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「中国ハイテク狙い撃ち 米中経済摩擦」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

アメリカと中国の経済摩擦が激しさを増しています。アメリカ政府がこれまでの輸入制限措置に続いて放った新たな制裁措置が、中国のハイテク企業を販売停止に追い込む事態となっています。  
中国に対して厳しい措置を矢継ぎ早に繰り出すアメリカの狙いと、中国がこれにどう対応してゆくかについてみていきたいと思います。

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解説のポイントは3つです。
1)    アメリカが狙い撃ちする中国のハイテク産業
2)    貿易戦争を望まない中国の事情
3)    経済摩擦の行方です

まずは米中の経済摩擦をめぐる最新の動きをみてみます。
中国の大手通信機器メーカー「ZTE」は先週、アメリカの制裁措置が原因で、主要な企業活動が止まっていると発表しました。

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ZTEは、ハイテク産業の発展で知られる中国南部深センに拠点をおき、通信機器やスマートフォンなどを生産。なかでもスマートフォンは世界第9位のシェアを誇り、アメリカや日本でも販売されています。ZTEのスマートフォンは、主要部品である集積回路をアメリカの企業から調達していました。ところがアメリカ政府は、先月中旬、ZTEがイランと北朝鮮に違法に通信機器を輸出したことを理由に、アメリカ企業がZTEに部品の販売を行うことなどを7年間禁止する措置を取りました。この結果、スマートフォンの製造が続けられなくなったものとみられます。影響はこのメーカーだけにとどまりません。
部品のうちディスプレイは、日本のメーカーから調達していましたが、スマートフォンの生産停止に伴って日本からの出荷にも影響が及びかねません。

日本企業まで巻き込むことになったこの問題で、アメリカ政府は、今週に入ってZTEに対する制裁の緩和を検討していることを明らかにしました。

しかしアメリカのメディアは、制裁の緩和は、中国がアメリカの農作物に課している関税を撤廃することなどが交換条件となっていると伝えています。そこには、アメリカ政府が様々な取引材料を駆使しながら、中国市場開放をせまるトランプ流の交渉術がうかがえます。ここで米中経済摩擦のこれまでの経緯を振り返ります。

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最初の矢が放たれたのは、今年3月。中国などからの価格の安い鉄鋼製品などがアメリカの安全保障を脅かしているなどとして、海外からの鉄鋼製品に25%、アルミ製品に15%の関税を課しました。そして第二の矢。先月には、中国がアメリカの知的財産権を侵害しているとして、通商法301条に基づく制裁措置を発表しました。アメリカは、中国に進出する企業が技術移転を強要されることや、国家主導の経営統合で巨大化した国有企業が、最新技術をもつ西側諸国の企業を買収するなど、公正な競争が行われていないと主張しています。制裁の内容は、航空宇宙や情報通信、それにロボット関連など中国が育成に力を入れている最先端の産業を中心に、およそ1300品目に25%の関税を課すというもので、制裁の対象となる輸入額の規模は、去年の輸入額でみると500億ドル日本円で5兆円あまりにのぼります。

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そして第三の矢、今回のZTEも、ハイテク産業を狙い撃ちしています。こうしてみると、アメリカは、中国政府が国家主導で育成するハイテク産業の伸長に待ったをかけ、アメリカの優位を維持したいという思わくが透けて見えます。

次にこうしたアメリカ側の攻勢に対する中国の対応を見ていきます。

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中国はまず鉄鋼製品などの輸入制限措置に対し、報復措置を発動。アメリカから輸入される果物や豚肉などに15%から25%の関税をかけました。さらにアメリカが知的財産権の侵害を理由に打ち出した制裁措置に対し、アメリカから輸入する航空機や大豆、自動車など106品目に対して25%の関税を課す報復措置を準備していることを明らかにしました。対象となる品目を去年の輸入額でみるとおよそ500億ドルにのぼり、アメリカの制裁措置に匹敵する規模となっています。
ところがアメリカ側のトランプ大統領は、攻撃の手をゆるめませんでした。中国製品に高い関税を課す輸入品の規模を、500億ドル相当から3倍の1500億ドル相当に増やすことを検討するよう指示しました。まさに報復が報復を呼ぶ最悪の展開となっています。
これに対し、習近平政権は、アメリカとの正面からの貿易戦争はなんとかして避けたいと考えているようです。その背景の一つが、お互いの国からの輸入量の差です。

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中国政府の統計によると、去年1年間にアメリカが中国から輸入した額は4300億ドルだったのに対し、中国がアメリカら輸入した額は1540億ドルにとどまっています。そして中国側のやや及び腰の姿勢は、中国政府の発したコメントからもうかがえます。
アメリカが知的財産権をめぐって最初に500億ドル規模の制裁措置を発表したコメントには、「同じ規模の対抗措置をとる」として、実際に500億ドル規模の対抗措置を発表しました。ところが、トランプ大統領がその規模を3倍の1500億ドルに増やすことを検討することを発表した際には「同じ規模の対抗措置」ではなく「新たな総合的な対抗措置をとる」という表現に変わりました。1500億ドルといえば、アメリカからの全輸入量にほぼ匹敵します。それだけの輸入品に高い関税をかければ、中国国内の物価は一気に上昇し、中国共産党が最も恐れる社会不安を招くことにもなりかねません。さらに中国が国内の景気にマイナスの影響が予想される構造改革を進めている中で、頼みの輸出が減れば、成長が一段と鈍ってしまうと考えていることも、貿易戦争を避けたい要因となっています。

では、中国側はどうやって貿易戦争を回避しようとしていくのでしょうか。一つの解決策が、アメリカが求める中国の市場開放を行っていくことです。

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習主席は、先月、中国の海南島で開かれた国際フォーラムの場で、自動車関税の大幅な引き下げや、証券や保険など金融分野で外国企業が参入できる事業を拡大することなどを打ち出しました。自動車や金融といえばいずれもアメリカが高い関心を示しているもので、アメリカの意をくんだようにもみられます。
しかし、相手が少しでも譲歩する姿勢をみせれば、そこにつけこみ嵩にかかって攻めてくるのがトランプ流です。

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トランプ政権は、これまでアメリカの対中貿易赤字が1000億ドル減るように中国側に対応を求めていました。それが、今月上旬に北京で行われた米中間の閣僚協議では、赤字の削減要求額を二倍の2000億ドルにひきあげたのです。さらに、中国政府によるハイテク産業への補助を停止するよう求めたとも伝えられています。これは中国の産業政策を否定することにほかなりません。交渉のハードルをあげるだけあげて、最大限の成果を得ようという狙いがあるものとみられます。  
しかし、メンツを重んじる中国が相手では、これが逆効果となりかねません。とりわけ、習主席にとっては、国内で権力集中を強め、自らの権威を高めようとしている中で、アメリカの要求に屈したと受け取られるのはなんとしても避けたい事情があるからです。

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秋の中間選挙を控え有権者の支持拡大を狙うと同時に、巨大なライバルの成長の芽をつもうというトランプ大統領。一方、権力基盤の強化をはかるなかで簡単にはゆずれない習国家主席。

しかし、本格的な貿易戦争が始まれば、両国、そして世界各国の経済を混乱に陥れ、双方とも重大な損害を被ることになります。それがわかっているなかで、どのようにしたらお互いの体面をたもつ形で収拾をはかることができるのか。ぎりぎりの交渉が続くことになりそうです。

(神子田 章博 解説委員)

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