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「日中関係仕切り直しの今後」(時論公論)

島田 敏男  解説委員
加藤 青延  解説委員

(島田)
今週、東アジアでは地域の将来を左右する大きな外交の動きが相次ぎました。
来月12日に決まった米朝首脳会談を前に中朝首脳会談、日中韓3カ国の首脳会議と続き、これまで膠着していた感のある日本と中国の関係も仕切り直しで動き始めました。
中国担当の加藤解説委員と共に日中双方の思惑を探りながら、この先を考えます。

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(島田)
加藤さん、李克強首相は8日に日本に到着し、一連の首脳会談などの後、日本政府の公賓として北海道を訪問して、きょう帰国しました。
安倍総理も北海道まで同行する歓迎振りでした。中国側の受け止めはどうですか?

(加藤)
中国側としては今回の訪問を、一時冷え込んだ日中関係を、元に戻す転機にしようというねらいがありました。中国の首相が日本を訪れるのは7年ぶり、公式訪問としては実に8年ぶりだったのですが、日本側から手厚いもてなしを受け満足しているのではないかと思います。

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(島田)
安倍総理が最初に就任した2006年当時は、小泉総理の靖国神社参拝などで日中関係が冷え込んでいましたので早々に中国を訪問して「戦略的互恵関係」つまりウイン・ウインの関係を軸に立て直しを図りました。
その後、民主党政権が2012年に尖閣諸島を国有地にして、関係は再び冷え込みました。
加藤さん、今回の安倍総理と李克強首相の首脳会談や記者会見では「戦略的互恵」という言葉をことさら繰り返すことはなかったですね?

(加藤)
そうですね。私はむしろ安倍総理が共同会見で、これから日中両国は「競争」から「協調」の関係に向かうと、関係の「変化」を語ったことに注目しました。日中双方の間には、年内の安倍総理の訪中、そしてその後の習近平国家主席の訪日という流れ進める中で、これまでの戦略的互恵関係をさらに発展、バージョンアップする形で、新たな段階の日中関係を築こうと考えているのではないかと思います。

(島田)
確かに今回の首脳会談では、経済分野での協調を進める姿勢が目立ちました。

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最も鮮明に現れたのは、日中双方の民間企業が第3国のインフラ整備で協力するために、官民合同の新たなフォーラムを設立するという合意です。
加藤さん、中国側はこの合意は自分たちが求めていた「一帯一路という経済圏構想に対し、日本が具体的な協力を約束した」と受け止めているんでしょうか?

(加藤)
そうだと思います。第3国のインフラ整備に日中が協力するといっても、中国側にしてみれば、中国の他国へのインフラ整備事業の要は、まさに「一帯一路」ですから、事実上、一帯一路に日本が協力することを意味すると受け取っているものと思います。

(島田)
この一帯一路への協力については、日本政府の関係者の中にも中国の覇権主義に飲み込まれかねないと警戒する見方もありました。しかし安倍総理はそのカードを切ったわけです。この背景には国内政治の行き詰まり、つまり公文書改ざん問題などで沈みがちな政権を、外交の成果で浮揚させたいという狙いが窺えます。
安倍総理は、第1回のフォーラムを自らが訪中した際に開催すると表明しました。

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ことし9月までに行われる自民党総裁選で連続3選を果たした上で、年内にも中国を訪問したい。つまり、外交を梃子に長期政権を目指そうという構えです。

(加藤)
一帯一路への協力については大まかに二つの注意点があると思います。

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ひとつは、「一帯一路」が、中国の影響力拡大の道具となることへの警戒です。日本としては、あくまで支援される地元の国々が本当に望んでいることかどうかで判断することが大切です。
もうひとつは、経済的に見合うかどうかを見極めることも必要です。インフラ整備になど対する途上国の需要は非常に大きいのですが、うっかり危ない案件に手を出せば、たちまち不良債権を抱え込むことにもなりかねません。その意味で、ケースバイケースで判断するという考えがもっとも有効だと思います。

(島田)
何でもかんでも日中協力優先というのは危険ですよね。
一方、安全保障の分野では10年前から協議してきた「海空連絡メカニズム」の運用開始が決まりました。

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海や空での偶発的な衝突を避けるために、防衛当局の幹部同士のホットラインを設けるといった緊急連絡手段などの取り決めです。
焦点の尖閣諸島周辺の扱いについては、「地理的な適用範囲を限定しない」ということで棚上げにして危険な衝突回避を優先させた形です。
中国側が、今回のタイミングで合意に踏み切ったのはどうしてでしょうか?

(加藤)
実は、つい最近まで中国の対外政策は軍事力の増強を背景に強気な姿勢が目立ちました。それが日本ばかりでなく、ベトナム、インドなど周辺の国々とのあつれきを産み、逆に中国警戒の包囲網形成の動きまで出てきました。ところが去年になって中国の姿勢が少し変わりました。「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ政権が登場し、アメリカが内向きに転じてきたことから、そのスキを突いて世界のリーダーを目指し始めたのです。そうなると逆に周辺国とは仲良くしたほうが有利だということで柔軟路線へ転じてきたのです。

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中でも、経済的に大きな結びつきがある日本との関係改善は、中国経済が安定した成長を維持してゆく上で欠かせないという思惑が働いているのだと思います。

(島田) 
だからと言って、全面的に信用できるわけではありません。
政府に近い日本の中国専門家も、中国は今後も尖閣諸島周辺の日本の領海に侵入することをやめないだろうし、日本の海上保安庁や海上自衛隊の艦船を上回る態勢を整えつつあるという見方をしています。どうでしょう?

(加藤) 
確かにそのような動きは、日本側に新たな警戒心を呼び起こすことにもつながっています。
そういう状況だからこそ、今年締結40周年をむかえる「日中平和友好条約」の精神、つまり両国は「すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」とした約束を、日中双方が改めて肝に銘じるべきだと思います。

(島田)
安全保障面で中国が最も神経を尖らせるのはアメリカ軍の接近で、それを牽制するために日本の南西諸島を含む第1列島線よりも東側に海軍力を展開することに拘るでしょう。

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従って、東シナ海からの出入りをより活発化することは避けて通れないのでしょうね?

(加藤)
中国にとって東シナ海は太平洋に出るための通り道ということになりますから、軍などの行動も、今後さらに活発化することもありえると思います。ただ東シナ海で新たな緊張状態を作り出せば、中国にとってもけっして得にはならないこともわかっていると思います。日中両国は、2008年の共同声明で「東シナ海を平和・協力・友好の海とする」ことも約束していますので、これもしっかり守れるよう共に努力するべきです。

(島田)
もう一つ日本と中国の今後を考えると、北朝鮮を巡る問題での協力も重要になってきます。
9日の共同会見で、李克強首相は「日本の関心事項の解決、日朝会談の実現を歓迎する」と述べました。この辺りを加藤さんはどう見ますか?

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(加藤)
共同会見で日本側が触れていないにもかかわらず、中国側があえて日朝会談に触れた意味は大きいと思います。つまり「もし、日本が北朝鮮と首脳会談を行うのであれば、中国はこれを支持する」というメッセージがこめられているのです。最近中国は、再び北朝鮮に大きな影響力を持つようになりましたので、今後、日本が拉致・核・ミサイルの問題解決のために北朝鮮に働きかけてゆく上で、プラスとなる要素を引き入れたといえるのではないでしょうか。

(島田)
東アジアの外交関係は、今、目まぐるしく動いています。
中国とアメリカが通商分野を中心に緊張感を増している情況の下で、日本が中国との関係を仕切り直した先の課題は何になるのか。
外交のありようが、それぞれの国の政権運営にも強く影響する局面が暫く続きそうです。

(島田 敏男 解説委員 / 加藤 青延 解説委員)

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