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「選手会見から見えた日大アメフト問題の核心」(時論公論)

刈屋 富士雄  解説委員

最大の謎が本人の口から、語られました。
社会問題化していた、日本大学アメリカンフットボール部の選手が、無防備な状態の選手に後ろからタックルをして怪我を負わせた問題、なぜあのような重大な反則行為が行われたかが最大の焦点でしたが、今日、タックルをした日大の選手が記者会見をし、細かく反則行為にいたる経緯や心理状態を説明しました。

私も35年にわたってスポーツを取材したきましたが、教育の場である大学スポーツで、監督などチームの責任者が説明責任を果たす前に、20才の学生の選手本人が記者会見して、自ら追い込まれた状況を説明し謝罪するという異常なケースはこれまで見たことはありません。
今回のケースは日本の大学スポーツの抱える課題が象徴的に現れた形とも見ることが出来ます。
会見から見えた今回の問題の核心を考えて見ます。

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解説のポイントは、まず今日の記者会見のポイントを整理します。
そして責任の所在を改めて確認します。
更に今回の問題が問いかけた大学スポーツの在り方を考えます。

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反則行為をおかした日大の選手は、今日の記者会見を、自らあの日の真相を語ることが謝罪とつぐないの第一歩になるとしました。そして、当時の監督、コーチの指示で反則行為に臨んだ経緯と心理状態を説明しました。
この試合の3日前に闘志が足りないことを理由に練習から外され、日本代表の辞退も命令されました。
反則行為を行った関西学院大学との定期戦もスタメンに名前がなく、相手の司令塔をつぶせば出してやるといわれたということです。
当時の監督からは「やらなければ意味がない」と言われ、コーチからは、「出来ませんでしたではすまされない」と念を押されたと言うことです。

日大アメフト部は、最初の回答で「厳しくやれ」と言う指示を選手が誤解したと言うニュアンスの説明をしていますが、コーチから「秋のシーズンで相手の司令塔が怪我していれば得だろう」とまで言われていることや、反則行為の後、自責の念に耐えかねている選手に、「相手のことは考えなくていい、やさしすぎるところがダメなんだ」と声をかけているところから、チームとして、意図的にライバルチームの要の選手に怪我を負わせにいったことは、今日の会見を聞く限りでは疑いようのないと思われます。
怪我を負わせてしまった選手は、退場させられた後、事の重大さを自覚し、「監督やコーチの指示やプレッシャーがあったとしても、正常な判断をすべきだった。練習から外されるのが怖くて、ちゃんとした判断ができなかったのは自分の弱さ。もうアメフトをやる権利はない、二度とアメフトをやるつもりはない、謝罪とつぐないなど責任を果して行きたい」と語りました。

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今回、大学のアメリカンフットボールの定期戦の一つの反則行為が、何故こんなに大きな社会問題化したのか、不思議に思っている方も多いと思います。その原因は2つです。
一つは、その反則行為の重大さ、もう一つは日本大学の対応の遅さです。

今回の反則行為を他の競技にたとえて見ますと、ボクシングの試合でラウンド終了のゴングが鳴ってコーナーへ戻ろうとする選手を後ろから殴るような卑劣な行為ですし、相撲で言えば、ダメ押しをされて土俵下に落ちた力士を、更に後ろからぶちかますほど危険な行為といえます。
更にライバルチームの要の司令塔の選手を狙っていますので、野球で言えば相手のエースピッチャーがバッターとして打席に立った時に、構える前に頭を狙って投げるくらい悪質な行為です。
つまりこれはスポーツとは言えない、スポーツとは別の暴力行為が行われたともとれる極めて重大な問題です。
そしてその悪質なタックルのショッキングな映像が、インターネットで拡散したことによって、これまで当事者しか分からなかった問題が、社会問題化しました。

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更に日本大学の対応の遅さが問題を大きくしています。

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悪質なタックルは今月6日の定期戦で行われました。
4日後には、関東学連から悪質なプレーに暫定的な処分が下されています。この時点で、日大の責任者が相手の関学に謝罪と説明に行っていればこれほど大きな問題にはならなかったと思います。
謝罪も説明もないため関西学院大学は、2度にわたって会見し謝罪と真相の究明を求めました。
ようやく当時の日大の監督が謝罪と辞任を表明したのは2週間後の19日でした。ただこの時も、責任者としての説明はなく、このままだと真相究明は難しいと判断した被害者の選手の家族が警察に被害届を提出、そして、今日の日大の選手の会見になったわけです。
24日までに日大は文書で答えるとしていますが、中途半端な回答では、自らを追い詰めるだけです。この対応の遅さは、事の重大さを認識していないのではと言う批判も起きていますので、踏み込んだ回答が必要です。

今回、今日会見した日大の選手は、指示されたとはいえ、正常な判断が出来ず実行してしまった責任は重いとアメフトをやめ、反則行為の責任をとっていくと語りました。

しかし今回の最大の責任は、日大アメフト部と日本大学にあります。
更に部を指揮していた監督・コーチにあることは疑いのないところです。
重大な反則行為をチームとして指示していたとみられ、ましてや反則行為を行った選手と、問題が表面化した後も、ろくな話し合いもしていません。

そして、半世紀にわたって大学アメフト界の頂点を争い、ファンからは最高のライバルと評されてきた関学の信頼を踏みにじった行為は、多くのスポーツファンを失望させました。大学日本一21回の名門が、低迷している間に、その誇りすらも捨ててしまったのかと言う声も出ています。

まずはチームとして真相を解明し、説明責任を果たして、再発防止策をしっかりと打ち出す必要があります。

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日本大学や第三者委員会、更に関東学生連盟などチームの外の組織が、外部からも真相を確認し、再発防止のための道を探る必要があると思います。
そのためには、いったん活動を停止して、チームの体質を刷新し、一から出直すことも必要だと思います。

今回の問題は、大学スポーツの抱えている問題点が象徴的に現れたともいえます。本来大学スポーツは、スポーツマンシップを学び、フェアプレーの精神や自らへの挑戦など人格の形成、人間教育が第一の目的です。
その通り活動している多くのクラブはありますが、中には、昔ながらの過剰な上下関係で、理不尽なことがまかり通ったりしています。
又大学の広告塔の役目を負わされたり、OBからの強いプレッシャーを受けて、行き過ぎた勝利至上主義にはしったりするところもあります。強いところほどその部分が残っているケースがあり、勝つことがすべて、そのためには手段を選ばないというチームの常識が出来てしまう場合もあります。

日本のスポーツ界にとって大学スポーツが何よりも大切な理由は、大学でスポーツを学んだ選手が、全国で指導者として活動することであり、各競技団体の中核を背負うことです。大学のスポーツの改革なしに日本のスポーツの未来は在りません。
チーム任せにするのではなく、大学がもっと責任を持つべきだと思います。
又スポーツ庁も、アメリカの大学スポーツを管理指導する全米大学体育協会NCAAの日本版を来年にも創設したいと準備を進めています。
個別の大学に任せるのではなく、大学や競技団体を横断する組織をつくり、大学スポーツの改革を進めていこうというものです。

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二度と今回のアメフトのようなことが起こらないように、スピード感のある改革を求めたいと思います。

(刈屋 富士雄 解説委員)


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