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「プーチン大統領はどう動く 政権4期目始まる」(時論公論)

石川 一洋  解説委員

 3月の大統領選挙で圧勝したロシアのプーチン大統領がクレムリンでの就任式で宣誓し、正式に2024年までの大統領4期目が始まりました。
アメリカとの出口の見えない対立などこれまでにない厳しい国際環境の中での4期目となります。これから6年間、プーチンのロシアがどこに向かうのか、考えてみます。

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 大統領の就任式は、日本時間の午後6時前、クレムリンの大会大宮殿で始まりました。プーチン氏がロシア憲法の規定に従って宣誓し、大統領に就任した後、次のように述べました。
「我々の政策の中心は、生活の質、人の幸せ、安全、健康だ。私たちの指針はロシアは人間のためにあり、それぞれが自己実現のための機会の国であるべきだ」
3月の大統領選挙では得票率76%、得票数5600万票という記録的な票を獲得し、国内的には圧倒的な支持を得ています。しかしその陰で外交、内政ともに困難が増しています。

 解説のポイントです。

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▼外交・アメリカとの関係を打開できるか
▼内政・ポストプーチンに向けた発展の道筋は見出せるか
▼日ロ関係をどう動かすか

 まずアメリカとの関係です。トランプ政権に米ロ関係打開を期待したものの、まともな首脳会談さえ開催されない状況となっています。お互いに外交官の追放合戦となり、今やモスクワ、ワシントンにある両国の大使館は機能不全状態に陥っています。厳しく対立した冷戦時代でも、お互いの大使を、敬意をもって扱い、例えばワシントンのソビエト大使はいつでもアメリカの国務長官と面会できたと言われます。核戦争の危機を避ける責任をそれぞれが感じていたからです。しかし今はその対話の窓口さえ崩れている状況と言えます。 今の米ロ関係が難しいのは、トランプ大統領がいわゆるロシア疑惑の中で動きが取れない状況にあることです。

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 ではプーチン大統領はこの手詰まりの米ロ関係をどのように打開に動くのでしょうか。
 私は、プーチン大統領は「様々な問題で対立しても、核大国として戦略対話は絶やさない」とのソビエト時代以来伝統的な米ロの対話の再開を何らかの形で呼びかけるものとみています。米ロそれぞれが核戦力の強化を掲げている中で、米ロが様々な種類の新たな核戦力を開発する軍拡競争に踏み出す恐れがあります。3月の年次教書演説でプーチン大統領は新たな核戦力、例えば原子力動力による巡航ミサイルの開発などを明らかにしました。プーチン大統領は、最新の核戦力の開発といういわば脅しを梃に、アメリカとの戦略対話の再開を呼びかけ、戦略対話を主要な議題として米ロ首脳会談を模索していると見られます。ただアメリカの外交チームが保守強硬派で固まったことがどのように作用するかは明らかではありません。

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 米ロ関係が厳しい中、ロシアにとって重要なのは中国との関係です。ロシアは戦略的なパートナーとして中国との関係を、軍事面を含めて強化してきました。その流れは変わりません。ロシアにとって重要なのは経済面で特にロシアは中国と協力して、ドルに依存しない決済システムの構築を最重点に進めていくはずです。ドル決済システムからの排除という制裁が両国の大きな脅威となっているのです。ただアメリカに対抗する同盟関係にまで深める意思は双方ともに特に中国にはありません。
中国でさえも同盟国とはなり得ない、ロシアは孤立した大国との意識を強めています。そのためプーチン大統領は多面的に外交を進めようとするでしょう。

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 その典型は中東です。ロシアはシリアのアサド政権を支援しながらも、シリア問題では対立するトルコ、サウジアラビアそしてエジプトさらにイスラエルとの関係をむしろ強化し、中東においてロシアと敵対する国はいないという状況を作り出しています。イスラエルとは対テロ、トルコとは原発などインフラ輸出、サウジアラビアとはエネルギー輸出国としての利益の調整、エジプトとは武器輸出と各国との利益が一致する部分を最大限利用して協力関係を築いています。

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アジアでも、中国一辺倒ではなく伝統的な友好国インドと東南アジア、そして日本を含む北東アジアに多面的な外交を仕掛けてくるでしょう。

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 さて内政・ポストプーチンの方向性です。
プーチン大統領の任期は2024年まで、憲法の規定では連続2期まで、つまり2024年にはプーチン氏以外の大統領が生まれます。もちろん憲法改正して三選という可能です。しかし就任式を前に反プーチンデモが全国で行われました。今は数は少ないものの、若者の間には停滞感や閉塞感も広がっており、プーチン大統領への批判が拡大する可能性があります。プーチン個人に依存する体制が長引けば長引くほど求心力が低下して、権力の移行が難しくなり、プーチン大統領が恐れる体制の転覆の可能性が生まれます。国民の支持が最大の今の時期に後継者を準備して、場合によっては早期に退陣して権力の以降をスムーズに行いたいというのがプーチン大統領の本意ではないかとみています。

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そこで重要なのが経済政策です。安全保障面での強硬な発言の陰に隠れましたが、大統領選挙の選挙綱領ともいえる年次教書演説では経済政策ではリベラルな政策を打ち出しました。その作成者の元財務相のクドリン氏が先月まとめた成長戦略です。資源中心の経済成長は限界と指摘し、国はロシア国民の優れた能力を十分に発揮させることに傾注すべきとしています。予算の分配の割合を大きく変えて、教育、健康、インフラへの予算を今の1.5倍に増やすべきだとしています。クドリン氏は大統領府の経済政策の責任者に任命される見通しで、プーチン大統領の意を受けての戦略であることは間違いありません。プーチン大統領が最後の任期という点を強く意識して、将来への成長をもたらした大統領としての功績を残したいとの意図が強く出たものと思われます。

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ポイントはこの成長戦略を実現するとしたら、軍事予算の削減は避けられないことです。私にはあたかも相矛盾する二人のプーチンがいるような気がいたします。一人は将来を見据えてロシアを変えようとするプーチンとアメリカに対する猜疑心に凝り固まり対決路線を取るプーチン、この矛盾をどうするのか。4期目を迎えたプーチン大統領の正念場と言えるでしょう。

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 最後に日本はこうしたプーチンのロシアをどのように受け止め、対ロシア外交を組み立てていけばよいのでしょうか。安倍総理は今月末ロシアを訪問します。北方領土問題で新しい発想に基づくアプローチの肝である共同経済活動をどのように平和条約につなげるのか、これまでの一対一の交渉を基礎に、しっかりとした道筋が見えるような話をすべきでしょう。
そして対米猜疑心に固まったプーチン大統領という面に対しては、安倍総理はトランプ・プーチン双方と信頼関係を活かして橋渡し外交を試みても良いでしょう。米ロ対立は冷戦時代のように真正面のイデオロギー的対立ではなく、互いの猜疑心のもたらす面が大きいからです。北朝鮮を非核化するためにも、ロシアの役割は大きく、米ロの不毛な対立を持ち込まないためにも、安倍外交の力を示すべきでしょう。
そして重要なのは経済改革を進め、国民の生活レベルを向上させたいというもう一つのプーチン大統領の側面です。まさにこれは日本が進めてきた医療、都市環境、産業の多様化など8項目の日ロ経済協力プランに合致するものです。経済を多様化して、中小企業を育て、国民一人一人の生活を向上させていくことが、ロシアに民主主義をしっかりと根付かせることになるでしょう。そのためにも日本の役割は大きいと言えます。

 ポストプーチンを睨みながら、プーチン大統領4期目が始まりました。孤立の道を歩むのか、独自性を維持しながらも新たな成長路線を歩むのか、ロシアは大きな分かれ道に入ったように思います。

(石川 一洋 解説委員)

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