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「迷走する大学入学共通テスト」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

大学入試センター試験に代わって2021年から導入される大学入学共通テストを最初に受験することになる生徒が先月、高校に入学しました。しかし、共通テストはいまだに問題点の指摘が相次ぎ、現実に受験する生徒を迎えた高校にとっても指導方針を固めきれない状況が続いています。こどもの日を前に、大学入学共通テストについて考えます。
 
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大学入学共通テストは、1点刻みの入試問題ではなく、知識を活用し、自ら判断する力を測るという大学入試改革の目的を実現するため、大学入試センター試験に代わって導入されます。この春、高校1年生になった生徒たちが受験年齢に差しかかる2021年1月が最初の実施となります。

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大学入試センターは、去年と今年、2回にわたって共通テストのプレテストを実施することで、新しいテストの趣旨を示し課題を検証して、本番に備えることにしています。センター試験から共通テストになることで大きく変わるのは、▽国語と数学にマークシートに加えて記述式の問題を導入すること、▽英語で「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を評価することです。このため、去年11月の1回目のプレテストでは、国語と数学に3題の記述式問題が出されました。英語の1回目のプレテストは、今年に入って別の日程で行われ、センター試験と同じマークシート式の試験は4技能のうち「読む」「聞く」の2技能に特化した形とする一方で、4技能を測る民間の検定試験の中から共通テストで受験可能なものとして7種類を認定しました。

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プレテストの採点結果がすべて出そろったのは、3月末になりました。結果を見ると、こうした大きな変更を伴う措置が、そのまま共通テスト実施に向けた問題点を露呈する形となっていて、1年生の高校生活1か月が経った今も状況は変わっていません。
どういうことなのか。まずは、記述式です。プレテストで、国語は、会話文と資料を読み解いた上で、25字、50字、120字の記述を求める問題が出されました。それぞれの正答率を見ると25字と50字は73.5%と43.7%でしたが、120字は0.7%となりました。

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数学は3問とも正答率が1割を切ったことに加え、そもそも半数前後の生徒は、問題に解答すらしていませんでした。

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大学入試センターは、「どこまで複雑な問題が可能か調べたもので、共通テストがこのままの難易度になるわけではない」と説明します。しかし、2回しかないプレテストの1回目の問題が関係者にどんなメッセージを伝えることになるかは重要です。極端に正答率が低くなれば、受験生の選抜には使えないという意見も出ます。差が付かないのなら最初から解くのを止めてしまおうと考える受験生が出ることも予想されます。それでは何のための記述式の導入かわからなくなります。

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記述式には、自己採点というもう一つの課題があることも明らかになりました。受験生は共通テストの自己採点を元に最終的な志望校を選びます。今回のプレテストでは、国語の記述式で採点結果と自己採点が一致しなかったケースが2割から3割に上りました。大学入試センターは「記述式はすべての受験生で自己採点と結果が一致するのは難しい」と認めています。それでは自己採点という制度そのもの、ひいては一次試験という共通テストの位置付けそのものを見直す必要が出てくるように思います。

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英語はどうでしょう。一言で言うと、さらに大きな問題を抱えています。
当初文部科学省は、共通テストの英語はすべて民間の検定試験を活用する方向で検討を進めていましたが、大学や高校側の要請もあり、今のマークシート式の試験を4年間継続することになりました。

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民間の検定試験で認定されたのは、こちらの7種類です。成績は英語の国際的指標である「CEFR」に換算した6段階評価と素点が大学入試センターを通して大学に示されることになっています。しかし当初から、そもそも試験の目的が異なる検定試験を指標にあわせて換算して入試に使うこと自体、無理があるという多くの専門家の声がありました。試験によって実施方法や実施場所、検定料も異なります。地域間格差や家庭の経済状況次第で受験回数が左右されるという指摘も出ていました。

その点はどうなったのか。認定された7つの試験を実施する民間団体の実施計画を見ると、試験の実施場所はもっとも少ない試験で6か所しかなく、受検料は5800円から26000円とまちまちです。試験会場や試験監督を確保できるのかという疑問や、確保できたとしてもむしろ検定料は高くせざるを得ないのではないかという新たな指摘も出ています。大学入試センターは共通テストで利用できる検定試験の結果を受験年度の2回に限るとしましたが、利用はできなくてもどの検定試験を何度受けるかまでの規制はありません。公正公平の面からの懸念は解消されるどころか、むしろ高まっているように思います。

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こうした懸念は、大学自体の共通テストの英語の扱いをめぐる迷走につながっています。全国82の国立大学で作る国大協・国立大学協会は、共通テストのマークシート式の試験と民間の検定試験の両方を課す方針を示した上で、検定試験の結果の扱い方について、成績の基準を▽出願資格とする、▽マークシート式の試験の得点に加点する、両方組み合わせて利用するとするガイドラインを公表しています。

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そうした中、東京大学で入試を担当する福田裕穂(ひろお)副学長が3月の記者会見で民間の検定試験の結果を活用しない方針を示しました。複数の異なる検定試験の成績を公正公平に比較することが難しいことなどが理由でした。ところが東京大学は、先週になって同じ福田副学長名でホームページ上に「民間の検定試験の具体的な活用方策について学内にワーキンググループを設置して検討する」などとする「入学者選抜に関する考え方」を公表しました。これでは3月に示した検定試験の問題点は何も解決していないが、見切り発車で活用はすると言っているに等しいのではないか。影響が大きい東京大学がこの期に及んで揺れるようでは、3年間を通して受験に向けた指導を進める高校自体の混乱につながり、受験生の不安を煽ることにもなりかねないでしょう。

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予備校や塾の関係者を取材すると、高校1年生の間には、大学受験制度が変わることへの不安から、「苦労して行きたい大学を目指すより、行ける大学を受ければいい」といういわば安全思考を口にするケースが本人からも保護者からもみられると言います。高校の先生たちにとっても、制度の問題点があやふやな状態では、行きたい大学を目指せという本来あるべき指導はしにくいでしょう。課題を克服するためのプレテストはあと1回しかありません。時間が迫る中、迷走する大学入学共通テストをめぐる論議が、本当に学びたいことを学ぶ子どもたちの主体的な学びを逆行させることを招くことが危惧されてなりません。

(西川 龍一 解説委員)

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