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「変貌するPKOと日本の役割」(時論公論)

増田 剛  解説委員

世界の紛争地で、停戦の監視や治安維持などを行い、紛争の平和的な解決に取り組んできた国連のPKO・平和維持活動。
このPKOに参加するため、アフリカの南スーダンに派遣された陸上自衛隊の部隊が撤収を完了してから、今月末で1年になりました。
PKOは、去年、過去25年で最悪の数の犠牲者を出すなど、その環境は、かつてよりはるかに危険になっています。
PKOの現状と日本が果たすべき役割について考えます。

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今年は、1948年にPKOが発足してから70年の節目の年。

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3月末現在、世界では、14のPKOが展開し、124か国の
10万4000人が参加しています。

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そして5月29日は、国連平和維持要員の国際デー。PKOデーです。ニューヨークの国連本部では、毎年、セレモニーが行われ、事務総長が殉職した平和維持要員を悼む花輪を捧げ、その栄誉を称えるメダルを贈呈します。

今年は、グテーレス事務総長が、この70年間に犠牲になった3700人以上を追悼し、要員の安全確保に向けた改革への決意を表明します。
PKOは、冷戦時代、国連が紛争当事者の間に立って、停戦の監視を行うことにより、紛争の再発防止を図る活動として始まりました。
当初は、軽武装の部隊が、国連の権威のもとで、中立の立場から停戦監視を担いました。これが「伝統的なPKO」です。
冷戦が終結すると、国連は、より多くの役割を期待されるようになります。PKOは、伝統的な停戦監視に加え、平和構築の任務も担うようになりました。兵士の武装解除や社会復帰、選挙監視といった任務です。ただ、こうした任務は、停戦後、長期にわたって紛争地域への関与を続けることを意味し、結果としてPKOは、和平を妨害する勢力への対応を求められることになりました。こうした流れの中で、90年代、PKOは、各地で困難に直面します。特に衝撃的だったのは、1994年、アフリカのルワンダで起きた大虐殺です。80万人の住民が殺されたといわれますが、PKOは、これを止めることができませんでした。この反省から、PKOは、任務遂行に必要な能力や装備を持つべきだとされ、住民保護のためには、中立の立場を逸脱しても、積極的に武力介入することが求められるようになります。
これが「強化されたPKO」です。
しかし、この強化されたPKOも、現代の紛争地の厳しい現実に直面しています。

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戦後のPKO要員の犠牲者数をまとめたグラフです。90年代前半に2回目のピークがあり、一旦収まったものの、近年、また増えています。2011年以降、現在にかけての時期は、「第三の波」と呼ばれています。アフリカのマリやダルフールのミッションが非常に危険なことが背景にあります。

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また、こちらのグラフを見ますと、2013年から17年にかけて、およそ200人が、武装勢力による攻撃や地雷で死亡しました。
最も犠牲者が多かったのは、マリのミッションで、91人。自衛隊が派遣された南スーダンも、13人が死亡しています。
こうした現状をふまえ、国連は、ことし1月、PKO要員の安全確保を目的にした報告書を発表しました。

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とりまとめたのは、ブラジルのクルーズ退役陸軍中将で、クルーズ・レポートと呼ばれています。
このレポートが主張しているのは、「国連のブルーヘルメットや旗は、もはや要員の安全を守らない」ということ。現代の紛争においては、国連の権威は通用しないということです。PKO部隊の象徴である青いヘルメットは、武装勢力に対し、水戸黄門の印籠のような効果を発揮しないのです。
従来、PKOは、紛争当事者が国連の権威を尊重することを前提に、要員の安全が担保されてきました。近年は、それが失われているのが実態です。その上で、クルーズ・レポートは、「敵対勢力は『武力』以外の言葉を理解しようとしない」と強調します。
現代のPKOは、平和的解決を前提にした思考を改め、現実をふまえて、訓連や装備を強化しなければならない。必要な時には武力行使も辞さない、より強いPKOになるべきだと提言したのです。

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日本は、1992年以降、これまでに27回、1万2500人以上の要員を、PKOや選挙監視といったミッションに派遣してきました。しかし1年前、陸上自衛隊の施設部隊が、南スーダンPKOから撤収したことで、現在は、司令部要員4人を、南スーダンの首都ジュバに残すのみ。部隊派遣はありません。
積極的平和主義を掲げる安倍政権は、PKOへの部隊派遣を日本の国際貢献の象徴としてアピールしてきました。このため、南スーダンからの撤収後、政府は、新たな派遣先を模索していますが、外務省や防衛省の幹部は、適当な派遣先は見当たらないと口を揃えます。
背景には、日本の自衛隊の武器使用の基準が、憲法9条のもとで、極めて抑制されているため、治安情勢が厳しく、武器使用が前提になるミッションでは、参加が難しいことがあります。

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憲法9条は、海外での武力行使を禁じています。そして、それを担保するための日本独自の法理論が「PKO参加5原則」で、▽紛争当事者間の停戦合意や▽自衛隊の活動に対する紛争当事者の受け入れ同意、▽必要最小限の武器使用などを参加の条件としています。
自衛隊が2012年から5年余り活動した南スーダンでも、この間、政府軍と反政府勢力の衝突が相次ぐ状況となり、5原則との整合性が国会で問題になりました。当時、日本政府は、反政府勢力を紛争当事者とは認定せず、法的な意味での「戦闘行為」は発生していない、5原則は維持されていると主張しましたが、結局、去年3月、安倍総理は、部隊の撤収を決断しました。「自衛隊の活動に一定の区切りをつけることができた」というのが理由でしたが、「治安情勢がさらに悪化すれば、5原則に抵触する状況になりかねない」という判断もあったものとみられています。
では、日本は今後、国際貢献にどのように向きあうべきでしょうか。
私は、治安維持が主眼となるようなミッションは難しくても、日本の得意な分野、施設整備や輸送などに特化した貢献は、積極的に行うべきだと思います。直接、部隊を派遣しなくても、教育訓練を通じて間接的に貢献するやり方もあるでしょう。

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例えば、日本が参加している国連ミッションに、ARDEC・アフリカ施設部隊早期展開プロジェクトがあります。
PKOでは、重機を操作できる要員が不足しています。このため日本は、2015年から去年にかけて、自衛官83人をケニアの訓練センターに派遣、アフリカ5か国の130人に、重機の操作や整備の教育を実施しました。教育を受けた要員は、各地のPKOに派遣され、施設整備などの活動に取り組みますので、日本は間接的にPKOに貢献することになります。日本は、今年もこの事業を続ける予定です。
また、PKO司令部への幕僚の派遣を継続・拡充し、人材を育成することも重要でしょう。
さらに、国際社会で、PKO改革に向けた議論がどのように行われ、現場の変革がどのように進むのか、情報を把握した上で、それに対応できるよう、国内で議論を深めておくことも大切です。
日本にふさわしい国際貢献とは何か、部隊の派遣が途絶えている今だからこそ、国民全体で議論し、考える機会にすべきだと思います。

(増田 剛 解説委員)

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