成立した、森林経営管理法では、まず、所有者に伐採や植林など、自らの森林を管理する責務があることを明記。

その上で、所有者自らが管理できない場合、市町村に管理を委託し、市町村はそれを森林バンクとして集約化するとしました。

そして森林を面的にまとめた結果、利益が見込めるものについては、事業者を公募し、間伐や伐採などの管理を任せる。そして出た利益を所有者に分配するとしました。

ただ森林の中には、山奥で木材の切り出しが難しい場所もあります。
そうした利益が見込めない森林については、将来的に自然に戻すことを前提に、市町村自らが、間伐などの管理を続ける仕組みにしたのです。

対象となる森林は、スギやヒノキなどが植林された森林のうち、荒廃が進むおよそ450万ヘクタールの人工林で、全ての森林の20%近くに当たります。
そして去年暮れに税制改革大綱できまった、納税者一人あたり1000円。年間620億円の森林環境税を、その費用として当てることにしました。

これをどう考えればいいのか。
温暖化で異常気象が日常化し、山崩れなどが頻繁に起きる昨今です。
森林が、山を保全し水を浄化するなどの役割をもつことや、二酸化炭素を吸収することを考えれば、その役割を十分に発揮させる仕組みを導入することに異論はありませ。

問題は、本当にこの仕組みが機能するのかです。
所有者、市町村、事業者それぞれに課題があります。

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まずは、市町村の体制整備です。
市町村は管理が適切に行われていない森林を特定し、所有者に意向を聞いた上で、集積のための計画を作らなければなりません。
また利益が出そうにない森林については、自らが管理を行うことになります。

ところが、市町村の森林担当者は、全国でも3000人程度で、40%の市町村には、担当者が一人もいない状況です。
仕組みの要となる市町村がこれでは、事業は上手くいくはずがありません。担当者の育成を急ぐ必要があります。

また、作業を引き受ける事業者、その数の確保が急務です。
今回事業者には、委託された森林を、効率的に管理し、利益を所有者に還元することが求められています。
しかも木を伐採したら、売り上げで植林を行い、少なくとも15年間は間伐など森林を管理しなければなりません。

木材価格が低迷する中で、人手不足も深刻です。こうした中で利益を出せる事業者が全国にどれだけいるのかです。

そしてなにより、所有者が森林を預けてくれるかです。
今回、所有者には、森林管理の責務が明確化され、自ら管理を行わない場合は、市町村への委託が、半ば、強制的に求められます。

しかし所有者には、自分の山について、あれこれ言われたくないという気持ちがあるでしょう。
管理が行き届いていないとはいえ、無理に委託を迫れば、地域の反発を招き兼ねません。

このように課題が山積するなか、林野庁は、今後20年をかけて、管理されず眠っている森林の整備を進めていくとしています。
国民としても、毎年620億円の税金を投入するわけですから、成果を上げてもらわないと困ります。

そのためには、まずは所有者に山を委託してもらい、動かすことです。
その一つのヒントが岡山県にあります。

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ここは岡山県の北東部、西粟倉村です。人口およそ1500人で、ムラの95%が森林に囲まれ、林業が主な産業です。この村が2009年から取り組んだのが、森林バンクの先駆けともいえる「百年のもり」事業です。

役場は村の人から森林を預かり、道路などを整備して木を間伐するなどの管理を請け負います。
目指したのは、森林を起点とした、林業の高付加価値化です。切り出した木材は住宅用建材や家具などの商品に加工。村独自のブランドを作り、木材をより高く販売することに取り組んできました。
若い人たちが作る家具は好評で、売り上げは年間8億円にまで伸びました。また、間伐材を販売した利益は、半分を山の所有者に還元。その結果、役場が預かる森林は、年々増えているといいます。

こちらが、その西粟倉村が管理を引き受けた森林の面積です。
最初は戸惑った所有者も、間伐材などを売った利益が還元されるにつれ、その面積は8年間で5倍に増え、村の人工林の半分に達しました。

取り組みが成功した秘訣は、需要をうまく作ったことだと思います。
村では切り出した木を、そのまま出荷してきたやり方を転換。
家具や住宅用建材に加工するだけでなく、残りは燃料に使うなど木をすべて村内で使い切ることにしました。

村にはいま、木を使った様々なベンチャーが次々と生まれ、村外からの移住者は130名に上ると言います。
木を切り出すだけでなく、需要まで考えてビジネス化したことが、眠っていた森を動かし、村を活性化することにつながったという訳です。

今回成立した森林経営管理法、中身は、あくまで山を整備する法律でしかありません。
整備して切り出した木材をどう使って、地域の活性化につなげていくのか。需要まで含めた取り組みが、求められてくると思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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