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「新潟県知事選挙告示」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員
水野 倫之  解説委員

(伊藤)
前の知事の辞職にともなう新潟県知事選挙が、きょう告示され、17日間の選挙戦に入りました。
この選挙は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼動問題が、大きな論点になるとともに、その結果が、国政にも大きな影響を与えるものと見られています。
原子力担当の水野解説委員とともに、選挙の焦点を考えます。

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(伊藤)
新潟県知事選挙に立候補したのは、届け出順に、ごらんのいずれも無所属の新人3人です。

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今回の選挙で、自民党と公明党は、「地方選挙の一つだ」として、政党色を抑えながら、元海上保安庁次長の花角氏を支援することにしています。
これに対し、立憲民主党、国民民主党、共産党、自由党、社民党の5党は、「安倍政権への審判の場になる」として、元新潟県議会議員の池田氏を推薦し、野党統一候補と位置づけて選挙戦を展開することにしていて、事実上、与野党が対決する構図になっています。
水野さん、こうした構図の中で、今回の知事選挙で、大きな焦点となり、全国的にも注目を集めているのは柏崎刈羽原発の再稼動問題ですね?

(水野)
東電は6号機と7号機の再稼働を目指していて、すでに去年の暮れに審査には合格していますが、米山前知事が慎重な姿勢だったこともあり、再稼働の見通しは全く立っていない状況です。
全国的にも注目を集めるのは、これまで再稼働した原発とは違って特別な原発だからです。
まず福島の事故を起こした東電の原発だということ。
そして国や東電が、事故処理に欠かせない原発と位置づけている点です。
福島の廃炉や賠償には22兆円かかると見積もられ、東電は16兆円を負担しなければなりません。柏崎刈羽の6号機と7号機が再稼働すれば年間2千億円という大きな利益が見込まれますので、稼ぎ頭として国や東電は再稼働へ大きな期待を寄せているわけです。

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(伊藤)
今回の選挙では、各候補とも、再稼働には慎重な姿勢を見せていて、必ずしも明確に対立しているわけではないようですね?

(水野)
与党が推す候補、野党が推す候補とも、これまで新潟県が行ってきた福島の事故の検証作業を続けるとしていて、それまで再稼動の判断はしないと述べています。
ですので焦点は、検証作業を具体的にどのように継続するかという点になってくると思います。
新潟県はこれまで、福島の事故の原因や対応、避難計画の実効性、それに事故の健康や生活への影響を調べる3つの委員会を設置して検証を続けてきました。
実はこの検証作業、これまで大きな成果を上げています。
事故直後、東電はメルトダウン・炉心溶融を認めようとしませんでしたが、その理由については事故調査委員会の調査でもはっきりしませんでした。ところがその後新潟県が粘り強く検証作業を続けた結果、当時の社長が「溶融と言うな」と隠蔽を指示していたためだったことがわかったんです。
また現在、事故の検証を続けているのは事実上新潟県しかなく、貴重な取り組みとなっています。
各候補とも検証作業を続けるとは言っていますが、具体的にどう続けるのか。
これまでと同じ体制で続けるのか。新たに独自の検証チームを加える考えはあるのか。
いつまでにどのように進めていくのか。
具体的に明らかにして活発な議論を行い、判断材料を示していってもらいたいと思います。

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(伊藤)
ただ、この検証作業については、特に再稼動を推進する側から、規制委が専門的見地で安全性や東電の適格性を判断しているのに、あらためて検討する必要があるのかという批判もありましたが、この点はどうですか?

(水野)
確かに、いたずらに再稼働判断の先延ばしをしているに過ぎないという批判がありました。ただ規制委自身も、審査に通ったからといって100%の安全はないといっていますし、住民の避難計画についてはどこも法令に基づく審査は行いません。
ですので自治体が自分たちの目線であらためて確認したいと思うのはごく自然なことではないかと思いますし、特に今回東電の原発と言うことで、その適格性についても、まだ決着がついたわけではありません。
規制委は審査で、東電が福島の廃炉を抱えながら柏崎刈羽を安全に運転できるのかを問題にしましたが、東電が「安全性より経済性を優先することはない」などと覚悟を示した文書を提出すると適格性を認め合格させています。
当時、米山知事は「覚悟を持って当たるから大丈夫」というのであれば審査はいらないと疑問を呈し、検証委員会の中で適格性を確認する考えを示していました。
やはりこの東電の適格性についての各候補者の考えも、選挙戦で明らかにしてほしいと思います。

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そして、伊藤さん。今回の知事選挙は原発だけでなく、国政にも大きな影響を与える選挙と言われていますね?

(伊藤)
まず、新潟県では、全県を対象にした選挙で、これまで与野党が激しい戦いを展開してきたという点があります。

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平成28年7月の参議院選挙では、定員1人のところ、野党側が推薦した候補が、大接戦の末、自民党の候補を破って当選。
その3ヶ月後の知事選挙では、野党側が推薦した前の知事の米山氏が、与党側が推薦した候補を破って当選。
さらに去年の衆議院選挙では、県内6つの小選挙区のうち4つで野党系の候補が当選しました。
安倍総理大臣のもとで、自民党が全国規模の国政選挙で5連勝という「自民1強」が続く中で、新潟県は、野党側が自民党と互角以上の戦いをしてきました。新潟県のこの流れが続くのかどうかが焦点になります。

(水野)
今回の知事選の投票日が今の国会の終盤の時期と重なりますが、この点の影響はどうでしょうか。

(伊藤)
知事選の投票日は来月10日。現在開かれている通常国会の会期末は来月20日。国会が大詰めを迎える中で選挙戦が行われます。与野党が事実上対決する構図になっているだけに、財務省の決裁文書の改ざん問題や、森友・加計学園をめぐる問題、さらに働き方改革関連法案をはじめとする重要法案の取り扱いなど、国会での与野党の攻防を有権者がどう捉えるかが選挙戦に影響すると見られます。そして、その選挙結果が、与党側、野党側のいずれに追い風になるのか、最終盤の国会の情勢に影響する側面があるのです。

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さらに、選挙の結果は、来年の参議院選挙に、与野党が、どう臨むのかにも関係してきます。
参議院選挙では、45の選挙区のうち、32が、定員が1人の1人区で、ここでの勝敗が、選挙全体の結果を左右すると言われています。前回、2年前は、与党が21勝、野党が11勝で、与党が10議席の差をつけました。
自民・公明両党は、野党側が一定の基盤を持つ新潟県の知事選挙で勝つことで、内閣支持率で「支持しない」が「支持する」を上回る状況に歯止めをかけ、地域の支持層を着実に固めていきたいとしています。
一方、立憲民主党など野党5党は、この知事選に勝って、存在感を示したいところです。選挙協力が効果をあげるかどうか、選挙結果は、参議院選挙に向けて、野党共闘をどう進めるかを考える重要な指標になります。

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水野さん、この選挙戦が、全国に与える影響をどうみますか?

(水野)
焦点の柏崎刈羽原発の再稼働問題は何も新潟県だけの問題ではないと思います。
というのも発電した電気は新潟では消費されず、東京など首都圏の人たちが使います。
また東電が福島の事故処理費用をまかないきれなければ、その負担は全国の消費者に及ぶおそれもあります。その意味で、今回の知事選が多くの国民が再稼働問題を考えるきっかけになることを期待したいと思います。

(伊藤)
新潟県知事選挙は、原発の再稼動問題、国政への影響に加えて、人口減少が進む中での地域振興のあり方、また、前の知事が女性問題で辞職したこともあり、県政をどう立て直すのかなど、多くの論点があります。来月10日の投票日に向けて、論戦が、どう展開していくのか、しっかりと見ていきたいと思います。

(伊藤 雅之 解説委員 / 水野 倫之 解説委員)

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